第68話 その婚約者、本当に危機なんですか?
「お見事でございます」
「マリステラ先輩には悪い事をしたけどね」
後はナイト達に任せて、エーリックはウェルシェの行方を追うべくスレインと共に講堂を出た。
「あの状況で彼女が不満を言えるはずもないからね」
あの場で不満を口にすれば狭量との謗りは免れない。度量を示して名を売るのが貴族というものだ。
彼女が常識的な貴族令嬢ならば、おのずと対応が限られてくる。エーリックもそれを分かっていたのだ。
「申し訳ないけど急いで場を鎮めるにはあれしかなかったから」
泰然自若としているように見えたエーリックであったが、その心の内は一刻も早くウェルシェを探しに行きたかった。
だから、手っ取り早く場を収め、かつ捜索へ行く口実を得るため手段を選んでいられなかった。
ウェルシェが絡むとエーリックは一味違う。
「ですが、私はてっきりウェルシェ様の有利になるよう取り計らうものとばかり思っておりました」
「身びいきしていては兄上のことを言えないでしょ?」
確かにそうしたかった気持ちはあるけどね、とエーリックは苦笑いした。
「自分の愛する方を
「うん、そうだね……だけど僕は王子なんだ」
スレインにはエーリックの横顔が少し寂しく見えた。
「たとえ婚約者のためだって王族の権威をむやみやたらと使っていいものじゃないと思うんだ」
「ご立派です」
落ち着いて穏やかに微笑むエーリックの成長した姿に、スレインは頼もしさと共に寂しさも感じた。
(エル様にはもう私は必要ないのかもしれない)
これからはウェルシェの元にいるレーキやジョウジのような若く優秀な者達が、自分に代わってエーリックの支えとなってくれるだろう。
「それで、これからどうなさいますか?」
「まずはセルランと落ち合い――」
エーリックとスレインは連れ立って廊下をウェルシェの控え室の方へ向かっていたが、講堂からさほど離れていない所で話題の男とばったり出会った。
「セルラン、ちょうどいいタイミングだね」
「殿下!?」
驚いたのはセルランの方であった。
「どうかしたの?」
「えっ、あっ、いえ、あはは……」
実はセルランはこの場で待機していたのだ。
彼は既にケヴィンが学園に潜入しており、レーキ達がそれを捕縛するために動いている情報を入手していた。
だが、あまり早くエーリックが乱入しては計画が破綻してしまいかねないので、知らせに行くタイミングを計っていたのである。
「ちょうど殿下のもとへ向かうところだったもんで」
「うん、僕らもちょうどセルランを探していたとこなんだ」
エーリックから講堂での出来事を聞いたセルランは頷きながら思案した。
(まだちょっと早い気もするが……これ以上は引き延ばせんか)
「レーキ達から聞いたんですが、どうやらケヴィンが学園に来ているみたいなんです」
「なんだって!?」
エーリックは最悪の事態が脳裏に浮かび青ざめた。
「それではウェルシェ様はもしかしてケヴィンの魔の手に?」
「ま、ま、まさか、ウェルシェにいかがわしいマネを!?」
恐怖に
「それはまあ……婦女子を
「ぐわぁぁぁ! あのヤロー絶対ブッ殺す!!」
スレインの不安を
「ウェルシェに指一本触れてみろ、王族の権限総動員してでもこの世から抹殺してやる!」
「殿下、落ち着いて」
前言撤回するエーリックのブチ切れに、スレインのさっきまでの感動と感慨がすべて台無しである。
「場所はもう判明していてレーキ達が救援に向かっておりますのでご安心ください」
「安心できるかぁぁぁ!」
愛する婚約者にケヴィンがあれやこれやウラヤマケシカラン行為におよんでいるかと思うとエーリックは発狂しそうだった。
「スレイン! 僕達も現場へ行くよ!」
「エル様、それは王族として褒められた判断ではありませんぞ」
王族が婚約者とは言え自分の身より一令嬢を優先するのは許されない。
「王族の立場なんて知るか! そんなものよりウェルシェが大事なんだよ!!」
だが、スレインの制止もエーリックを止められそうもない。
セルランはため息が漏れたが、すぐにふっと笑いが零れた。
「殿下はそれでいいと思いますよ」
セルランは腹を
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