死んだ恋人のアバターが動くネトゲに転生すべく死んでみる事にした。

書峰颯@『幼馴染』コミカライズ進行中!

第1話 死んだ彼女に会いに行く為に……僕はゾンビになりました。

 異世界転生。


 死んだ人間の魂が異世界へと行き、知識や記憶を保持したまま生まれ変わること。

 なんとも素敵な響きだ、こうして現実になったのだから、本当に素晴らしいと思う。


「ジュディス……貴方! ジュディスが目を覚ましました!」

 

 ただ、僕が転生した先は、病で亡くなったばかりの子供の身体だった。

 異世界転生とは、魂の補完のようなものなのだろう。

 入れ物を変えてやるから、後は頑張れよと。


 死亡直後の肉体は何とも不安定で、油断するとすぐさま意識が飛びそうになる。

 なんてったって死んでたんだ、その肉体が健康的なはずがない。

 

 ジュディス・サクラ・モーメント。

 転生した僕の肉体の名前だ、どうやら性別は変わっている。


 視界の隅に枠が見える。

 スキル、ステータス、設定、アイテムと書かれた枠。 

 触る事は出来ないけど、目で見続けると反応し、枠が開いた。

 異世界転生じゃない、ゲーム世界転生……だな。

 これらのコマンド枠に、僕は見覚えがある。


神剣魂魂しんけんこんこん


 スマートフォン対応オープンワールドRPG。

 全世界一億人のプレイヤーがいたとされる超人気のゲーム。

 僕と恋人である雪月ゆつきが、一緒に遊んでいたゲームだ。


わたる、見てみて、ほら、最高レアのキャラ当てたんだ』

『お、凄いね、桜我おーがだ。育てればギルバトも最前線で戦えるよ』

『本当? ようやく最高レアが当たってくれたんだ、役に立てそうで嬉しい』


 彼女が愛用していたキャラクターは、桜我という青髪の和服が似合う剣士だった。 

 一人のキャラを愛し、最終的にはギルドの要となるレベルまで鍛え上げたんだっけ。

 そのキャラクターは、彼女が死んだ後もギルドに残り続けていた。


「……っ、胸が、痛い……」


 ジュディスという名前のキャラクターは、僕の記憶には存在しない。

 ギルドマスターとして、ゲーム内全ての場所を踏破したのだから、間違いない。


 しかし、先ほど窓から見た村の景色、これには見覚えがある。

 ゲーム内最東端、神桜じんろう島にある孤立した村だ。


「はっ……はっ…………うぐっ」


 胸の痛みが激しくなってきてる、ぎゅっと左胸を握り締めるも、それは治まらない。

 このままでは転生した直後に死んでしまう。


 スキルポイント、割振り……死霊術しかないのか、しかも僕自身も死霊じゃないか。

 つまり、結局の所、この肉体は死んでいる。

 死んでいる肉体に魂が宿ったのだから、当然といえば当然なんだけどさ。


「ネクロマンス……ゾンビパウダー、発動」


 スキル割振りを終えると、即座に魔術を発動させた。

 僕自身が死霊なんだ、闇魔術は全てが回復魔術へと早変わりする。

 ズキズキと痛んでいた胸が静かに治まっていくのが分かる。

 凄い、これが魔術なんだ……ゲームとはやはり違う、本物の魔術。


「あ、しまった」


 本来、ゾンビパウダーは対象をゾンビへと変えてしまう闇魔術だ。

 今の僕の周囲には心配そうにしていた家族がいたのだけれど。

 

「……ウー…………」

「アァァァ……ァァァ……」


 ゾンビパウダーを至近距離で喰らい、動く死体、ゾンビへと変身を遂げてしまっていた。

 なりたてだから、まだ綺麗なものだけど……治す方法は、多分ない。


「ご、ごめんなさい」


 ぱたぱたと着替えと荷物を手にして、お辞儀をしてから部屋を後にする。 

 名も知らぬ人達だからか、僕自身がゾンビだからか、あまり罪悪感はない。

 それよりも、僕にはやらなくてはいけない事があるんだ。


 このゲームに転生しているはずの彼女に会いに行く。

 その為に僕は死を選択し、この世界へとやってきたのだから。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る