青春は戻らないらしい。
結婚式が
入学式が嫌いだ。何時間も安いパイプ椅子に座らされて、全く知らないオジサンの話しを永遠と聞かされる。宗教的なものを感じて、
定期テストが嫌いだ。僕はそこそこ勉強ができたから、大して仲も良くない女子が1人、僕の元に寄ってきた。まったく迷惑な話しだ。
夏休みが嫌いだ。この時期は本当にすることがない。仕方がないから家でゲームをしていると、例の女子が家まで遊びに誘いに来るようになった。しつこい。僕は彼女と花火大会に行った。海に行った。少し肌が焼けたようだった。
文化祭が嫌いだ。この時期は周りの人間が浮かれていて、恋人もどきが増える時期だった。このときの僕は文化祭の運営の手伝いをしていた。肉まんみたいなデブと
冬休みが嫌いだ。ずっとコタツの中にいたいのに、いつも誰かに連れ出される。今日は例の女子が
始業式が嫌いだ。デブとチビと帰り道にカードゲームの店に行った。ガチャガチャを引いたが、いいカードは出ない。デブもチビも出なかった。だから、帰りにコンビニでアイスを買った。ソーダ味のアイスはサッパリとしていて、甘かった。
体育祭が嫌いだ。デブは「
夏休みが嫌いだ。今年も
デブが嫌いだ。食欲の秋だとか言って、一緒に大盛りのハンバーグを食べに行った。チビと僕はすぐにギブアップすると、デブが全員分をたいらげてしまった。「お前ら、男として情けないぞ」とデブが得意げに二重顎を揺らしながら言う。下剤でも盛ればよかった。
バレンタインが嫌いだ。クラスの男子は浮き足立つし、女子も楽しそうにチョコレートを交換する。それはデブも例外ではなく、今日は髪をセットしてきている。そこじゃねえだろデブ。チビはあくまでいつも通りを
受験が嫌いだ。志望校をどこにするかと、2人に尋ねる。デブは県内公立、チビは就職らしい。僕はどうしよう。自分はどうなりたいのだろう。室咲さんにも聞いてみた。「私は都内を志望するかな。田舎じゃ見れない景色があるからね」と空に腕を伸ばしながら言う。彼女らしいと思った。
夏休みが嫌いだ。今年は受験ということもあって、室咲さんはよく図書館に誘ってくれた。僕は彼女に勉強を教えた。僕はけっきょく、室咲さんと同じ大学を志望することにした。受験が成功すれば、告白をするつもりだ。
初詣が嫌いだ。今年はお互い、受験が成功するようにと願った。僕の方は告白の成功も、一緒に願った。室咲さんは帰り道に甘酒を買って、僕はコンビニで唐揚げを買った。ひと口あげる代わりに、ひと口貰った。甘酒は嫌いだ。甘くて、甘かった。
受験が嫌いだ。僕は第一志望の大学に合格した。喜びを噛み締めるように心の中でガッツポーズを決めると、すぐに彼女の受験番号を探した。なかった。彼女は「おめでとう!お祝いしなきゃね」と言った。なんて声をかければよかったのだろう。僕には分からない。分からないから、ダメなのだ。
卒業式は嫌いだ。長時間安いパイプ椅子に座らされて、顔も見飽きたオジサンの話しを永遠と聞かされる。この時間に、いろんなことを思い出す。走って怒られた渡り廊下。室咲さんと帰ったあの坂道。天井に挟まったバレーボール。教室の隅にある10円玉。ぜんぶ、忘れちゃうのかな。いやだな。スッと、目を拭った。楽しかったな。3年間。「写真撮ろうぜ!」と、デブが目を涙でグシャグシャにしながら、スマホを向けた。僕はカメラに向かってピースサインをする。チビは泣きながら変顔をしている。それを見て笑った。すると、室咲さんが友人達と別れて、
「またね」
「うん、またね」
僕は
" 僕は僕が嫌いだ "
結婚式はやっぱり大嫌いだ。高校時代の同級生が集まる席で僕は
僕は帰り道にお酒を買った。缶チューハイを何本も買った。それを飲んでは潰して、飲んでは潰した。でも、潰れていくのは自分だった。僕は僕が嫌いだ。嫌いだ。嫌いなんだよ。ばかやろう。涙なんて流すなよ。ばかやろう。戻りたい。あの頃に、戻りたい。でも、
戻れない。
〜 一度流れた時間は戻りません。あなたの横にいる人も、いつかはいなくなるでしょう。あなたは大切な人に好きと伝えていますか。 〜
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