第7話 決別

そのウィンターベアは鋭い眼光を私へと向け、様子を伺っている。私はメリーナを箒から降ろし、箒を構える。


「メリーナ。君は暗闇に隠れていて。私が合図したら、メリーナが持ってる瞬間最大火力の大魔法を撃ちこむんだ」

「うん。任せて。破壊力には自信、あるから」


 メリーナはそう言って、私から少し離れて暗闇に潜む。私はウィンターベアの方へと向き、息を吐く。白い息が光魔法により浮かび上がり、空へと浮かぶ。そして、静寂の夜空の元、夜風が頬を撫でた瞬間に私たちは開戦した。

 

 こちらへと駆け出すウィンターベア。その巨体とは思えない速さは見る者を圧倒するのだろう。その鋭い爪を光らせ、体全体を使って力強く振りかざす。私は箒を使って移動しながら避け、氷属性の小魔法で牽制し、風魔法で打撃を喰らわせていく。その巨体はひるむことなく私に近づき、爪を突き立てようと躍起になる。私は回避以外にも、盾魔法による多様な形の氷属性の魔法盾を作り出し、的確に攻撃の軌道に出現させて防御する。魔法盾による防御とそこから派生する反撃を繰り返し、次第に疲弊していくウィンターベア。攻防の果てに、私の反撃の一撃により大きくのけ反ったタイミングを見逃さず、私は畳みかける。

 ウィンターベアの足元に氷属性の中魔法を発動し、氷漬けにして動けなくした。動けないことに気づいたウィンターベアは凍った足に気を取られ、私から視界を外した瞬間、私は大魔法級の氷属性魔法を無詠唱発動し、巨大な氷の蛇を出現させ、ウィンターベアの体を締め付けた。


「メリーナ、今!」

  

 私はメリーナに大声で合図を出す。すると、どこからともなくメリーナの詠唱が聞こえてくる。


「滾る紅蓮の魂、復讐の拳に乗せ、世界を焦がせ。『アグニデッド・ブロウ!』」


 詠唱が終わるや否や、彼女の声がした方角から光魔法よりも明るく燃える炎が出現した。あらゆるものを焦がすほどに強力な炎は何かを焦がしている匂いを纏わせ、メリーナの拳を彩っている。

 彼女は走り出す。真っすぐ魔物の方へと、迷いなく。そして、魔物に向かってとびかかり、すべてを焦がす炎を宿した右手を以て、魔物の顔面へと殴り掛かった。炎の拳をぶつけられた魔物の顔面は即座に燃え、体毛を焦がす。さらにその炎は魔物に当たった瞬間、丸々と包み込むほどに巨大な炎へと変化し、そしてその炎は巨大な口を開けた獣へとなり、そして、最後には魔物を喰らい、炸裂した。

 

 辺りに舞う炎の中、焦げ続ける魔物の姿を真っすぐ見つめる、メリーナがそこにはいた。


 

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