第21話
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第四コロニー、外部接続空港。
此処は各コロニーに設置された空港の中でもかなり珍しいタイプのものだ。通常はコロニー外壁の内部に設置される空港設備だが、この第四コロニー空港に関してはそれに当てはまらず、外壁から突き出すように半ば独立した建造物として建設された。強化ガラス張りの壁と天井は、この近辺の青い空を施設内から見上げる事が出来る。
戦前はキャンベラという名で栄えたこの場所は、太平洋の島国で直接大戦の戦地となっていない。大気と大地が戦火の汚染から比較的逃れる事が出来ていた。現在もその希少な周辺事情を活用して、コロニーへの観光誘致やバカンスが盛んになっている。
また、太平洋地域で残存するコロニーとして、各種交易の中継地点ともなっていた。
ジンとオリヴィアはニコラから報酬を貰うと、その金を持って第一コロニーから離脱。自己所有の小型高速艇を使用して、この第四コロニー空港まで訪れていた。
この場所での目的は、第三コロニーへ渡るための補給地点だ。今も空港のドックに高速艇を入渠させ、燃料補給と補修整備を行っている。
二人の手元にはやはり強化外装の運搬用スーツケースが携えられている。流石に近接武器を布包みで持ち込んではいないが、待機時間だからと油断はしていなかった。
「本当なら、軽い観光でもしたいのですけれどねぇ。狙われているかもしれない状況では、そこまで楽観的に行動はできませんわねぇ」
ガラス壁から外の景色を眺めるオリヴィアは、それでも嬉しそうに笑顔を浮かべていた。
世界を飛び回る傭兵稼業においても、青い空は珍しい。どのコロニーに赴いても、迎えてくれるのは大抵オメガイリジウムの外壁と灰色の空だけだ。コロニー外での依頼であっても、汚染から身を守る装備は欠かせなかった。
「ジョン・ドゥのクソ野郎が結局のところ、何の尻尾も掴ませなかったからな。結果的にニコラに恩は売れたが、第一にはしばらく近寄れねえ始末だ」
ジンも横に並んで景色を眺める。リスクのある状況に変わりはなかったが、久方ぶりのオフシーズンだ。イーサンが報酬を弾んでくれたのもあり、懐には余裕がある。ジョン・ドゥの件さえなければ、しばらくは休息期間になる。そういう意味ではこの第四コロニーの環境はピッタリだった。
やはりジョン・ドゥを殺し損ねたのが痛い。確実に殺るために慣れた刀を使ったが、拳銃で頭をブチ抜くべきだったか。
休暇の恨みを理不尽にジョン・ドゥに叩き付けながらも、青い空と緑の大地はジンの心に落ち着きをもたらす。
「この辺りはほぼ戦地になってない。崩壊した第五に比べると大陸も遠いからな。レアメタルや天然ガス、ウランなんかが資源として採掘できるが、大戦中に一番重要視されたイリジウムが産出されないのがむしろ幸運だった例だろうな。土壌もかなりマシで、降ってくる有害物質を取り除けば一次産業も可能なレベルらしい。自然生物もまだかなりの数が生存しているそうだ」
「それまでは衛星アンテナや通信機、後は触媒に使われるくらいだったレアメタルが、強化外装の登場で一気に戦略物資化しましたからねぇ」
「とは言え、問題が全くない訳じゃない。本来であれば大陸同士の空路を繋ぐ拠点として重要視されるコロニーだが、貿易による収支はそこまで大きくない」
「あらぁ、どうしてですの?」
「政治基盤が弱すぎるんだ。大戦で大きな被害を受けなかった代償と言うべきか、戦果も上げていない。他国が躍起になって獲得した戦略物資も第四には落ちてこないって事だ。結果として、軍事力は高くなく、各コロニー間との力関係が大幅な不利になっちまった」
「ああ……、結局今の時代はどれほど途中経過が間違っていても最後のドンパチで勝てばチャラみたいなところがありますものねぇ」
その代表格である暴力の化身のような女が、首を傾げて片頬に手を当てた。その拍子に大きな胸がゆさりと揺れたが、ジンは努めて視界から外した。
「核でも開発してブチ込んだら話は変わるだろうが、それをすりゃあ本当の終わりだ。第四政府としてはお手上げだろうな」
「やるせないですわねぇ……」
「加えて、コロニーの居住限界の問題は当然ここでも起きている。他に比べれば肺病になるリスクは低いといえ、周辺のスラムは貧困と疫病の収束点だ。むしろ比較的生活しやすい環境だからこそ、コロニー上層もそれを改善する気が薄い。大戦前からの特定民族への迫害も根強く、彼らのような存在は未だにコロニーの外に追いやられているそうだ」
「全く、これだけ美しい自然が残っていても、人間という生き物はどこまでも汚くなれるものですわねぇ」
オリヴィアにしては珍しく皮肉に口端を上げた。それを無感情に見つめながら、ジンも頷く。「違いねえ」
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