第22話 相方はエンタの神様かもしれない
ぱちぱちぱち
「いや、これもう神回でしょ」
はあ?
緊迫した空気が、一気に和らぐのがわかる。
そうさせたのは拍手しながらやってきたこの男……大柄な……って見たことあるぞ!?
この人は、テレビプロデューサーの津久間信明だ!
この動画のチャンネル主でもある。まあまあテレビとかでも顔を出すタイプなので、すぐにわかった。
俺が困惑してるのを見ると、嬉しそうに手をたたきながら声を張る。
「今回の企画は! 相方がめちゃくちゃライトな枕営業をしてたらドッキリ~!」
え? ドッキリ?
は?
俺なんかにドッキリをかけるなんて信じられない。
乃絵美を見る。
「ドッキリでした~!」
まじか!?
っていうか、全部じゃあ演技だったってこと?
だとしたら女優にもなれるじゃん。完璧か? かわいくて面白くて演技もできるのか? 芸能の神なのか? お前こそがエンタの神様なのか?
「ればさしさん、ネタバラシをお願いします」
あの津久間さんが「ればさしさん」って呼んでるぜ。まじかよ。結成2ヶ月でこんなことになるとは。
乃絵美はさっきまでの悪魔のような表情が嘘のように、天使のような笑顔だ。いや、嘘だったわけだが。
にっこにこの乃絵美は、俺にあはは~と手をふりふり、まあ雰囲気を明るくさせる。ホントに初めてのドッキリか? あまりにも達者すぎる。
「いや、ドッキリだよ~。見せないよ、ぱんつ~」
「え? 見せてたじゃん!?」
「履いてるの。短パンを」
そう言って、俺にもバッと勢いよくスカートをめくる。
ぱんつが見えないとわかっていても、ドキッとするね。
確かに、体育で履く短パンだった。
ほっ。
「プレゼントしたぱんつも新品だよ。履いてないから、安心して」
そっかそっか。
なるほどなるほど。
そう考えると、本当にセーフだな。
「おっぱい触るって約束も、もちろん嘘です」
「よかった~。まじでよかった」
心から安堵する俺。
「いや、今どき15歳の女の子にそんなことさせたら、完全にアウトなんで。するわけないですから」
津久間さんが、必要な説明として言う。確かにそのとおり。こんなことが現実にはあるわけがないと、視聴者に釘を刺す必要があります。
いや、冷静に考えればそんなことあるわけないんですよ。
ただ、スタッフさんと個別にこっそり楽屋でやられると、ちょっとありえると思っちゃうんですよ。
「枕営業ドッキリって、前々から企画あがってて、作家陣とも面白そうだな~って話してて、やりたかったんだよ」
楽しそうに話す津久間プロデューサー。結果が良かったってことかな。
「でも、普通の枕営業ドッキリって、女芸人がやると、リアルすぎるっていうか、ちょっとホントにあんじゃねーかみたいになっちゃって笑えないんだよ」
「なるほど」
普通に相槌打っちゃったよ。
俺はドッキリにかけられた怒りなどまったく起こらず、この企画がうまくいったことに安堵していた。
ほんと、ドッキリでよかった。
「で、この弱いエッチな要求にしたらいいじゃないかってなったんだけど、普通の女芸人がちょっとぱんつ見せたからって仕事もらえるわけないだろっていう」
「はいはい」
確かにね~。そうだよね~。
それはそれでリアリティがないよな。
アイドルじゃあるまいし。
「ただ、15歳のめちゃくちゃ可愛い女の子芸人だったら、この弱いエッチな要求がマジでありえるんじゃないかっていうドッキリ」
「いや、見事にはめられました」
はじめてドッキリされたにしちゃ、俺ってずいぶん上機嫌だな。相方がエロいドッキリかけられてんだぞ。怒り狂ってもいいだろ。
少しは仕返しするか。
「普通なら騙されないと思うんですが、リアリティが違いました。さすが、めちゃめちゃ枕営業してる津久間信明のディレクション」
「おい、ちょっと待ってくれよ! 俺にそんなイメージないだろ!?」
「いや津久間さんの番組出れるなら、寝るってやついるじゃないですか」
「すげーイメージ悪いからやめてくれよ! やってないから!」
「俺らの場合は、ればさしはそういうのは絶対ダメなんで、俺が抱かれます」
「え、待って? 男もイくPなの、俺? 妻子いるのに? そんなイメージ?」
「俺は掘られてもいいし、掘る側でも頑張りますんで」
「キミ、二十歳だよね? ちょっとカワイイ顔だし、マジでリアリティあるからやめてくれよ!」
ははは。
いや、さすが津久間さん。俺の下手なボケでもきっちり付き合ってくれたぜ。
下ネタのやり取りだが、笑いながら見守っている乃絵美。これでいいんだな? 俺は今、やりたいようにやってるよ。
あの敏腕プロデューサーの津久間さんをイジっちゃってるよ。
乃絵美とコンビを組んで、たった二ヶ月。
名前を決めて、動画を撮って、全国各地を回って。人気の配信者とも仕事して。喧嘩して、今ドッキリにかけられて。
こんな大物プロデューサーと一緒に仕事できるようになるなんて。
前の相方だったら、絶対ムリだった。
ほんと、うちの相方は最高だぜ。
「しかし、まあほっぴー君の、相方への心配っぷりというか、すごかったね」
「そうですか?」
もう動画の撮影としては十分だと思っていたが、津久間さんはまだ俺に話かけてきた。
「で、さっき言ってたけど、幼なじみなんだよね?」
「そうですけど」
俺が肯定すると、津久間さんは乃絵美の方に体を向ける。
「ほっぴー君の相方になるのがずっと夢だったんだよね?」
「そうです」
「すごいよね? 彼が芸人じゃなくて音楽やってたら一緒に音楽やるって言ってたよね?」
「はい」
なんか楽しそうだな、津久間さん。なにがそんなに面白いんだろう。
「え、これって完全に、好きってことだよね? もう愛を見せられたと思ってるよ俺は」
「「えっ」」
ハモった。相方と。
津久間さんは、俺たちが甘酸っぱい幼なじみ恋愛コンビだとイジってきたということか。やれやれ。
「「違います」」
「息ぴったりなんだけど? 完全に恋人じゃん」
はー。
そう、このやりとり。
俺たちは想定済みなんだ。
「俺たち」「わたしたち」
「「そういうんじゃありませんから」」
ふたり、顔を見合わせる。
前々から練習してきた。
どの漫才のネタよりも。
思わず、笑みが溢れる。
「「絶対に恋人同士にはならない。アンラヴァーズでーす」」
肩を組んで、カメラに向かってピース。
津久間さんの拍手とともに、この収録は終わりとなった。
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