〔悪魔〕

 お縄にかかる。素晴らしい言葉だと思った。悪人が捕まる。そう言う意味だけど、もはや使われることはない。それでも、僕たちに逃げ道をくれた。

 一通り準備を終え、缶ビールにまた口をつける。視界の端に金色が光る。目をやると、それは少し錆びたラッパだった。ごちゃごちゃとした部屋をかき分けて、ラッパを手にとる。そういえば、仕事ばっかりで、忘れていた。昔は仲間と共に練習したものだ。

 不意に、神との会話を思い出した。

 

「次はこの人間を殺してくれ」

「え、でもあのナイフはもう切れて」

 僕には記憶を消す権限があるとか、そんな噂が流れていたけれど、あれはデマだ。神が作った、特別なナイフがないと、そんな事はできない。

「見つからなければなければいいだろう」

「でも」

「秩序を保つためだ」

 

 そして、その人間を殺した時のことを思い出した。誰にもばれない。そう確認してやったのに、その現場には、他の人間がいた。みられてしまった。

 僕を見たその人間は絶望して、あるいは激昂して、死んだように倒れた。僕はその場を離れた。

 僕の憧れはあまりにも『知恵』があり、『勇気』があり、『忍耐』があり、『正義』があり、『信仰』があり、『博愛』があり、『希望』があった。

 僕はあまりにも無知で、臆病で、性急で、醜悪で、不信で、嫌悪で、希望で溢れすぎた。

 

 だから僕は今から、文字通りお縄にかかる。いつも仕事に追われていた同僚と、変な寝言を言う癖のある後輩を思い出す。最後だから、とマジックペンで腕に連ねた、“嘘つきはお縄にかかれ!”なんて文字を見て、一人で笑う。

 椅子に足をのせ、首を輪っかを作った縄にかける。その輪が、もう何十年も前に失った天使の輪みたいに見えた。最期までこれかよ。

 白い翼を広げて、ラッパを咥えた。椅子を思い切り蹴飛ばす。部屋中に、金管楽器の甲高い歓声が響いた。

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鳴り止まない歓声 宇宙(非公式) @utyu-hikoushiki

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