薬味

 「まいどどうも、また来てけれや」

 

 いつも威勢のいい店主はどこか影があった。私がそう感じるだけだと思っていたが実際に影があったようで、日曜日のワイドショーで店主が知人女性に対する強姦致傷の容疑で逮捕されたと流れていた、驚かなかった。

 蕎麦屋の裏口にダンボールに入った大量のネギが積まれている、その横に猫がゆったり座っている、店主に懐いていたのだろう。

 私は猫に近づくと猫はそそくさと逃げて行った、その猫も店主に似たのかタチが悪く積んであったダンボールにわざとぶつかっていくのでダンボールは崩れてネギがあたり一面に散らばった。私は仕方なくこの惨状をもとに戻すべくダンボールを積み上げていると、ベージュのコートを着た女に話しかけられた。

 

 「ここのお店の方ですか、よければ店主のお話しを聞かせて欲しいのですが」


 私は面倒は御免なので違うと言ってこの場から離れようとしたところ、女から名刺を渡された、『三遥社 深見 響子』と書かれている、記者らしいが知らぬ名だったのでそのまま私は立ち去った、とはいえ艶のあるいい女だった。

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