第6話 抱える真実

 小雪が後ろに流れ、少し冷える風を顔に浴びながら、郊外へと飛び出す私たち。夜は徐々に深みを増す時間帯となり、雲の切れ目から覗く月明りが行く道を照らす。雪原には高い木々はあまりなく、見通しは良い。


「それで、どこがその奇跡の夜景スポットになるの? ここから近い?」

「うん、街の人たちの話しだと、そこまで離れないよ! 少し先にちょっとした丘があって、そこは街の外で休憩できる場所になってるんだ! そこなら座って夜空を見れるんだよ! とりあえずこのまま真っすぐで大丈夫!」

「了解だよ」


 私はメリーナに言われるまま、真っすぐ箒を飛ばす。人間二人乗せているため、早歩きより少し早い程度のスピードで進める私。私の腰を掴む彼女は、少し震えているように感じた。


「メリーナ? 震えてるみたいだけど、もしかして寒い?」

「……ううん。違う」

「そっか。寒かったら言ってね」

「……ねえ、アルマリアさん」

「うん」

「アルマリアさんは、魔物に復讐したいって思ったこと、ある?」

「……ないと言ったらうそになるかな。旅をしてると色々とあるからね。メリーナは?」

「わたしはね。家族を殺した魔物を、絶対に許さないって思ってる。私の復讐に燃える炎で焼いてやりたいんだ」

「家族の敵討ちをしたいってことだね」

「そうだよ。摩耗症状で前後の記憶が曖昧になってるけど、多分、あの日、私たち家族も今日向かってる場所に向かったんだと思う。場所はお父さんとお母さんが知ってたから、私と弟は具体的な場所は知らなかったけど、多分そう。でも、何があったのかは、無意識に脳が記憶してたみたいで、覚えてるんだ。両親にあと少しだよって言われた瞬間に、あの魔物に出会ったんだ。額に傷があるウィンターベア。ここらじゃあまり出てこない魔物だったのに、そいつが出て来た。それで、お父さんと私で応戦したけど、ダメだった。いくら天性属性でもまだ未熟な使い手だった私は炎魔法を使いすぎて摩耗症状が出て倒れた。当然ウィンターベアは私を狙って、お父さんが守ろうとしてお父さんもやられた。その後、逃げてたお母さんと弟を追って捕まえて、わざわざ私とお父さんのところまで持ってきたんだよ。その先は……」


 彼女は言葉に詰まる。ここまで聞けば後は何があったのかは容易に想像できる。


「メリーナ……」

「ごめん。でも、話したい。もう、自分の心の中でだけで納めるには辛すぎるんだ」

「分かった」

「……まずはお父さんからだった。学校で勉強したけど、魔物って生き物食べて個体数を増やすんだよね。だからそいつもそうしてた。お父さんは声をあまり出さなかったけど、お母さんと弟は違った。助けを呼ぶ声じゃなくて、痛みと絶望を声で耐えるようにした叫び声。最後に弟の声が聞こえなくなったと同時に、私は騎士団に助けられた。奇跡の夜景を見たのは、その出来事の時なんだよ」


 腰を掴む彼女の腕がより震える。


 「私以外家族は死んだんだよ。いや、まあ厳密に言えば両親二人のおばあちゃんおじいちゃんは生きてるけど、でも、私の両親と弟は死んだ。その事実をちゃんと認識できたのが、イヴリン先生と話した時だったけどね」

「イヴリンは良い先生だよね。友達だから、私も友達視点でそう言える」

「うん。本当に思うよ。それでね、その事実を認識して、どうやったら自分の中で折り合いをつけるか考えたんだ。それで、何も根拠はないけど、奇跡の夜景をもう一度見て、あれが現実に起きたことなんだってもう一度自分に突きつければ、前を向けると思ったんだ。それと、一番はその魔物に復讐すること」

「そっか」


 私はそれ以上何かを言うことはしなかった。安い励ましの言葉は彼女に響かない。一番は彼女の希望に寄り添うことだと思う。

 

 私は箒を走らせ続ける。夜空の雲の数が少なくなり、ほとんど夜空と星々が見えるようになった時、進行方向に何かいることに気づいた。私は察し、箒の速度を落とす。私はメリーナの名前を呼び、メリーナも恐らく状況を察したのか、「うん」とだけ返事した。

 箒の速度は落ちていき、そして止まる。私は頭上に光魔法を発動して周囲を見えやすくした。そこにいたのは、人間2人分はあるであろう大柄の体格を持ち、額に傷を持つウィンターベアだった。

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