第3話 外階段カンフーバトル
「やはり準備は大切だな」
背後の扉から
カンナは鉄製の外階段の上下に待機している男達を目で数えると、背後の王飛龍へと身体を向けた。
「言っておきますが、先に手を出したのは貴方の舎弟さんです。私は身を守っただけ。それに、私は丸腰なのに、彼らは武器まで使ってきましたから。まさに正当防衛のお手本みたいな状況でした。手加減もしましたし」
「そうか、やはり貴様が“チャイナブルー”だったんだな」
「チャイナブルー?」
「舎弟がそう呼んでいた。バーで馬鹿の一つ覚えのようにチャイナブルーばかり注文していた、水色のリボンと水色のデニムジャケット。そして、明らかに男を誘うその生脚」
王飛龍はカンナの白いショートパンツから伸びる生脚を指差さして言う。
「誘ってる……か」
自分の脚を見ながら、カンナは顎に指を当て首を傾げる。
「
突然の頭上からの声にカンナが見上げると、階段の上に先日叩きのめしたチンピラ5人衆が恨めしそうに見下ろしていた。
「5人でも大人数でダサいのに、今度は倍以上の人数連れて来て復讐なんて……ほんと、貴方の舎弟は救いようがないですね。ま、何人連れて来ようが、私には勝てませんけどね」
どんなに相手が武器をチラつかせて恫喝し、襲って来たとしても、カンナは至って冷静だ。相手が明らかな悪だと確信している限り、カンナは己の正義を曲げない。
「このガキの自信過剰っぷりには
「マフィアですか? さっきバーのマスターが言ってました」
カンナが答えると、王飛龍は大きな笑い声を上げた。
「我々が何者か知っていながらその態度か。中々肝が据わってるな。面白い。身ぐるみ剥がして大泣させてやろう。チャイナブルー!」
王飛龍は両脇の短刀の男に指示を出すと、2人の男は再び短刀をカンナへと振りかざす。
「だから私には勝てないって言ってるのに……!」
カンナは短刀が自らの身体に触れる前に外階段の鉄の手すりを掴み、何の躊躇もなくマフィアの男達が溜まる下の階段へと飛び降りた。黒髪が揺れ、髪をまとめる母の形見の水色のリボンがはためく。
「
着地と同時に踊り場にいたマフィアの仲間の男達がカンナに殴り掛かるが、カンナは軽く身をかがめて躱すと、左の男の腹部に掌打、右の男の腹に肘を入れる。
さらに前から蹴りを入れて来た男の軸足を脚で弾いて転ばせた。
「
上の階で王飛龍が叫んでいる。
瞬時に3人を倒したカンナは、掴み掛かる男達を躱し、いなしながら徐々に下の階へと階段を駆け下りて行く。蹴飛ばされた男は階段の手すりに背中をぶつけて悶絶したり、階段から転げ落ちて仲間同士将棋倒しになったりと阿鼻叫喚だ。
「
上の階から必死に追いかけてくる王飛龍の中国語の怒号が聞こえる。
その間もカンナは襲い掛かる男達を5人、6人と蹴散らしていく。
生憎、カンナのいたバーはビルの8階。まだ古びたビルの壁面の階数表示は5階。外階段の下の階にはまだ20人程が見える。
カンナは目の前の男達のパンチを腕で巧みに払い、頬を掌底で張り倒し、背後の男に後ろ蹴りで鳩尾を蹴り飛ばすと、チラリと上階を見る。
追って来ているのは王飛龍と短刀男2人。カンナに復讐したいチンピラ5人衆だけだ。
追っ手の男達は息を切らしながら必死でカンナを捕まえようと降りて来るが、カンナ自身は呼吸一つ切らしていないどころか、汗さえかいていない。
「しつこい」
呟いたカンナは続々と下から襲い来る男達を体術のみで1人残らず確実に打ち倒していく。使う技は掌打、手刀、肘打ち、そして蹴りの4種類の打撃技のみ。拳は一切使わず、投げ技も関節技も、もちろん武器も使わない。それが、澄川カンナの武術、『
あっという間に10人を倒した辺りで3階まで降りて来ていた。
「うおらぁぁぁ!!」
目の前に現れたのは長い木製の棒術用の棒を持った男達。その棒の長さは一般的な棒術用の棒と同じで1.8m程。今までの男達は短刀男2人を覗いては全員徒手空拳。ようやく武器を持つ輩が現れたのだ。
「こんな狭い場所で長い得物を使うなんて」
カンナは鼻で笑うと棒術男達は雄叫びを上げて棒を振りかざす。
それをひらりと棒を躱すと、案の定、後ろに控える男に棒の下端部分が当たり、勝手にもたつき始めたのでカンナはすかさず手刀で棒術男達の首筋を打ち、さらに下の男達に飛び蹴りを食らわした。
「うわぁぁ!?」
蹴飛ばされた男はそのまま後ろの男達を巻き込み階段を転げ落ちていった。
「は? 素人なの?」
カンナは転倒した男達を足蹴にしてそのまま階段を駆け下りて行く。
そしてついにカンナは1階まで到着した。
「
追いかけて来た息を切らした短刀男が地上に降り立った瞬間にその顔を蹴り上げ、同時に降りて来たもう1人の短刀男を続けざまの回し蹴りを側頭部に食らわし地面に叩き付けた。
2人の短刀男は地面に横たわりピクリとも動かない。
「貴様……息も切らしていないだと……?」
息を切らして遅れて降りて来た王飛龍は、カンナの常軌を逸した体力と戦闘技術に驚嘆し唾を飲んだ。
「
「
王飛龍の後ろで怯えているのは、カンナが最近ぶちのめしたチンピラの男達。
「
「
チンピラ達は王飛龍の命令を無視して逃げて行った。
「
王飛龍はおもむろに懐から黒い何かを取り出し、逃げるチンピラ達にそれを向けると、5回大きな破裂音を放った。
同時にチンピラ達はバタバタとその場に倒れた。
カンナはその光景を目を見開き、絶句しながら見つめる。
その記憶の中に眠る凄惨な光景を思い出しながら。
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