第2話 ごっつええ感じのコンビ名
「もうええわ!」
「ありがとうございました~」
できちゃったよ。
漫才が。
芸歴一日目の、女子高生が俺の漫才のツッコミできちゃったよ。
俺とコンビ組むために、大阪からやってきたと言われちゃ無碍にはできない。とりあえず漫才の練習をやってみたのだが。
はっきりいって、元相方より上手かった。
ここは彼女の高校の近くの公園。本当に組むとは思っていなかったのだが、やってみてからでも遅くないと言われてやってみたんだよ。
「ねえ、まだ練習不足だとは思うけど、もっと練習すればできると思うから」
乃絵美はそう言うが、けっこう仕上がってるよ。
これはもう断る理由がないかもな……。
「でもなあ」
「えー? なんでー?」
ぐいぐいと袖を引っ張る。その動きもさあ……。
「だからさ、お笑い芸人にしては、あまりにも可愛すぎるのよ」
「なっ! ま、またそういうことを……」
女のお笑い芸人なんて、ブスな方が有利なんだよ。美少女がツッコミって、見とれちゃって笑えないだろ。
「まあ、アイドルコントとか……美少女コントとか、そういうのはいいかもしれないが……」
「……そうやって、すぐからかうんだから」
からかってんじゃないですよ。マジなんですよ。こんな国民的美少女、芸人にしていいわけがないんですよ。
アイドルデビューして、そのあと女優やって。CM女王になって。そういう存在になるべきだと思うんだが……。
「しかし、なんでそんな恥ずかしがるんだ? そうやって顔を赤らめるとさらに可愛いのはわかるけど……」
「んも~。はー、あっつ……」
両手でぱたぱた、頬に風を送っている。
スポーツドリンクでも買うか。
自動販売機の近くのベンチに座ってもらった。
まだ桜は咲いていて、そんなことには興味のない小さな子どもたちが遊んでいる。
俺たちは、とりあえず冷たい飲み物を流し込んだ。
「そんなにわたしと組みたくないの?」
「いや、そうじゃないけどさ……」
「そうじゃないけど?」
お笑い芸人って、いいことばかりじゃないからな。
自分がやるのはいいが、妹みたいに思ってた女の子がやるのは話が別だ。
乃絵美が、ドッキリにかけられるとか、体を張ることになるとか、ブスっていじられる……ことはないだろうけど。SNSで誹謗中傷されるとかな。嫉妬する女に。許せねえな。
しかし、こんなことは恥ずかしくて言えない。
「まあ、そうだな。人前でやってみないとなんとも」
「うーん。なるほどね」
納得してくれたらしい。
正直やれるかどうかと、ウケるかどうかは別だもんな。
「じゃあ、うちの学校でやろ」
「えっ」
「来週やろ」
「えっ」
早いって。
高校生相手?
まじかよ~。
乃絵美はスベってもいいよ、素人だから。俺は恥ずかしいって……。
「いやでも、ほら、人に見せるならコンビ名決めないと」
そう。そうなんですよ。コンビ名がないから。
必要不可欠ですよ。
「今決めよう」
「えっ」
すげーグイグイ来るじゃん……。
「コンビ名ってどうやってつけるの?」
「ま、いろいろだけど。一番単純なのは、二人の名前をくっつける」
「台場&萬綿みたいな?」
「そうね。のえみとクショウとか」
「クショウくんとのえみちゃんとか?」
ないな。
ダサいというのもあるが、そもそも乃絵美の本名を晒したくない。どう考えてもストーカー被害に会うじゃん。
「まあ、これは単純すぎるというか古いかな」
「もっと可愛いのがいいな~」
女子高生らしい意見だ。
コンビ名に可愛さとはね。なんにしても乃絵美が納得しないような名前は避けたい。
「共通点でつけるっていうのもあるよ」
「共通点?」
「同級生だったら学校の名前とか、地元が同じなら地名とかね」
「あ~……マンション名?」
「やめとこう」
身元がバレすぎる。あと普通に検索で不動産が出ちゃうのもどうかと?
「唐揚げ?」
あー、同じ好物ね。
「唐揚げはみんな好きだろ。もうちょっとないか?」
コンビ名で唐揚げはさすがに。
食い物の名前のコンビ名は、売れるという話もあるけどさ。
「手羽元の唐揚げ?」
「あー」
普通、唐揚げはもも肉。手羽先なんかもあるけど。
手羽元の唐揚げはウチの親父の得意料理であり、乃絵美にとっても好物である。コンビ名が「手羽元の唐揚げ」は無くはないが……どこが可愛いんだよ。
「可愛いのがいいって、言ってなかった?」
「え? 手羽元の唐揚げ、可愛いよ?」
可愛いのかよ。よくわからん。
それを可愛いと言い切るところは、可愛いけれども。
「美しいズ」
共通点が美しい。これはボケてる感じもあるし、まじで美しい相方もいるし。ちょっといいんじゃない?
「いや、イヤミか! 自分で言うな!」
「ん? わたしはともかくお前が言うな、だろ」
「え? カッコいいよね?」
……は?
何を言ってるんだこいつ。
俺がカッコいい?
んなわけあるか。
俺はブサイクとは言わないけど……普通だ。一番面白くない、普通。いっそ、ブサイクというキャラにしておくか? 隣に最強美少女がいたらそれもあるだろ。
「そもそも共通点なんか全然ないな。普通に考えて、アイドルとファンとかじゃないの?」
「ショートコントかよ!」
うーん。確かに。うまいねツッコミが。
「神としもべとか」
「おい! 自分を神と思ってんのかよ!」
下手かよ。なんで俺が神なの。お前が神で、俺がしもべに決まってるだろ。前言撤回。なんもわかってない。
「女神とうんこ」
「やりにくいわ!」
まあそうか。自己紹介の時点でなんかゴチャゴチャするか。
「美女と野獣にしとく?」
「一番敵にしちゃ駄目な相手を敵にしてるがな!」
確かに。正しいツッコミだ。
どうしたもんかね。飲み終わった空き缶をゴミ箱に捨てて帰ってくると。
「前のコンビ名はなんだったの?」
下から上目がちにそう問われちゃ、答えるしかないですね。
「マックスフライ。最高にアガってるやつらになろうという意思で」
「え~、いいじゃん! そういうの素敵」
「お、おう」
ネーミングは俺なのでちょっと嬉しい。
ベンチに座りつつ、頭を掻いた。
「どうなりたいか、か……」
「ウェディングとか……?」
そんなに顔が真っ赤になるなら言うな!
ボケのつもりだろうが、こっちも顔が真っ赤になったのわかるし!
「ま、まあ、コンビ名って大事だから! すぐに決めなくても!」
「そ、そーだね! お互いに案を出し合ってね!」
「そうしようそうしよう」
「子どもの名前だって、もっと悩んで悩んで決めるもんね」
「こ、子どもの名前……」
ますます顔が赤くなった。
もうええて。あっつ。
「連絡先、交換しよっか。暫定だけど、相方だからな」
「う、うん。よろしくね、相方」
俺たちはお笑いコンビを組んだ。名前はまだない。
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