第13話 その兄弟、本当に仲いいんですか?

 マルトニア王国には歳の近い二人の王子がいる。


 正妃オルメリアの長子オーウェンと第一側妃エレオノーラの子エーリックである。


 オーウェン16歳、エーリック15歳。


 二人は一つしか歳は変わらず、取り立てて能力に大きな差の無い。加えてエレオノーラは現国王の寵姫であり、この現状は普通なら王位継承の火種となりかねない。


 しかしながら、エレオノーラはおっとりした控え目な性格で、エーリックに王位を継がせようとする野心は持ち合わせていなかった。だから彼女は常にオルメリアを立てている。


 覇気の無い側妃だと口さがない者の陰口もあるが、彼女に強い権力欲があれば今頃は血で血を洗う政争が巻き起こっていただろう。


 それを理解しているからオルメリアは賢明にもエレオノーラを侮らず、蔑ろにせず第一側妃としての立場を庇護してオーウェンの王位継承に波風が立たぬよう腐心しているのだ。


 エーリックの婿入り先をグロラッハ侯爵家にして優遇したのもエレオノーラをはばかってのこと。


 このように、気を使う王妃とのほほんとした側妃の関係は周囲が思うよりも良好である。


 だから今までエーリックとオーウェンの仲も悪くはなかった……はずだった。


「そこで何を騒いでいる!」

「兄上!?」


 ウェルシェとの楽しいひとときを兄の側近に邪魔され、しかも自分達の婚約に難癖をつけられて難渋していた。


 そこに側近を引き連れて現れた実の兄オーウェンにエーリックは少し嫌な予感を覚えた。


「いくら学生食堂カフェテラスとは言っても限度があるぞ」

「周りの生徒達にも迷惑だよね」


 赤髪の武骨なクラインと白髪赤瞳アルビノの美少年が居丈高な態度で現れウェルシェはわずかに顔をしかめた。


 言わずもがなクラインはウェルシェの友人キャロルの婚約者である。


 アルビノの美少年はコニール・ニルゲ――オーウェンの婚約者イーリヤ・ニルゲ公爵令嬢の実弟だとウェルシェは記憶している。


 レーキ・ノモ、ジョウジ・シキンら賢臣忠臣がオーウェンの側近から罷免され、彼はその後釜としてオーウェンの側近になったとウェルシェは情報を得ていた。


 さすがに聖女様が顔面偏差値で選んだだけあって、ちょっと背は低いが透き通るような白皙の美少年である。


 だが、何にせよ王族同士の会話に許しもなく割って入り、しかもエーリックに向かって嗜めるような発言をする二人にウェルシェは内心でムッとした。


 あまりにエーリックを軽視した態度である。


「ケヴィン先輩が僕とウェルシェの婚約に言い掛かりをつけてきたんです」


 だが、もともとエーリックは被害者であり、彼に何ら臆するところは無い。

 この怒りに任せず冷静に対応するところはウェルシェにはポイントが高い。


 やはりケヴィンのような訳の分からない生き物より、エーリックの方が万倍も良いとウェルシェは心の中で改めて再確認した。


「それに王家を軽んじる発言もあって抗議していたところです」

「なに?」


 エーリックに自分の側近を非難されてオーウェンは顔を険しくする。


「誤解です。決して私は王家に反意はありません」


 そこにケヴィンが直答を許されていないないのに口を挟んできた。


 この行為もそうだが、エーリックを無視してウェルシェを口説くのは王家を軽んじる行為であると認識していないらしい。


「私はただエーリック殿下が権力を使って不当に愛し合う者達を引き裂く無体を嘆いたに過ぎません」


 その発言こそ王家への不満と同じだと言うのに……つまりはケヴィンにとってエーリックは王家の一員ではないのだ。


「待ってください。先程からウェルシェはずっとケヴィン先輩に好意を寄せてはいないと言っているではないですか」


 エーリックの言葉にウェルシェはうんうんと頷く。ケヴィンのような支離滅裂な男を好きになる要素はウェルシェにはミジンコ程もないのだ。


「そうやって権力で以て私のウェルシェに虚偽を言わせるなど見苦しいですよ」


 誰がお前のだ!!!と心の中で絶叫するウェルシェであったが、王族同士の会話に口を挟むわけにもいかない。


 だから先程からウェルシェは口を噤んでいたのだが……


(オーウェン殿下の側近方が礼を欠いて口出ししているし……私も直答して良いのかしら?)


 だが、エーリックの歓心を買う為におっとりとした淑女を演じている以上、ウェルシェは迂闊に意見も言えない。


(うううっ、もどかしい)


 自分で己に課した設定のせいでウェルシェは身動きが取れない。完全なる自縄自縛、自業自得、因果応報である。


 こんなウェルシェをカミラが見たら笑うか呆れるかのどちらかだろう。


「いい加減な事を言わないでください!」

「二人の仲が悪いとアイリスから聞いている」

「僕とウェルシェは良好な関係を築いていますし、この婚約は王家とグロラッハ侯爵家の契約でもあるんですよ」

「ほら、そうやってすぐに王家の権力を盾にする」

「ケヴィン先輩、あなたという人は!」


 温厚なエーリックが珍しく声を荒げたが、それも無理はないだろう。それほどケヴィンは無礼を働いているのだから。


 その時――


「そこまでにしろ」


 それまで黙っていたオーウェンが言い争うエーリックとケヴィンの間に割って入ってきた……

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