第11話 横浜でもらった笑いの金メダル

「「かんぱーい!」」


 現在は横浜中華街。仕事を終えて、相方とふたりきりで祝杯をあげているところだ。

 俺は生ビール。相方は中国茶……かと思ったらノンアルコールビールだった。結構好きらしく、焼酎を混ぜないホッピーも飲むらしい。俺の芸名にも理解があると思ったんだよ。

 だから酒が飲めなくても、一緒に食事をしてて楽しい。

 さて、三時間前のことを簡単に説明しておく。

 前説の後、俺たちが会場をあっためる出番。


「ほっぴーです」

「ればさしでーす」

「「アンラヴァーズです。よろしくお願いしまーす」」

「見ての通り、超美少女高校生なんですけども」

「まあまあまあ……否定はしないけど、あんまり自分で言わないほうがいいですよ。でもホントに現役の高校生なんです」

「なので、みなさんみたいなオジさんに何をしゃべっていいかわかんないんですけど」

「おい、ストレートすぎるだろ! 嘘でもお兄さんたちって言えよ」

「禿げてても?」

「失礼だろ! 禿げててもだよ!」

「お兄さんたちとは多分話あわないんで……お兄さんたちに、今の高校生たちの間で何が流行ってるか教えてあげようと思います」

「なるほど! たしかにね、若い人たちの中で何が流行ってるかっていうのは知りたいかもしれないですね~」

「じゃ教えちゃいますよ、今の若い子に流行なのはですね……sakusakuですね」

「ええ!? tvkの!?」

「そう。木村カエラさんの」

「木村カエラさんのときの!? 今!? 高校生に!?」


 現役女子高生が、今流行ってるものとしてテレビ神奈川のローカル番組、しかも20年前の話をする。そんなわけないだろ、とみんな思うやつ。

 これが絶妙にウケた。相手が40代の、ディープなお笑いファンだからこそ。

 この後、横浜ベイスターズの往年の名選手の名前を言うとか、とっくに無くなった横浜の施設の名前を言うとか、神奈川の給食でしか出てこない食べ物とか。

 お客さんがよく知ってて若い女の子が知るわけない情報を言うというパターンでボケ、ツッコむという流れ。

 神奈川に住んでるおじさんにだけウケればいい。

 この作戦は、乃絵美の客層にウケることなんて知らない、というセリフで思いついた。女子高生が横浜のおじさんしか知らないことを言うだけで、結構ウケるのだ。

 もちろんこれで賞レースに勝てるとか、めちゃくちゃ売れるようになれるわけではないが、今回はこれで成功だった。

 なんせ俺たちは前座。みんな俺たちを目当てに来てるわけじゃない。

 ライブツアーの主役である休日フードコートさんからは「めちゃくちゃ良かったよ、今後も同じようにやってくれれば全然いいから」と言われている。

 仕事がうまくいって、相方とメシ。明日は朝から新幹線だが、まずは至福のひとときです。


「いや~、最高だね」


 相方はご満悦だ。そりゃそうだ、結構ウケたからね。


「さすが、って感じ」


 褒めてくれているようだ。確かに今回のネタはよくできた。もちろん

乃絵美のおかげでもあるが。

 前の相方は俺を褒めたことなどない。ちょっと恥ずかしい。


「すごいよ」


 感情たっぷりに。うんうんと頷きながら。

 やっぱ恥ずかしいな。実際これは同じネタでも現役の女子高生が言うからこそ面白いというものだし。全部俺の手柄ってことはないんだが。


「もう一回、いこ」

「おう」


 次も、その次もな。

 この調子で行きましょう。

 はい。もう褒めなくていいですよ。


「ほんと、うまい」


 だから言い過ぎだって。

 でも、くぅ~っと目をつぶったり、かぶりを振ったり。これはマジで言ってますね。

 よっぽど嬉しかったのかな。


「でもアッツい」


 アツい?

 心が熱くなったということか……。

 ま、確かにあれだけのお客さんの前でやるのは初めてのはず。熱くなったか。俺もまあテンション上がったけど。


「そして、じゅわじゅわ」


 じゅわじゅわ……?

 え? 何?

 どういうこと?

 まさか? 下ネタ? 股間が?


「ジューシーで、うまみたっぷりの肉汁が襲ってくる~! アツくて、うまくて、すごーい! さすが横浜中華街の名店、食べ放題の小籠包とは思えない。最高だよ、もう一回頼もう!」

「小籠包の話かよ!」


 ずっと小籠包の話してた!?

 ええ? 恥ずかし!?


「小籠包だけじゃないよ」

「お、おー」


 あぶねー。俺も含めてか。


「蒸し餃子もだよ。蒸した餃子って初めて食べたけど、すっごく美味しいね」


 蒸し餃子の話かよ!

 うまいけど!


「エメラルドグリーンなのすごいよね」


 翡翠餃子の話かよ!

 確かにエメラルドグリーンだけど! 他の食べ物にはない色だけど!


「シュウマイがまた……さすが横浜中華街」


 ずっと俺じゃなくて、この店と食べ物の味を褒めてたんじゃねーか!

 んもー、はずー。

 アツいよ。舞台よりもアツいよ。今。

 ごくごく。いやー、暑いときのビールはうまいねー!


「美味しそうに飲むねえ。いやー、わたしもお酒が飲める日が待ち遠しいよ。すみませーん」


 俺の生ビールにくわえ、春巻きやカニ玉も頼んでくれる。ふー。落ち着こう。俺も小籠包食おう。

 あっつ!

 あっちーけどうめー!


「いやー、おいしいね」

「そうだな」

「これも面白い相方のおかげだよ。すごいね、クショウちゃん。笑いの金メダルあげるよ。本当にプロのお笑い芸人になったんだね」

「なっ、ばっ、ばか、お前、お前ももうプロのお笑い芸人なんだからな?」

「あはは。そうだったね。明日からも頑張ろうね、相方」

「お、おうよ」


 いやー。最高だな。最高だよ、中華街の食べ飲み放題はさ。

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