第6話 相方に渡すのは新しいカギ
「インスタグラムですか」
「そう。インスタグラムだよ~」
相方が非常に女子高生らしいことを言った。
まあ1万年と2000年にひとりの美少女だからな。
むしろやってないのが意外。
「フォローするから教えて」
「なんでやねん」
ええ~?
ボケてないのにツッコまれた~?
「アンラヴァーズのインスタに決まってるでしょ」
「ええ~!?」
「結構やってる芸人さんいるでしょ」
そうかもしれん。
興味ないから知らないのよ。
ああいうのは、見目麗しい人たちのものだと思ってたよ。
「動画を見てもらうなら、その宣伝もしたほうがいいからね」
はー。乃絵美は本当によく考えてくれている。
前の相方は自分のことしか考えてなかったのに。
現在は秋葉原からの買い物を終えて帰宅したところ。西日の強い夕方のアパート二階。和室の六畳ね。
ここでメイド服の試着をしていたのだ。当然着替えている間は、俺はユニットバスで待機よ。
ショート動画の撮影をする日を決めようとしたところで、インスタを提案されたわけです。
「せっかくメイド服を着るんだから、いろいろな人に見て欲しいっていうのもあるけどねっ」
ここでお茶目に舌を出してウインク。女神か? これをインスタに載せたら全世界の男性が恋に落ちちゃうじゃん。俺は相方だから大丈夫だけど。
そもそもメイド服を着た乃絵美は、エグい可愛さを誇っている。ちょっとスタイルについて説明しておこうか。
彼女は15歳。身長は150cmくらい。胸はまだまだこれからというところ。女子高生は結構太ももがあったりもするが、すらっとほっそり。
少年漫画のグラビアに出てくるような15歳ではなく、清楚系アイドルグループの最年少、という印象に近いだろう。
女性からも好まれる容姿だ、インスタに載せたら確実にバズる。
「SNSをやるなら、個人名を先に決めないと」
「え? クショウと乃絵美じゃないの」
「んなわけないだろ」
高校での漫才は、そもそも乃絵美の本名を知ってる生徒相手だったから気にしなかったが。
本名がバレたら、ストーカーが大量発生するだろ!
高校が高校生より、乃絵美のストーカーの多い学校になっちゃう!
それは内緒にしとくか……。
「乃絵美なんてダメダメ。漫才師だよ? 可愛くない名前にしておきたいんだよ」
「えー!? やだよー。かわいいのがいいよ」
「ふむ……」
駄目ですよ。俺は乃絵美に、悪い虫がつかないようにしたいわけ。でもカワイイってことにするか……
「
「どこがやねん!」
駄目か。
画像検索してみたらカワイイ花が出てくるのに……
「大日本除虫菊って、金鳥の会社名やんけ。舞台でキンチョーするわ!」
え? なにそのツッコミ?
なんで除虫菊に詳しいの? なんで企業名に詳しいの?
俺は検索とかして調べたのに、なんでそんなに詳しいの?
株やってる?
一般消費財関連の株買ってる?
「もうええわ、他の名前はないの?」
え?
他の名前っすか?
大喜利求められてない?
この口調、完全に芸人の言い方ですやん?
まあ、一発でOKが出るとは思っていない。他にも考えてきましたとも。
手を出してはいけないもの。
「LSDとかどう? 横文字でカワイイ」
「絶対あかんがな! ダメゼッタイ!」
「MDSA」
「同じやろがい!」
「コカイン」
「どこがカワイイねん!」
「スペシャルK」
「い~や、ケタミンが密売されるときの名前!」
え?
なんで麻薬について詳しいの?
絶対あかんよ?
だいじょぶそ?
それとも何にでも詳しい人なの?
まあ、さすがにこんな名前にはしませんよ。
こんな美少女に名付けてしまって、憧れて薬物に手を出した少女が登場したらマズイですからね。
一回ありえないのを言っておいて、次の候補を通しやすくする。そういう作戦ね。
「薬物以外に手を出しちゃいけないものとなると……」
俺がそうつぶやくと――
「はいはい、手を出したくなるけれども、絶対手を出しちゃいけないもの」
乃絵美がそう言って、両手を握って頷いた。
これはボケてもいいぞというポーズ。じゃあ遠慮なく。
「ギャンブル」
「手を出しちゃいそうですね」
「借金」
「手を出しちゃいそうですね」
「エロいDMを送ってくるファン」
「手を出しちゃいそうですね」
「スキンシップの多いメイクさん」
「手を出しちゃいそうですね」
「甘えてくる教え子」
「手を出しちゃいそうですね」
「ガチ目の巫女さん」
「手を出しちゃいそうですね」
「女子高生の姪」
「手を出しちゃいそうですね」
「美少女の相方」
「こらー! 手を出しちゃ駄目だろ~! っていうか途中から性癖がダダ漏れちゃってる! 単に自分の好きな性癖の話しちゃってる!」
「どうも」
「「ありがとうございました~」」
いい漫才だった。
「いや、いい漫才だったじゃないのよ」
「え?」
「即興漫才はいいのよ、名前!」
「あ、そう」
いやー。
やりやすい。しかし漫才がやりやすい。
幼なじみだから、めちゃくちゃ気が合う。
それはそれとして、暗くなる前に彼女を返さないと。名前を決めよう。
虫がつくとか、手を出すという言い方以外に……食っちゃうというのもあるね。
「美味しそうだけど、食べちゃいけないものなんてどう?」
「ほうほう。美味しそうだけど、食べちゃいけないもの。それはいいけど、カワイイ名前にしてよ~?」
おい、もうさっきと同じパターンで漫才始まるぞ。
「毒キノコ」
「かわいくないね」
「食品サンプル」
「かわいくないね」
これまた名前決まらないで終わるな……。ま、いいか。送っていくことにするか。
「素人が調理したフグ」
「かわいくないね。あと長い」
「レバ刺し」
「ればさし。ればさしか……いいかも」
「え!? レバ刺し?」
「アンラヴァーズのればさし。ありかも。表記はひらがなにしてね」
「ええ?」
まさかそうなるとは思ってなかった。オチのつもりじゃなかったんですけど?
レバ刺しのどこがカワイイんだよ。
「どうも~、アンラヴァーズのればさしでーす」
ぽかーん。
「次はクショウくんだよ。レバ刺しの隣にいてしっくりくる名前にしてよ」
マジかよ……。
「じゃ、帰るから。着替えるから、トイレいって」
マジかよ……。
相方の名前がればさしなのもビックリだけど、俺はひとりで名前考えるのかよ……。
とりあえず次にうちに来る前に、ネタと名前を考えよう。
俺がバイト中でも家に入れるよう、相方には新しく作った合鍵を渡した。
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