死んだ恋人のアバターが動くネトゲに転生すべく死んでみる事にした。
書峰颯@『幼馴染』12月25日3巻発売!
第1話 死んだ彼女に会いに行く為に……僕はゾンビになりました。
異世界転生。
死んだ人間の魂が異世界へと行き、知識や記憶を保持したまま生まれ変わること。
なんとも素敵な響きだ、こうして現実になったのだから、本当に素晴らしいと思う。
「ジュディス……貴方! ジュディスが目を覚ましました!」
ただ、僕が転生した先は、病で亡くなったばかりの子供の身体だった。
異世界転生とは、魂の補完のようなものなのだろう。
入れ物を変えてやるから、後は頑張れよと。
死亡直後の肉体は何とも不安定で、油断するとすぐさま意識が飛びそうになる。
なんてったって死んでたんだ、その肉体が健康的なはずがない。
ジュディス・サクラ・モーメント。
転生した僕の肉体の名前だ、どうやら性別は変わっている。
視界の隅に枠が見える。
スキル、ステータス、設定、アイテムと書かれた枠。
触る事は出来ないけど、目で見続けると反応し、枠が開いた。
異世界転生じゃない、ゲーム世界転生……だな。
これらのコマンド枠に、僕は見覚えがある。
『
スマートフォン対応オープンワールドRPG。
全世界一億人のプレイヤーがいたとされる超人気のゲーム。
僕と恋人である
『
『お、凄いね、
『本当? ようやく最高レアが当たってくれたんだ、役に立てそうで嬉しい』
彼女が愛用していたキャラクターは、桜我という青髪の和服が似合う剣士だった。
一人のキャラを愛し、最終的にはギルドの要となるレベルまで鍛え上げたんだっけ。
そのキャラクターは、彼女が死んだ後もギルドに残り続けていた。
「……っ、胸が、痛い……」
ジュディスという名前のキャラクターは、僕の記憶には存在しない。
ギルドマスターとして、ゲーム内全ての場所を踏破したのだから、間違いない。
しかし、先ほど窓から見た村の景色、これには見覚えがある。
ゲーム内最東端、
「はっ……はっ…………うぐっ」
胸の痛みが激しくなってきてる、ぎゅっと左胸を握り締めるも、それは治まらない。
このままでは転生した直後に死んでしまう。
スキルポイント、割振り……死霊術しかないのか、しかも僕自身も死霊じゃないか。
つまり、結局の所、この肉体は死んでいる。
死んでいる肉体に魂が宿ったのだから、当然といえば当然なんだけどさ。
「ネクロマンス……ゾンビパウダー、発動」
スキル割振りを終えると、即座に魔術を発動させた。
僕自身が死霊なんだ、闇魔術は全てが回復魔術へと早変わりする。
ズキズキと痛んでいた胸が静かに治まっていくのが分かる。
凄い、これが魔術なんだ……ゲームとはやはり違う、本物の魔術。
「あ、しまった」
本来、ゾンビパウダーは対象をゾンビへと変えてしまう闇魔術だ。
今の僕の周囲には心配そうにしていた家族がいたのだけれど。
「……ウー…………」
「アァァァ……ァァァ……」
ゾンビパウダーを至近距離で喰らい、動く死体、ゾンビへと変身を遂げてしまっていた。
なりたてだから、まだ綺麗なものだけど……治す方法は、多分ない。
「ご、ごめんなさい」
ぱたぱたと着替えと荷物を手にして、お辞儀をしてから部屋を後にする。
名も知らぬ人達だからか、僕自身がゾンビだからか、あまり罪悪感はない。
それよりも、僕にはやらなくてはいけない事があるんだ。
このゲームに転生しているはずの彼女に会いに行く。
その為に僕は死を選択し、この世界へとやってきたのだから。
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