第13話 神戸牛のゴッドタン

「まあ、切り替えていこうよ」

「んむ~」


 京都はスベった。ドンズべりとまではいかないが、まあウケなかった。正直、油断していた。

 横浜と名古屋がうまくいって、同じパターンでイケると思ったんだ。


「京都の人は、みんな京都のこと知ってて当たり前だと思ってるから」

「おい、やめとけ」

「歴史ある京都ですから、たかが二十年前のことは最近のことなんですわ」

「京都の人みたいな言い方すんな」


 ツッコんでみたものの、そのせいでウケなかった可能性はあるぞ。え、マジ? それなんですか?


「まあ、せっかくだし神戸牛を楽しもうよ」

「ああ、そうだなあ」


 ホントのところの原因なんてわかんないしな。凹んでてもしょうがない。

 ここは神戸牛の焼肉屋だ。

 正直、俺の稼ぎで食えるものではない。

 今は京都のライブが終わって、すぐに神戸に移動してきたところ。そう、明日は神戸でのライブです。

 今回の休日フードコートのライブは、大阪では行わず京都と神戸で行う。これは休日フードコートに京都出身と兵庫出身がいるため。

 そしてその神戸出身の芸人の実家がここです。そうです、先輩のおごりです。

 レンガのような壁紙で、おしゃれな感じの店だよ。椅子もソファー席でね。こういう店なら、超美少女の乃絵美を連れてきてもいいでしょう。


「まー、こんな若い子たち。たくさんお食べねえ」


 この人が先輩のおかんらしい。まあ優しそうな人です。


「サインと写真だけはもらうからね」


 俺らのなんて価値がないだろうと思うが、実際に飾られてるサインは今や人気となっている「スタッドレス」や「ラフジュース」の若かりし頃のものが飾られている。

 ここにサインを飾るのは、この人たちのように将来自慢できるようになって欲しいという、温かいメッセージというわけだ。

 乃絵美は「サインするの初めて~」と言いながら書いていたが、俺より遥かに上手かった。こっそり練習してたっぽいな。

 それにしてもネイルもなんもしてないのに、キレイだなと思わせる手だね。


「はい、どうぞ~」


 運ばれてきたビールとノンアルビールで乾杯する。

 肉はたっぷりと用意されており、逆に残さないように気合を入れて食わないといけない感じだ。

 俺は食べざかりの二十歳だし、めったに食えない高級肉。死ぬほど食わせてもらいます。

 

「ほら、タンが焼けたよ」

「うお~。うまそ~」

 

 焼肉の最初は牛タンなんだよな。なぜか。

 めちゃくちゃ分厚い。すごいね。


「うっは」

「うんま」


 今まで食べてきた牛タンとまるで違うぞ。

 もはやジューシーって感じ。

 うまいねえ~!

 

「こりゃ神がかってる旨さだね。神戸だけに」


 うまくないね~!

 神戸だけには、うまくないね~!


「しかし、確かに味は神だな」


 神の牛タン。ゴッドタンですよ。


「次、レバーだよ!」

「レバー好きなんだ?」


 ればさしという芸名だが、本当にレバ刺し食べてるわけじゃないからな。食っちゃ駄目って意味と、カワイイとかいう謎の理由で命名しています。

 だから味は知らないのよ。親からは旨かったって聞いたけど。

 レバーって臭くね?

 あんまりレバニラとか食わないんだよな。


「食べたことないよ!」

「ないのかよ」


 十五歳だったら、食べたこと無くても変ではないかもしれない。

 あんまり家で出てくるようなもんでもないしな。

 でもレバー食ったことないのに、ればさしって芸名にするかね普通。


「焼肉食べてる動画だと、一番おいしそうに見えるんだよ~」

「へ~」


 あまり期待していないが、楽しそうに焼いている乃絵美。焼肉を焼く火が顔に照らされて、頬が赤くなっている。


「ほい」

「え? そんなんでいいの?」


 焼くっていうか、炙っただけみたいな。

 レバーは赤かった表面が錆びた鉄のようになってはいるが。

 大丈夫なん?

 俺がビビっていると、ごま油に塩をこれでもかと入れて、刺身のようにちょんちょんとつけてパクリ。初めて食うとは思えない勇気!


「ん~~~~~~」


 頭を振りながら悶絶してるよ。マジっすか。


「っか~~~~」


 ノンアルビールをそこまで美味そうに飲む人いないよ?


「ま、ま、どぞ」


 手のひらを上にして、ちょいちょいと突き出してくる。いっちゃってくださいよ~、という仕草。女子高生のすることではない。


「まあ、食べてみるけど」


 ごま油と塩ってのも、よくわかんないしな……

 口に入れ、一口噛んだ瞬間。


「あ、あ~。ん~~~~」


 すっごくレバー。すっごくレバーなのに、臭くない。甘い。旨味がすごい。塩とごま油もイイ。濃厚。

 あ~、いつまでも噛んでいたいのに消えてく~~。


「そこでビール!」


 ビールを飲むタイミングを指示する美少女。変な話だが、従います。


「んは~!」


 むちゃくちゃ美味いね。


「いやー、レバーおいしいね」

「そうだな」


 神戸牛だからなのか、この店だからなのか、乃絵美が焼いてくれたからなのか、わからないけれども。

 レバーって美味いんだな。次は……なにこれ?


「次はホルモンだよ。お肌がプリプリになるらしいよ」

「お肌がプリプリ……?」


 変なことを言うな。


「なに? 食べても無駄っていいたいの?」


 ぷんぷん。そんな感じで怒ってるようだ。頬膨らませてるよ。んもー。


「無駄だと思うけど……」

「なんでよっ!?」

「だって限界までキレイだろ……100点はもう、それ以上にはならないというか。赤ちゃんにホルモン食わせても、お尻は変化しないというか」


 乃絵美の肌の美しさは異常だ。

 CGで加工しない方がきれいなくらい。

 絹のようだとか、白磁のようだとか例えても本物を下回る。

 俺の知る限りで一番近いのは、紙おむつのCMで見る赤ちゃんのお尻。全身がそれです。


「なにそれ!? お肌がMAX最高だから、もうこれ以上きれいになりようがないってこと!?」

「そうだよ」

「……」


 顔が赤い。生レバーよりも。


「まあ、美味しいから食べるけどね!」


 ホルモン、ハラミ、ロース、リブロース。最後にカルビとご飯を食べた。

 うまかった。そして、楽しかった

 相方とふたりで、神戸で焼肉。以前の相方とは、やはり考えられないことだった。

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