第37話 そのザマァ、本当に必要ですか?
「あらあら、エーリック様、大丈夫かしら?」
見た目詐欺のウェルシェからお色気攻撃を不意打ちで食らい、エーリックがフラフラと地に足がつかない状態で帰っていく。
それを見送りながらウェルシェはくすくす笑った。
「あれはやり過ぎだったのではありませんか?」
ウェルシェがチラリと背後を見やれば、カミラが
「ん、何の事?」
だが、ウェルシェは頬に右手を添えて可愛い仕草ですっとぼける。
「そんな可愛い子ぶっても私には無意味ですよ」
「むぅ、カミラも可愛いの好きでしょ?」
ウェルシェが口を尖らせるが、そんな子供っぽい態度も愛らしく、同性であってもくらりときそうだ。
「小さい頃はお嬢様はお可愛らしくモノホンの妖精でございましたのに……」
カミラはハァっとため息を吐き出して、どこで間違ったのかと嘆いた。
「何よ、今だって私はカワイイわよ。学園じゃ『妖精姫』って呼ばれてるんだから!」
みんなから背中に美しい羽根が見えるって言われてるんだからと、カミラの前でウェルシェはクルリと回って見せた。
拍子にふわりとスカートが舞う姿は、とても幻想的で絵本から美しい妖精が出てきたよう――
「最近の妖精にはコウモリの羽と悪魔の尻尾が生えているとは存じ上げませんでした」
――だが、物心ついた頃より傍にいたカミラには妖精の皮の下に隠しているウェルシェの本性はバレバレである。
「それに胸を押し当てるのは少々破廉恥ではありませんか?」
「頑張ったエーリック様にちょっとしたご褒美くらいいいじゃない」
淑女の在り方について
「お嬢様の
「殿方ってこういう
先程のエーリックのオタオタぶりを思い出してウェルシェはケタケタ笑った。
「あんまり
もて遊ばれている
「それに、不用意に刺激していたら羊の王子様でも狼に変わりかねません。少しお気をつけてくださいませ」
「あれくらいなら大丈夫じゃない?」
「お嬢様はご自分の魅力値の高さを見誤っているので少し心配です」
今回の騒動、元はと言えばウェルシェが男子生徒を無意識に魅了しまくったのが発端だ。カミラとしては主人に己がどれだけ男達を惑わせているか自覚してほしい。
「分かったわよ。以後は気をつけますぅ」
「ホントですかぁ?」
カミラは疑った。
「お嬢様はとても優秀ですが、悪ノリして目的そっちのけで手段を楽しむ傾向がございますから」
「そんな事……」
「ありますよね!」
カミラにピシャリと強く言われてウェルシェの目が泳ぎだす。
「お嬢様は楽しみ優先の快楽刹那主義者ですから……今回の件だってオーウェン殿下をちょっと追い詰め過ぎたのではありませんか?」
ぐぬぬぬぬ……自覚のある確信犯ウェルシェは言い返せない。
確かに今回もついつい楽しくなってやり過ぎた。
王妃オルメリアのお茶会まで新たに配下にしたレーキやジョウジ達を使って色々と蠢動していたウェルシェであるが、裏工作が楽しくなってついケヴィンだけでなくオーウェンまでも追い詰めてしまった。
「ただ単に目的を遂行するよりも楽しんだ方がいいじゃない?」
「まあ、私は構いませんよ」
嘯くウェルシェだったがカミラは澄まし顔で
「ですが、オーウェン殿下が即位できなくなって困るのはお嬢様ですよね?」
「ぐはッ!」
会心の一撃にウェルシェは胸を押さえた。
そうなのだ。
オーウェンが悔い改めてくれないとエーリックに順番が回ってきてしまう。
「オーウェン殿下が失脚するのも時間の問題ですねぇ」
「それは
「このままではエーリック殿下が王太子に……そうなるとお嬢様が王太子妃に、ゆくゆくは王妃ですか」
それも良いかもしれませんねとカミラが呟けば、ウェルシェはガタリと椅子を蹴って立ち上がり両手を✕に交差させる。
「それは絶対にイヤ!!!」
冗談ではない!
ウェルシェそんな面倒断固拒否!!
「まったく……お嬢様自身が撒いた種ではありませんか」
我が儘ですねぇとカミラは呆れ顔だ。
「だって、まさか何か問題を起こしたわけではないオーウェン殿下の罰がここまで重くなるなんて思わないじゃない」
在学中に汚名を返上できなければ王位継承を剥奪されてしまうのだ。かなり重い処罰と言わざるを得ない。
「それにあれだけ好き勝手されたのよ。少しは痛い目に遭わせなきゃ気が済まないわ」
ちょっとお灸を据えるつもりだった。
まあ、ほんのすこ~しグロラッハ家におこぼれを頂こうかな、と邪な気持ちはあったし、ほんのちょっぴり悪巧みが楽しくなってしまったところはあったが……
「一時の溜飲を下げる為に自分まで損害受けてたら世話ありませんね」
はっ!とカミラはバカにして笑う。
専属侍女にあるまじき所業である。
「カミラ! あなた私の侍女よね!! 私があなたの主人よね!!!」
カミラに甘いウェルシェもさすがにバンバンとテーブルを叩いて猛抗議だ。
「はい、私は幼い頃よりお嬢様にお仕えしている忠実な侍女にございます。ゆえにご忠告せねばならないのです」
主人の不興にも鉄面皮の侍女は素知らぬ顔で言ってのけた。
「そのザマァ、本当に必要だったんですか?」
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