第3話 あの日見た奇跡

 「お、おはよう、メリーナ。具合の方はどう?」


 イヴリンは彼女の隣に座り、そのまま問診を始めた。私は静かに予備でおいてあった木の椅子を持ち、イヴリンの傍に移動させ、座る。赤茶色のロングが肩にかかり、燃える赤色の瞳はイヴリンをしっかり見据える。いかにも明るい系の性格をしていそうだが、その目元は少し黒ずみ、顔全体はあまり笑えていない。そんな風に、私は見える。


「それで、そちらのお人は、イヴリン先生のお友達ですか?」

「あ、ええっと、そうだね。この人はアルマリア。学校時代からの、と、友達、だよね?」

「なんで疑問形? 初めまして。私はイヴリンの友達のアルマリア。旅人をしてるんだ」

「……わあ、旅人さん! 私はメリーナって言います! いいなあ世界巡ってるって! ねえねえ、色んなお話し、聞かせて……」」


 メリーナはそう言って前のめりになる。それと同時にせき込んですぐさま顔をそむけ、せきがこちらに行かないようにしている。イヴリンは彼女の背中をさすり、同時に医療魔法を軽くかけ、せきの軽減を図る。すぐに彼女は落ち着き、苦笑いを浮かべた。


「ごめんなさい。興奮するとせきが出やすくて。本当に嫌になるなぁ」

「ううん、別に謝らないで良いよ。旅の話しだよね。良いよ、どういうのが聞きたい? 魔物との戦闘? ギルドのこと?」

「えっとね。珍しい景色とか!」


 私は彼女の希望通り、今まで旅をしてきた中で感動した景色の話しをすることにした。夜に降る流星群、木々の宴にオーロラの出会い、そして朝に見られるダイヤモンドダスト、植物が織りなす炎と風の妖精ダンス。どの話も彼女を喜ばせることに成功し、大満足の笑顔を見せながら話を聞いていた。


「すごいすごい! そんなすごい光景が世界にはあるんだね!」

「そうだよ。世界は広いし、まだまだ見たことない景色がいっぱいあるんだ。ほら、北の方で起こると言われてる奇跡の景色、流星群とオーロラ、夜中に発生する特別なダイヤモンドダストの三重奏。あれは一度見てみたいとは思ってるんだ。それを見にここに来たと言っても過言じゃないよ」

「……実はね。わたしそれ、見たことあるんだよ」


 急にメリーナの声が少し低くなり、そう呟く。私は逃さずその話題を続ける。


「そうなんだ。それはどこで見た? この街にいる間に見れるかな?」

「えっと、場所は、あんまり具体的には覚えてない。あれはね、私が騎士養成学校の中学部を卒業する前の時期だったよ。家族と、それを見に行こうってなって、見られる可能性のある天気と時間に、郊外に出たんだ。その時に、見れたんだよ」

「なるほどね。どうだった? 綺麗だった?」

「うん、すごくきれいだった。でも……」


 彼女は一呼吸おいて、先ほどの笑顔とは一変し、悲しそうな表情で言う。


「綺麗だったという感情と一緒に、悲しかった思い出になっちゃった」


 彼女はベッド傍の床頭台に置いてある一つの写真を見る。そこに映るのは彼女と、恐らく両親、弟と思われる人たちの集合写真。

 

 彼女にとってその夜の奇跡は、喜びと悲しみが共存した奇跡となってしまったのだと、察したのだった。

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