第4話 お笑いやれるのは、みなさんのおかげです
乃絵美を相方にする。
乃絵美の高校での漫才がうまくいった。それもある。
しかし実際は、あの日。アンラヴァーズというコンビ名を決めた直後には決めていた。
「そういや、なんで連絡してきたんだ?」
「あ、そうそう。お礼を言ってなかったと思って」
「お礼? なんの?」
「ほら、漫才のネタっていうの? わたしのために作ってくれたやん」
「ああ……作ったというか、男女でやるようにアレンジしただけだけど」
「わたしのためでしょ」
「まあ……そうかな」
「だから、ありがとう」
……。
「で、でもほら、それは俺たちが漫才をするために必要なことだから」
「うん。でも、ありがとう」
……初めてだった。
今まで組んだ相手から、感謝されたことなんてなかった。
ネタを作るのは、当然のこと。やって当たり前のこと。
俺がネタを作りたい側だったこともあるし、俺が誘ってコンビを組んでたという理由もある。
だから感謝を要求したことなんてなかった。
見返りがほしくてネタを作ったことなんてない。
自分が考えたネタで、会場を沸かせたい。爆笑を取りたい。ひとりでも多くの人を笑わせたい。
それだけだから。
でも、でも、今こうしてお礼を言われたら。
「うっ……くっ……」
「えっ!? なんで!? なんで泣くの!? ご、ごめん?」
「ちげーよ……泣いてねえよ……」
「いや、泣いてるし……」
このとき。
こいつとなら、お笑いコンビをやっていける。
そう確信した。
乃絵美は俺だけじゃなく、漫才をするために協力してくれた人たちや、見てくれた人たち。みんなにお礼を言っていた。
これが一番、大事なことかもな……。
正式にアンラヴァーズで活動していけるよう、事務所にも連絡した。
とはいえ、仕事なんてすぐに来るはずはないが。
地道にオーディションに出たりして、少しずつやっていくか……。
「ショート動画?」
乃絵美はJKだからか、頻繁に連絡をしてくる。
次の予定がないと伝えると、ショート動画のSNSに投稿しようと提案してきた。
チャットも多いし、ビデオ通話もするが、今回は音声通話。
「女子高生が一番見てるのって、ショート動画なんだよ」
「ふむ……それって可愛い女の子のダンスとかなんじゃないの。お前が踊るのか?」
「なんでやねん。踊らないよ。お笑いするんだよ」
「お笑いだと……?」
「ショート動画って、ジャンルばらばらっていうか、いろいろ流れてくるよ。それがお笑いになってるのとかよくあるんだよ」
そうか……。
俺は全然見ないのだが。
ショート動画の再生数がすごい、という理由で有名になったり、取り上げられるパターン、テレビでもあるな。
再生回数か……。
「可愛い女の子が出てくる動画はいっぱいあっても、可愛い女の子のお笑いは珍しいかもしれない。っていうか乃絵美が可愛いからぶっちゃけ再生される」
「そ、それはどうかわかんないけど」
「いや、される。全然おもしろくなくても再生される。めちゃくちゃ可愛いから」
「あ、ありがとね」
「なんでお礼?」
「いや、褒めてくれたから……」
「褒めた? 別に褒めてない。冷静に分析してるだけだ」
「……」
さすが乃絵美。当たり前のことをしただけでも感謝してくるぜ。いいやつだ。
「さっそく撮影するところ、決めようか」
「いやいや、なんでだよ」
さすが乃絵美。すぐボケてくる。
「あれ? 衣装が先か。じゃ服を買いに行くの、いつにする?」
「待て待て! ネタが先なんですよ。ネタが」
「え? なんで?」
ボケじゃなくて、マジで言ってたとは。
「なんで? いや、そりゃそうだろ。野球のネタやるから、野球場とユニフォームでしょ」
「え~? 可愛くないじゃん」
なんだそのただの女子高生みたいな意見は……いや、そりゃそうなるか。
「ていうか、乃絵美は何着たってカワイイと思うが……」
「チアの格好より?」
「絶対にチアの格好のほうがカワイイな」
「ほら! そうじゃん」
そうだが……。
チアの格好の方がカワイイから、チアリーダーのショートコント作るの?
そんなネタの作り方ある?
待てよ。逆に考えると……。
「バニーガールでもいいってことか」
「バニーガール着てほしいの?」
「違いますよ、バニーガールのネタしか思いつかないんだよ」
「えっち」
バレバレだった。
正直、バニーガールのネタなんて思いつかない。
普通に女子高生の方がよっぽど作りやすい。
しかし、再生回数を考えるなら、衣装から決めるのはひょっとしたら正しいのかもしれない。
可愛い女の子が、可愛い格好をしてる。とりあえず見る。それが笑えた。そういう作戦ということか。
「さすが乃絵美だな……」
「そう? そーでしょ~」
ほんとかよ。
とはいえ、感謝しあって、称えあってという仲はやりやすい。
「ドレスが着たいな~。お姫様みたいな」
「無茶言うなよ……」
がっつりコントをするとしても、衣装代が高すぎる。ショート動画のために買えるわけがない。
あと東京のどこで撮影すんだよ。ドレスなんて着て。あれ?
そう考えると、場所を決めて、衣装を決めて、それからネタを作る方が正しいのか?
「さすが乃絵美だな……」
「そーでしょ~」
気分が良さそうだ。なによりだね、今後も褒めていく方針でいく。
近所の公園か?
いや、外だと他人が映るのはめんどくさいし、天気に左右されるし。
なにより場所を特定されたら、乃絵美にストーカーがついてしまう。当然彼女の家や学校もNGだ。
一番撮影しやすいのは、俺の家ってことになる。
畳のボロアパートで、乃絵美が着たらめちゃくちゃ可愛くてネタもいっぱい作れる衣装とは……?
「メイド服とか?」
「メイド服! いいね! 着てみたい!」
自分の家に美少女のメイドがいる。そのシチュエーションなら、いろいろやれそうだ。
「じゃ、ネットで買っておくよ」
「駄目だよ! 着てみないと似合うかわからない!」
「そっか……じゃあ」
お金だけ渡して、買ってきてもらうか。
「一緒に買いに行こ! ね!?」
「ええ……?」
相方と買い物に行くの?
マジかよ……。
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