第2話 いらないけど、地図職人のお姉さんが仲間になりました。

 道交法とは、守る為にある。

 凄惨な事故が多発したから、飲酒運転が厳罰化されたんだ。

 運転手は乗車前に呼気確認をし、それから業務に就くはずなのに。

 

 僕の恋人である雪月は、信号無視をしたトラックに激突され、死んでしまった。


 目撃者である車のドライブレコーダーに残る映像は、彼女が何をしても避けられない状況を物語る。一般道を時速百四十キロで走行し、青信号を直進している雪月の軽自動車へとブレーキを掛ける事なく突っ込んだんだ。


 飲酒からの居眠り運転。

 そんなの許せるはずがない。


わたるの誕生日プレゼント買っちゃったー♪ 喜んでくれるかな……ふふふっ』


 彼女の軽自動車のドライブレコーダーに残る楽し気な声が、僕の背中を押してくれた。

 裁判所の柵が低いのは、きっと止められない遺族の気持ちを汲んでの事なのだろう。


「死ね」


 刺し殺した直後に、僕は自分の首を切り裂く。

 神剣魂魂に残る彼女のアバターに寄り添い、もう一度雪月に会いたいと願いながら。


§


 桜我のキャラクター紹介には、こう書いてあった。


『星屑聖護団三番隊隊長、桜我――剣の道を究めた桜我には敵がいなかった。猛者を求めて旅をしていたところ、星屑聖護団スマイン団長と出会ってしまったのは、もはや運命だったのだろう。決闘を申し込むも三日三晩の死闘のすえ勝敗が付かず。「星屑聖護団に入れ、そしていつでも俺の首を狙うがいい」という団長の誘いにのり、三番隊隊長の座についた。今でも彼の刃は団長へと向けられているが、最近は酒の飲み相手になっている事が多い――』 


 星屑聖護団が在籍しているのは、原作通りなら白壁はくへきの街、ホワイトロックだ。

 でも、いま僕がいるのはゲーム内最東端の神桜じんろう島だから、結構離れている。

 まずは船に乗らないといけないんだけど……乗れるのかな、僕ゾンビなんだけど。


「せめて、肌色だけでも何とかしないとかな」

 

 視界の隅にあるキャラクターと書かれている枠を、じっと見つめる。

 ゲームのままなら、ここでキャラクタークリエイトが出来るはずだ。

 有料コンテンツだけど、この世界にいるのだから有料とかいう概念は無いはず。

 

 よし、開いた……うわっ、これ今の僕?

 十三歳くらいの少女、肌が灰色で、髪の色は真っ白だ。

 瞳の色も黒一色、ハイライトの欠片もないよ。


 ……身長と胸の値、低すぎじゃない? 

 身長百四十センチにバストサイズ最低って……増やせないのこれ?

 いやいや、何してるんだ僕は、このキャラクリはそのまま僕に反映されるんだから、ダメだろ。


 っていうか、設定値ほとんどいじれないな。

 肌色の操作は……あ、ちょっとはマシに出来そう。

 ぺちゃぱいのままか……まぁ、いいか、貧乳はステータスだし。


「嬢ちゃん、どうしたんだ?」

「えひっ!」

「変な声出して、幻惑の魔術でも喰らってたのか?」


 キャラクタークリエイトしてたら、いつの間にか目の前に冒険者風な男がいた。 

 装備を見るにモブっぽいけど、うわ、ロングソード大きいなこれ。

 それに鎧も全部重そう……こんなの着て冒険とか、それだけで筋トレだよ。


「あの、えと、西の港に向かいたいなぁって、思いまして」

「そうかい、なら俺達と一緒に行くか?」

「ああ、いえ、大丈夫です、はい」

「女一人の旅は危険だぜ? まぁ、無理には誘わねぇけどさ」


 パーティだったのか。男の影に隠れてて見えなかったけど、冒険者風の男女が数人そこにいた。

 戦士、魔法使い、僧侶、商人、荷物持ち、地図職人。

 六人もいるのなら、混ぜて貰えば良かったかな。

 でも、僕ってゾンビだし、僧侶の回復魔法で死んじゃうもんね。


 一人旅の方が、きっとスムーズに行くさ。

 それよりも、キャラクタークリエイトをもうちょっといじろうかな。


§


 いじり過ぎた、既に日が落ちちゃってるじゃないか。

 でも、それなりに可愛くなったし、僕的には大満足だ。

 

 こうなってくると装備品にもこだわりたくなってくる。

 今の装備品って家を出た時のまま。

 黒い魔女っぽいワンピースと、中に着るブラウスのみだし。

 下着の方は……ドロワって言うんだっけ? それしかないしね。

 こういうのこだわった所を見せたら、また雪月に怒られるのかな。

 

『渉ってそういうのが好きなんだ』


 とか言われそうだ。

 でも、今の雪月って桜我なんだよな? 向こうも結構いじってたりしてね。

 ……あれ? さっきの地図職人のお姉さんが走ってくる。

 

「どうしたんですか?」

「あ、さっきの! こっちに来ちゃダメ! ワーウルフの群れが現れたの!」


 ワーウルフ、狼男ってこと? 確か雑魚モブの一種だよな。

 集団で襲ってくるから、経験値稼ぎには持ってこいだけど。

 お姉さんの言葉通り、沢山の群れが一斉に襲い掛かってくる。 


「走って逃げれる速度じゃないね」

「ひいいいぃ! 私地図しか書けないのに!」

「……倒しちゃえばいいんでしょ? ネクロマンス、ダークゲート・デスハンド」


 闇の門から死神の手を召喚し、相手を切り裂く初級闇魔術。

 ワーウルフならこれで倒せるし――――そこから追加。


「ネクロマンス、ドミナント・エネミー」


 瀕死になったワーウルフを操って、同士討ちさせちゃえばいい。

 おお、どんどん経験値が入っていく。消費されたMPもレベルアップで回復だ。


「凄い、ワーウルフ同士で仲間割れしてる……」

「雑魚モブだからねー」

「雑魚って……あんな集団のワーウルフが雑魚のはずないじゃない」

「そう?」


 プレイヤーとゲームキャラだと見方が違うのかな。

 僕からしたらコイツ等全部雑魚にしか見えないけど。


 しばらくしたら逃げちゃって、この場にはかなりの数のワーウルフの死体が残った。

 近寄って手をかざすと死体が消えて、通貨であるコインに変化する。


 やっぱり神剣魂魂の世界なんだな。

 コインは手にしたら消えちゃったけど、ステータスの方にはきっちりと加算されている。


「ねぇ、さっきは断ってたけど、今度は逆に私が貴女に着いて行ってもいい?」

「好きにしていいよ、お姉さんはどこに行くの?」

「西の大地、アロバマよ」


 アロバマか、確かそこからホワイトロックへと向かう街道があったはず。

 

「うん、いーよ」

「ありがとう……私の名前はユナク・アリュシュルーゼ、貴方は?」

「ジュディス・サクラ・モーメント。ジュディスでいいよ」

「私も、ユナクでいいからね」


 地図職人か……僕の目には自動地図が付いてるから、いらないんだよな。

 もしかしたら知らないイベントスイッチの可能性もあるし、とりあえず一緒でいいか。

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