第27話
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第二コロニーの上層、俗に王宮と呼ばれる建物から一人の女が出て来る。
切れ長の目付きに度の強い眼鏡をかけ、身体にフィットした女性用ビジネススーツを身に纏っている。外見は明らかに上流の仕事人といったところだが、どこか侍女の雰囲気を醸し出す人物だった。
足早に王宮を辞去する彼女の傍に、同じくスーツの女が素早く寄って来る。
「——社長、政府とのお話は如何でしたか?」
「……駄目ね、全然駄目。全くもってお話にもならなかったわ。女王陛下にも御目通りは敵わなかった」
後から寄ってきた秘書である女性に、社長——シャーロット・テイラーは苛立ちを隠さずに吐き捨てた。
整った顔を強く歪めて、不快感を露わにする。
「政府高官も、軍部の男共も、どいつもこいつも腰抜けの玉無しよ。私がどれだけ訴えても、口を揃えて『国際問題を起こして戦争の引鉄を引く訳にはいかない』の一辺倒だったわ。この気高き第二コロニーに関わる施設をテロ紛いに襲撃されたというのに」
「……そこまで弱腰ですか」
「ええ、そうよ。挙げ句の果てに、女王陛下のお言葉を盾にして言い訳を重ねていたの。あまりに不快だったので、途中で切り上げてきてしまったわ」
シャーロットは思い出す事で怒りが再燃する。目の奥が赤くチラつくのを抑える。
ほとんど見る事すらされなかった提出用の資料を詰めた鞄を秘書に渡した。資料の中にはこれまでの根底を覆すような兵器に関する物もあったが、今すぐにでも燃やしてしまいたい気分だった。
「お優しい女王陛下は、事を荒立てるのをお望みでない……それはわかるわ。けれども臣民である私達が、それに甘えるのは愚行もいいところよ。手を汚すのは私達臣民でなければならない。それが我々の職務なのだから」
シャーロットは停めてあった高級車に乗り込むと、ぐったりと背をシートに預ける。けれども押し寄せる疲労感に負ける訳にはいかなかった。
「誰もが戦争を忌避し恐れる——それは当然の話よ。けれども人には立たねばならない時がある。……それは誇りを汚された時よ。だと言うのに、ジョーンズは軍の派遣を出し渋り、私達の妨害工作まで行っているわ」
「……我ら南インド会社の戦力を信用されていないのでしょうか」
「わからないわ。もしかしたら、私が女だからと舐められている可能性もある。けどね、かつては遅れを取った軍事産業について、我が社は世界に追い付きつつあるわ。それはこれまでの数字で証明している。特に強化外装開発に関しては、あのGAFAN社の最新型に匹敵する機体を作り上げた自負がある」
運転席に乗り込んだ秘書が収納から湿らせたタオルを差し出す。それを受け取ったシャーロットは、瞼に乗せて緊張感をほぐしていった。
使い終えたタオルを秘書に返すと、シャーロットの瞳に再び強烈な光が輝く。ぎらついた、狂信的な光だった。
「いずれにしても、このまま指を咥えて見ている訳にはいかないわ。女王陛下の敵は叩いて潰す——それがあのお方に見出された私の使命。大恩を返すためにも、弱腰のジョーンズには付き合っていられない」
「彼らはどうやら傭兵を雇ったようだと情報もありますが」
「穢らわしい傭兵如きに、私達の使命を任せるはずがないでしょう。可能なら諸共消してやりたいくらいだわ」
心底不愉快そうにシャーロットが言う。額の血管が浮き上がるほどの憤怒を顔に宿していた。
その様子に秘書が僅かにたじろぐ。
「で、では如何いたしますか。次の手を教えてください、社長」
シャーロットは顎をしゃくって促した。
「決まってるでしょ、内から駄目ならち直接外に働きかけるわ。車を出してちょうだい——大使館エリアまで、ね」
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・幕間のような話のため、本日は少々短くなります。
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