第48話 その第二王子、腹心がいたんですか!?
「エル様、お帰りなさいませ」
ウェルシェと別れ城内の私室へと戻ったエーリックを迎えたのは、燃えるような赤髪の少年であった。
「ただいまスレイン」
彼はエーリックの乳兄弟であり今は腹心となっているスレイン・ウォードである。エーリックを愛称の『エル』と呼ぶのを許された唯一の腹心だ。
「思ったより早かったじゃん」
そのもう一人の側近である黒髪の青年が気怠そうな茶色の瞳をチラリとエーリックに向けて粗雑な物言いで尋ねる。
彼の名はセルラン・セールズ。
「殿下の事だから姫さんとこ行ったらしばらく帰らねぇと思ってたのに」
ソファにだらしなく腰掛け、とても主人に対する態度ではない。が、エーリックもスレインも諦めて咎めはしない。
エーリックがセルランの対面に腰を下すと、スレインが手際良くお茶を用意した。
「それで、妖精の姫さんは何の御用だったんで?」
エーリックが一口お茶を飲んでティーカップをソーサーに戻すのを待って、セルランが話を切り出した。
「それなんだが……」
エーリックは信頼する腹心達にウェルシェがストーカーに狙われているのだと説明した。
「なるほど、ウェルシェ様にそのような危機が」
「すっげえベッピンさんだもんなぁ。そりゃ狙ってる男の一人や二人いるわなぁ」
「だが、王妃殿下よりエル様の婚約には不可侵の下知が言い渡されている。ウェルシェ様に手を出せば無事では済まないと分かりそうなものだが……」
「ストーカー野郎なんて異常者だから常識は通用しねぇさ」
「セルラン、少しは真面目に考えろ」
「オレぁいたってマジメだぜ」
スレインとセルランが
「殿下はどうお考えなんで?」
「ん?」
セルランに話を振られ、エーリックは思考を中断して顔を上げた。
「エル様は
「だとすっと、目的は姫さんを献上して側近に返り咲く事か?」
それは無理がねぇかとセルランはレーキ達犯人説には懐疑的だ。
「レーキやジョウジはオーウェン殿下を
「そうだね。彼らがそんな愚かな選択をするとは考えにくい」
エーリックもあっさりセルランの考えに賛同の意を示した。
「かと言って彼らがウェルシェの周囲に張り付いているのもまた事実」
「姫さんの話じゃ護衛してるんだろ?」
「彼らの狂言の可能性もある」
つまり、ストーカー自体が彼らの虚言で、ウェルシェを近くで監視する口実にしているのではないかとエーリックは考えているのだ。
「まあ、絶対ないとは言えねぇな」
「だけど、彼らの忠告が真実でウェルシェを狙う不埒者が別にいる可能性も低くない」
「ではエル様はどうなさるおつもりで?」
スレインとセルランの視線がエーリックに集中する。いつものエーリックならキョドリそうであったが、意外にも彼は二人の目をしっかり受け止めた。
「スレインとセルランも協力してくれるかい?」
返された瞳のいつもと違う強い光に二人はたじろぐ。
「それはもちろんエル様のためならば」
「給金分くらいはちゃんと働きますぜ」
「ありがとう二人とも」
二人の返答にエーリックは頷いた。
「状況を単純に分ければレーキ達の狂言と他にストーカーがいる二通りある。だから、双方のケースを想定する必要があると思うんだ」
「それは、まあ……そうですが……」
「できれば殿下のご命令通りにしたいんですがね……」
スレインとセルランは困ったように顔を見合わせる。できれば二人とも優しい主人の願いを叶えてあげたい。
「ですが、やりたくっても人手が足りませんや」
エーリックは第二王子であるが、もともと国王を目指していなかった彼の腹心は生真面目なスレインと物好きものぐさ者のセルランの二名だけである。
「私とセルランにも配下らしい配下をあまり持ってはおりません」
つまり、エーリックが動かせる人員はほとんどいないのである。
「うん、だから二人にはレーキ・ノモ達に接触してもらおうと思うんだ」
「「はい?」」
エーリックの意図が読めず二人は首を捻った。
「僕らだけでウェルシェを守りながらレーキ・ノモ達を監視し、ストーカーについて調査するのは不可能だと僕も思う」
二人に同意するエーリックは、しかし特に迷う様子も見えない。
「だから、人はいるところに出してもらおうよ」
「それがどうして彼らとの接触に繋がるのですか?」
「うん、つまりね……」
エーリックの考えはレーキ達に協力すると同時に彼らを監視するというもの。
「ストーカーが彼らの狂言であれば、潜入している二人に証拠を掴んで欲しいんだ」
「なるほど、俺にも殿下の考えが見えてきやしたぜ」
「えっ、どういう意味です?」
セルランは合点がいったようだが、スレインは首を捻った。
「レーキ・ノモ達の狂言であれば彼らを見張っているだけでいいし……」
「レーキ達の言うようにストーカーが本当にいたら、ヤツらから情報を流してもらえばいいって事さ」
「なるほど、人のいるところとはレーキ・ノモ達の事でしたか」
やっと理解が追いついたスレインが感心したように頷いた。
「さすがはエル様です。誰も思いつかない素晴らしい策でございます!」
「スレイン、それは言いすぎだよ」
エーリックは相変わらず主人に甘いスレインに苦笑いを返す。
「いやぁ、事実この案はかなり現実的で現状で打てる最高の手ですぜ」
「ふふっ、そうだと良いけどね」
そう謙遜するエーリックには、しかしいつもの自信なさげな少年の姿はどこにもなかった……
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