第19話 その水着、本当に見たいんですか?


 めいめいに生徒達が引き上げていく。そんな彼らをしり目にウェルシェとエーリックはビーチに残って海を眺めていた。


「あ、あの、エーリック様……少しだけお散歩…しませんか?」

「う、うん、そうだね」


 なんとなしに浜辺を並んで歩き始めた二人を赤い陽光が焼く。


 水着の上にパーカーを羽織り、腰にパレオを巻くウェルシェ。対してエーリックはサーフパンツのみで上半身を晒していた。


 ウェルシェは横を歩くエーリックをチラッと盗み見る。細いながら意外と引き締まっており、均整の取れた身体にウェルシェの顔が僅かに赤くなった。


 一年前はあんなに頼りなかったエーリックもずいぶん逞しくなったものだ。これも全て自分の為に頑張ってくれたのだとウェルシェは知っている。


 もちろん、エーリックにそう努力するよう仕向けたのはウェルシェだ。前までなら上手く手の平の上で転がしたとケタケタ笑っていただろう。


 だが、今のウェルシェはエーリックが自分の為に一所懸命になってくれるのが何より嬉しい。


 ふと、どちらからともなく二人は立ち止まって再び海へと顔を向けた。真っ赤な太陽が滲んで水平線に少しずつ沈んでいく。


「綺麗な夕陽だね」

「はい……」


 ウェルシェがエーリックの肩に頭をもたれる。そのまま寄り添い静かに夕陽を眺める。はたから見れば夕陽に焼ける若い男女の重なるシルエットが何とも微笑ましい。


 だが、見た目に反してエーリックの心臓は爆音を上げていた。


(ウェルシェの体温がぁぁぁ!)


 自分の肩にかかる柔らかい重みにエーリックの興奮は爆上がり。


(これって肩抱いちゃって良いヤツ? いいんだよね? いいんですよねぇ?)


 エロリック再臨!


(良いよね、良いよね、抱いて良いよね?)


 指をワキワキさせながら手をそーッとウェルシェの肩へとおそるおそる伸ばされる。


(だ、だけど、僕を信じてくれているウェルシェを裏切ることになったりしない?)


 ちょっと臆病ヘタレになるエーリック。しかし、何よりも欲望が勝りエーリックは思い切って肩に手を乗せるとウェルシェを抱き寄せた。


(うはっ、柔ッ、小ちゃッ!)


 前と違ってエーリックの手を隔てるのは薄いパーカーのみ。伝わってくる体温と柔らかい感触にエーリックの鋼(厚さ1μm以下)の理性が破壊されそうだ。


(ウェルシェは……嫌がってないよね?)


 エーリックの手が肩に触れた瞬間、ウェルシェは体をビクッと小さく震わせた。だが、それ以上は抵抗することなく身を預けてくれた。


「エーリック様とこの夕陽を見られて良かった」


 ウェルシェがぽつりと呟く。


 もうちょっと大胆な事をしても良いんじゃないか、そんな邪な考えを抱いていたエロリックは心を見透かされたのかとドギマギした。


「ぼ、僕もウェルシェと一緒で嬉しいよ」

「本当ですの?」


 慌ててエッチ心を引っ込め、エーリックがこくこく頷く。そんな焦って挙動不審になる婚約者にウェルシェはクスッと悪戯っぽく笑った。


「どなたか可愛いご令嬢にお心を移されてはおられませんか?」

「ないないないよ、絶対にない!」


 エーリックは力いっぱい全力で否定した。アイリスの噂の件もあってウェルシェに疑われたのかとも不安になったのだ。


「今日も講義中ずっとウェルシェの事ばかり考えていたんだ」

「まあ、私のせいでエーリック様の成績が落ちてしまわれるかもしれませんの?」

「だ、大丈夫だよ。成績は絶対に落とさないから。来年は必ずウェルシェと同じ特別クラスになるよ」

「ふふふ、信じております」

「ほ、本当に?」

「ええ、実は私も同じなんですの。エーリック様がいない海なんて寂しくって」

「せっかくの海なのにウェルシェは遊ばなかったのかい?」

「はい、とてもそんな気分には……それに、あの、エーリック様以外の殿方に水着姿を見られたくありませんでしたから」

「え?」

「だって、エーリック様の為に選んだ水着なんですのよ」

「ぼ、僕の為に!?」


 顔の前で両手指を合わせてウェルシェはもじもじ恥じらう。可愛いポーズで自分の為だなどと言われてエーリックは舞い上がった。


「思い切って大胆な水着を選びましたの」

「だ、大胆!?」


 ゴクリとエーリックは唾を飲み込む。


「エーリック様はご覧になりたいですか……私の水着姿」


 そう言うやウェルシェはパーカーのボタンをゆっくり外していく。

 ほっそりとした白い鎖骨から大きな胸の谷間が徐々に露わとなる。


「ウェ、ウェルシェ!?」


 幾人もの男子生徒を鼻血の海に沈めた凶器を目にして、思わずエーリックは裏返った声で叫んだ。


 普段は大人しいウェルシェがなんという大胆な行動か!?

 そのエーリックの裏返った声にウェルシェは手を止めた。


「見たくありませんの? それともこんな破廉恥な振る舞いをする女の子はお嫌いですか?」

(大好きです!!!)


 エーリックはもげそうなほど激しくブンブン首を振った。


 それを見てウェルシェは悪戯っぽく笑うと再びボタンを外していく。もったいつけた緩慢な動きがエーリックを否が応でも興奮させた。


 ついに全てのボタンを外せばパーカーの前がはだけ、胸からおへそにかけて若草色のワンピース水着がエーリックの目に飛び込んだ。


「ウェルシェ……とても可愛いよ」


 豊かな胸を強調しながらも若草色のワンピース水着はウェルシェのイメージを損なわず、腰のパレオとあいまって愛らしいデザインとなっている。


 エーリックが思わず呟くほどウェルシェに似合ってとても可愛い。確かに胸部を少し強調してはいる。多くの男子生徒を血の海に沈めただけのことはある。


 だが、それ以外は妖精のような可憐なウェルシェに似つかわしく、とても奥ゆかしいデザインだ。


 エーリックはそう思ったが……次の瞬間、その判断は早計であったと思い知らされた。


 ウェルシェがしゅるりとパーカーを脱ぎ捨てる。


「なッ!?」


 その全容を目の当たりにしたエーリックは言葉を失ったのだった。

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