第14話

所変わって王城前、今日も門番の双子の兄弟は雑談をしながら、暇な門番をサボっていた。


「なぁ、なぁ、今日ってたしかあのバートリー公爵家の令嬢が来るって話だろう?」


兄の方が弟に話しかける。


「え⁉あの妖精姫と謡われた公爵夫人の娘か⁉」


話しかけられた弟は興奮したように鼻息を荒げた。


「あぁ、しかも今日はなんと第二王子との謁見で来るらしい」


「まじかよ、絶対縁談じゃねぇか。いいなー王族は。俺たちみたいに身を粉にして働かなくても美人な女と結婚できるんだから」


「なぁなぁ、もし親父の方に似てたらどうする?」


「そりゃあ……残念にも程があるだろうな。顔が一般的に見て中の中だったとしてもあの母親がいたら全部下の下に代わるんだから。」


「違いない」


「あーできれば不細工であってほしいぜ。そしたらちょっとはこの世が平等だって思えるのにな」


「おいおい、王子だって相当の美形だぞ、今回の縁談は公爵家との政略結婚だろうから取り消せなくても、眉目秀麗で才色兼備、あの王子ならこの国の絶世の美女を側妃にし放題だろ」


「それもそうか、あー俺やっぱりこの世の中が憎いぜ、持ってるやつはみんな持ってるんだからよ」


「俺もイケメンで才能があふれて困っちゃうーとか言ってみたいぜ」


「おい、それ誰の真似だよ」


「ご想像にお任せするぞ」


片方の門番が決めポーズを取って、もう片方が笑っていれば、遠くの方からガラガラと馬車が走る音がする。


「おっと、妖精様のご到着か」


「サボってたのがばれたら一大事だ、シャンとするぞ」


「おう」


カラカラと馬車が城門の前に付き、御者が慣れた手つきでバートリー公爵家の家紋を門番たちに見せる。


「ガラス=バートリー公爵令嬢様ですね、王から許可は出ております。どうぞ、中にお入りください」


「お嬢様、つきましたよ」


御者の隣に座っていた子供が手綱を離し、完璧な所作で扉を開ける。

さすが天下の公爵家。側仕えの子供にまで教育が行き届いているとは驚きである。

さて、肝心の妖精姫の娘は。


――ドクン。


門番たちの心臓が大きく跳ねた。


澄んだ翡翠色の瞳、物憂げに下げられた細い眉毛、顔は人形のように小さく、暁を溶かしたような長く、雲のようにうねった朝焼け色の髪が目を引いた。

バートリー公爵夫人を妖精姫と名付けるなら、彼女は朝露の精霊と言えるだろう。

門番たちが見とれているとふと公爵令嬢はその場でしゃがみ込んだ。

苦しそうに体が震えている。


体調が悪いのかと、駆け寄ろうとした時だった。


「はぁ……はぁ……うっぷ」


令嬢から聞いたことのない声が聞こえた。

門番たちが困惑していると馬車の中からメイドが出てきて、彼女の背中をさする。


「お嬢様、だからあれほど手元をずっと見てはいけないと言ったのに」


「しょうがないじゃない、母上からの手紙がお菓子の包み紙に書いてあるなんて思わなかったし。どんなことが書いてあるのか、今すぐ読まないと縁談だろうと、婚約だろうと耳に入ってこないわ」


何の話してるんだろう。

門番たちが遠い目をしだした頃、公爵令嬢はハッとした顔をすると、城門の前にあった茂みに飛び込む。


「Ororororororo――」


【映像が乱れております、しばらくお待ちください】


しばらく経つと、公爵令嬢は妙にすっきりした顔をして茂みから出てきた。


「お嬢様、今のは」


側仕えが彼女に近寄っていく。

すると彼女はにっこりとしてグッジョブサインを手で作って見せた。


「大丈夫、ドレスは汚してないわ!」


門番たちはさっきまで感じていた胸の高鳴りがいつのまにやら消え、1つの悟りを彼らは得ていた。


「「(案外この世って平等なのかもしれない)」」


この日のことを門番たちは一生忘れることができなかったと言う。

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逃亡令嬢‼~このままでは破滅するらしいので家出させてください~ 春鏡凪 @tukigakireidesune

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