第4話 その悪役令嬢達、本当に仲良くなったんですか?


「ウェルシェの周りは相変わらず騒がしいみたいね」

「笑い事じゃないわよ」


 イーリヤにくすくすと笑われ、ウェルシェはぷぅっとむくれた。そんなウェルシェを可愛いなぁとイーリヤはニマニマと眺めた。


「無防備な顔を見せるから男共が寄って来るのよ」

「普段はちゃんとお澄まししてるわ」

「自覚が足りてないか」


 イーリヤは公爵令嬢、ウェルシェは侯爵令嬢。二人にはそれぞれ高位の貴族令嬢としての立場がある。しかし、身分の違いがありながら、今の二人は随分と気安い。


 出会いから半年ほど、二人は親交を深め今では意気投合している。お互い言葉も砕け、無防備な表情かおも見せるようになっていた。


 本日もグロラッハ邸の庭園でカミラの淹れてくれた紅茶を啜りながら二人だけの密会中だ。


「それにしてもトレヴィルがねぇ」

「やっとケヴィン様の件が片づいたと思ったのに」


 うんざりと言ったていでウェルシェはため息を吐いた。


「ふふふ、ウェルシェはホント人気者ねぇ」

「すけこましに用はないわよ!」

「ケヴィンの時と言い、ウェルシェはプレイボーイを引き寄せるフェロモンでも出してるんじゃない?」


 イーリヤはアハハハと声を立てて笑うとウェルシェに睨まれてしまった。イーリヤはごめんごめんと謝るがウェルシェはプイッとそっぽを向く。


 こんな少女らしいところは本当に可愛いなぁとイーリヤは思う。大人顔負けの策略を巡らし、海千山千の貴族達さえ手玉に取る腹黒令嬢とはとても思えない。


 ただ、ウェルシェにも弱点はあるとイーリヤは知っている。

 自覚していないようだが、それは恋愛にあまりにも疎い事。


「だけど真剣な話、トレヴィルには気をつけなさい」


 だから、イーリヤは親友である腹黒令嬢に忠告しないわけにはいかないのだ。


「彼はケヴィンと違ってただの女たらしじゃないから」

「あれは擬態カモフラージュってこと?」


 飄々としながらも時折トレヴィルは鋭い眼光を見せる。ウェルシェもなんとなく気にはなっていた。


「まったくの擬態ってわけじゃないと思うけどね」


 聞けば昨年まではイーリヤにしつこく迫っていたらしい。その様子だけを見れば女好きのバカ王子なのだが、イーリヤはそうではないと断言した。


「私もつき纏われていた時、気になってトレヴィルの周辺を調査したんだけど……」


 彼は結構な切れ者で、イーリヤを射止めて彼女の商会の財産と人材をまとめてトリナ王国へ持って帰ろうと画策していたらしい。


「それならどうして私に乗り換えるようなマネをしたのかしら?」

「あなたを堕とした方が有益と判断したんじゃない?」

「私がイーリヤより?」


 どうやらウェルシェの本性腹黒を知って興味を引かれたようだ。


「どうしたらそんなアホな判断になるのよ」


 だが、ウェルシェからすれば、どう考えてもイーリヤの方が優良物件としか思えない。ウェルシェはトレヴィルもやっぱりアホ王子だと認定した。


「なに言ってんの。私と違ってあなた真正の天才じゃない」

「はぁ?」


 ウェルシェは何をほざいてんだコイツと呆れた視線をイーリヤに向けた。


「この国の最上位の公爵令嬢にして、剣も魔術も学園最強の才媛が何を仰るのやら。加えて今やマルトニア王国でも屈指の商会を運営する敏腕経営者のイーリヤより私が天才?」

「そうよ」

「はっ、へそで茶が沸いちゃうわよ」


 ウェルシェだって自分の能力には自信がある。しかし、幼少期より数々の実績を積み上げてきたイーリヤこそ真正の天才だ。誰がどう見てもイーリヤに軍配が上がる。


「あなたは領政改革して小麦の安定供給化を成功させたでしょ」

「それこそ元はイーリヤの発案でしょ」

「私がしたのはちょっとしたアイディア提供だけよ」

「そのアイディアを思いつけるのが凄いんじゃない」


 仲良くなってイーリヤが儲け話を持ち込んだのだが、その手法にウェルシェは少し手を加えたに過ぎない。


 だが、イーリヤは首を横に振った。


「言ったでしょ。私のはチートだって」


 ――『チート』


 ウェルシェは数ヶ月前にイーリヤの口からその言葉を聞いた時の事を思い出していた。

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