第20話 その血潮、夕陽より赤くないですか?
(もう! もう! もう! なに緊張してんのよ!)
エーリックの手が肩に置かれたくらいでウェルシェは悶えまくった。
(抱擁くらい前にしたじゃない)
なんならスケベ心がバレバレのエーリックをからかい、大胆に胸だって押し当てたりもした。
(い、今さら肩に手を置かれたくらい何てこと……ぬにゃぁぁぁぁぁいッ!)
そのままグイッと肩を抱き寄せられ、ウェルシェの心臓が飛び跳ねた。
(落ち着けぇ、落ち着くのよウェルシェ!)
いつだって手の平の上で転がしてきたのに、今はウェルシェの方が頭を抱えて砂浜を転げ回りたくなる衝動を抑えるので精いっぱい。
(大丈夫よ、ウェルシェ! あなたは出来る子! いつものように……)
グッと堪えてウェルシェは頭を寄り添うようにエーリックの肩に乗せた。途端に天使のようなエーリックの顔がダラシなく崩壊する。
(ほぉら見なさい、エーリック様はこういうの好きなんだから)
いつだってエーリックの前でウェルシェは可愛い女の子を演じてきた。そんなウェルシェをエーリックは大好きなのだ。
――エーリックが好きなウェルシェとはいったい何なんだろうな?
トレヴィルの言葉が脳裏を掠める。
(だからなによ。
もともと最初からそのつもりだったではないか。
清楚可憐な令嬢を、ちょっと拗ねてみたり、少し恥じらってみたり、あざと可愛い
だけど……
――エーリック様はホントの私をスキじゃない……
ズキッと胸に棘が刺さったような痛みを覚えた。
(やっぱり、アイリス様みたいな可愛いらしい子の方がいいの?)
あんなのバッタもんなのにとウェルシェはつい心の中で悪態をつく。だけど、それは特大ブーメランとなって自分に刺さった。
――ホントの私はエーリック様が思っているような娘じゃない……
(やっぱり、私……嫌われちゃう?)
自分の本当の姿を知られたらと思うとウェルシェの胸はキュッと締めつけられるような焦燥感に苛まれた。
(エーリック様を繋ぎ止めなきゃ)
その時、ウェルシェは意外とテンパっていた。
それはエーリックから肩を抱かれたからか、それともアイリスの影を感じたからか……それとも、トレヴィルの指摘に罪悪感と焦燥感を抱いたからなのだろうか?
(そ、そうよ、いつものようにエーリック様を翻弄するの。いつだって手玉に取れば大丈夫)
とにかく、ウェルシェはいつものようにエーリックを手の平の上で転がすのだと心の中で言い訳をする。
「エーリック様はご覧になりたいですか……私の水着姿」
大胆にもウェルシェはパーカーのボタンをゆっくり外していく。
「ウェ、ウェルシェ!?」
エーリックの裏返った声にウェルシェはハッと手を止めた。
(わ、私、もしかしてけっこう大胆な事しちゃってるぅ!?)
冷静になってみれば、こんなことまでする必要はない。どうするどうする?とあわあわと心の中は右往左往。
(ええい、ままよ!)
もう引っ込みのつかなくなったウェルシェの暴走は止まらない。
「見たくありませんの? それともこんな破廉恥な振る舞いをする女の子はお嫌いですか?」
ちょっと誘惑してみれば、案の定エーリックは見たいと首をブンブン振っている。
(ほら、これで正解なのよ)
ウェルシェはちょっとだけ胸を撫で下ろすと、再びボタンを外し始めた。
「ウェルシェ……とても可愛いよ」
ついに全てのボタンを外せばパーカーがはだけて水着の前面が露わになる。エーリックの目が自分の胸に釘付けなのは丸分かりだ。
いつもならエーリックの純情を弄ぶところだが、ウェルシェも大概テンパっている。
(こ、ここまで来て今さら後には退けないんだから!)
止めとけばいいのに、ウェルシェはパーカーをしゅるりと脱ぎ捨てた。
「なッ!?」
エーリック絶句!
首かけタイプの水着で小さな肩が露わになり、豊満な胸は水着から僅かにはみ出している。エーリックはその色香にくらりときた。だが、それ以上にエーリックの視線を惹きつけたのは背中。
なんとうなじから腰まで水着がばっくり割れて全て露出しているではないか!?
ウェルシェの白く滑らかな肌も、細い腰のくびれもバッチリ見える。
「いかがですか?」
しかも、ウェルシェはくるりと回ってから少し胸を強調するポーズを取る。
「あうあう、すごくエロ……良い……可愛いし綺麗だよ」
エロリックも大満足の
だが、鼻息荒く目が血走っているエーリックの本音は顔に現れ隠せていないが。
(ちょ、ちょっとやり過ぎだった?)
そんなエーリックの興奮している様子にウェルシェはちょっと後悔した。もしかして、かなりはしたない振る舞いをしているのではないかと。
急に羞恥心が沸いてウェルシェの顔がボンッと音を立て真っ赤になった。シミ一つないウェルシェの真っ白な肌が朱に染まる。
(えっ、えっ、どうして……私、なに緊張してんのよ!)
その事実がさらなる追い打ちとなって、ウェルシェはもうまともに思考が働かない。両手を前で合わせてもじもじと恥じらってしまう。
「ウェ、ウェルシェ……すっごく可愛い……」
エーリックが思わず手を伸ばしてきたので、ウェルシェはビクッと身体を震わせた。急に怖くなってしまったのだ。
「ごめん、嫌だった?」
「いいえ」
ウェルシェは首を振った。
「いいえ、エーリック様になら私……」
ちょっとびっくりしたが、ここまでくれば毒を食らわば皿までだ。
ウェルシェは意を決しエーリックの胸に両手を当てて身を委ねた。そして、顔を上げると目を閉じる。
「ウェ、ウェ、ウェルシェぇぇ!?」
エーリックの声が上ずった。
このシュチュエーションが何を意味するかなど鈍感なエーリックにだって分かるはず。ウェルシェは来るべき瞬間に少しだけ身構えた。
(い、いつまで目を閉じてればいいのかしら?)
だが、いつまで経っても予想した感触が唇に訪れない。
(どうしたのかしら?)
痺れを切らしてウェルシェはそーっと薄目を開ける。
(えっ!?)
目に飛び込んできたのは真っ赤なエーリックの顔。そして、そのままアウアウとフリーズしていた。
そして……
「ブハッ!」
「きゃっ、エーリック様!?」
臨界点突破!――エーリックは鼻血の噴水を撒き散らしぶっ倒れた。
「エーリック様! エーリック様! エーリック様ぁぁぁ!」
ウェルシェの叫びがビーチに響き渡る。
「ちょっ、大丈夫ですかエーリック様!?」
いくら揺すってもエーリックは目を覚ます様子がない。
「もう、どうすればいいよのぉ!」
仕方なしにウェルシェは膝枕をしながら、エーリックのちょっとくせっ毛の金髪を優しく撫でる。
ウェルシェが覗き込めば、エーリックの顔は幸せそうに微笑んでいた。
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