第12話 京都でハローモーニング

 横浜の翌日は、名古屋。

 名古屋だったら新幹線で帰宅するルールらしく、俺たちは京都に前のりさせてもらった。東京から京都の新幹線代を考えると、安いホテルなら宿泊してもいいとのことだった。

 名古屋での公演も無事成功。横浜よりは客数も少なかったので、スムーズにやることができた。アガったり噛んだりも一切なし。でらウケただぎゃー。

 現在は京都でのライブ前で、まだ午前中。

 相方と京都の錦市場に来ている。

 築地市場みたいな魚市場ではなく、さまざまな専門店が並ぶ一風変わった商店街という感じだ。

 乃絵美はキョロキョロと、物珍しそうにあたりを見回している。今日は制服ではなく、ブラウスとデニムのミニスカート。爽やかで快活な印象。相変わらずウチの相方は可愛すぎる。

 なにか発見したのか、ポニーテールを揺らしながら小走りで向かうので追いかける。


「すごーい、できたての七味唐辛子だって」

「すごいな」


 山椒など和のスパイスを売っているお店だった。

 オーダーを聞いて配合するらしい。初めて見た。

 七味の材料が絵の具のパレットみたいに分けられている。七味ってほんとに七つの材料でできてるんだなーなどと、しょうもないことを考えていると……


「いらっしゃい、カップルさん」


 カップルか。そう見えますかね。

 もちろん嫌な気はしませんが、否定しておこう。なんせ絶対に恋人同士だと思われないようにアンラヴァーズと名付けたコンビですよ。


「あ、カップルじゃないです」


 俺がこんな美少女と付き合えるわけないだろ。


「こいつがこんな美少女と付き合えるわけないだろ」

「おい! 言うな、そんなこと」


 相方のツッコミが達者すぎる! 俺は思ってただけなのに、なんでこんな場所でツッコミできんのよ。


「はー。うまいもんですねえ。お笑い好きなんでっか」

「一応、俺たち漫才師なんですよ」

「あ、ほうでしたか」

「そうなんですよ」


 芸歴一ヶ月の相方のドヤ顔がすごい。

 そして、さらに調子に乗る。


「はい、本日は七味唐辛子のお店に来ております。なんと作りたてということなんですよね~」

「おい、いきなりロケみたいなことすんな」

「は~。さすがに慣れてはるわ」


 慣れてない。ロケなんてやったことない。初めて。

 しかし乃絵美は褒められたぞ、と俺を見てきた。すごいすごい。


「で、どういうのがお好みですか?」


 どういうと言われても、七味唐辛子だろ?

 なんてオーダーすればいいやら。

 悩む俺に対して、ガンガンいく乃絵美。


「そうですね、カレー多めで」

「台無しじゃねーか! それもうカレー粉だろ」

「ハッピーパウダーありますか?」

「あるかー! ハッピーターンの粉~。甘いだろ」

「あはははは……」


 やべ。ボケすぎてお店の人がもはやイラついている。


「せっかくなんで、やっぱ香りがするのがいいですよね。和風の。カレーと真逆の。うどんにかけるとハッピーにはなる感じの」


 必死でさっきのセリフに意味を持たせる。

 笑顔に戻る店員。ほっ。


「山椒はお好きですか?」

「あーいいですよね、山椒。好きですね」

「では山椒多めで……」

「あとはオススメな感じで」

「あいよ」


 ふー。なんか無事に注文できて安心している俺。


「おおきに」

「どうも」


 七味唐辛子を購入しおわると、乃絵美はすでに次の店に。

 急いで向かう。


「お漬物の試食どうですか~」

「あー、見ての通り血圧が高いもんで漬物は医者に止められてて……」

「おっさんか!? 高血圧を気にする女子高生なんかいるかよ」

「おいしい! 買います!」

「まだ食ってねえだろ!」


 忙しいよツッコミが!

 そんなにボケなくていいって!

 俺が漬物を食べさせてもらって、本当に美味しいので買ってると、またしても乃絵美は次の店に。


「ね、鱧の串焼きだって」

「おお。珍しいな」

「しかし二人とも食べるわけにはいきません! 鱧の串焼きを賭けて、足つぼマットリフティングゲーム対決~」

「いや、するかー! 普通に二人とも食べていいだろ」


 この相方は、なんのバラエティをしてるの?

 これドッキリですか?

 相方がもし急にお笑いのことしか考えられなくなったら? みたいな企画やってる?

 俺がカメラを探している間に、乃絵美は鱧の串焼きを注文。


「はい、あーん」

「あーん……って恋人か!?」

「恋人じゃないよ」

「俺たち」

「「アンラヴァーズ」」


 マジで何やってんの俺たち。

 変なポーズまでしちゃって。

 販売員さんから拍手をいただきましたけども。


「どうかな。街ブラロケとか来たらできるかな? ちょっと練習のつもりでやってみたんだけど」

「もうできてるよ!」


 なんてこった。

 街ブラロケの仕事がもらえたときのことを、もう考えてるとは。

 乃絵美の向上心と可愛さは異常。


「でもほんと美味しい~」

「うまいね~」


 すごいな。なんというか、うまいね。


「なんと優雅な旨味なんでしょう。もう口の中が京都ですよ。こんな気軽に食べられるのに、本格的な和食。こんな食べ歩きあるんですね~」


 ええ!?

 食レポもできんの!?

 ちょっと待ってくれよ~。なんというか、うまいね。しか感想のなかった俺は恥ずかしいよ!

 その後、宇治抹茶あんみつなども食べたが、乃絵美の感想は感嘆すべきものだった。俺は簡単な感想しかでなかった。

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