アリスは超が付くほどのドジでもある
小鳥が
「おい! アリス! この飲み物は何だ!?」
「不味過ぎるわよ!」
「お
アリスが出した食後の飲み物を盛大に吹き出す三人。
「滋養強壮の紅茶でございます。
アリスはニコリと微笑む。悪気があるようには感じられない。アメジストの目はキラキラと輝いている。
「何でものを出してくれるんだ! 今すぐ普通の紅茶を持って来い!」
「承知いたしました」
デュドネに言われ、アリスは少し肩を落として滋養強壮の紅茶を片付ける。
そして……。
「きゃっ」
滋養強壮の紅茶をトレーに乗せて部屋を出ようとした際、何もないところで
「
ポットの中の熱々の紅茶がデュドネの肩にかかる。
「デュドネ様!」
「お父様!」
慌てるジスレーヌとユゲット。
「まあ! 叔父様、申し訳ございません! ただいま服をお脱がせします!」
アリスが勢いよくデュドネの服の肩の部分を破るのだが……。
「あー!!
何と皮膚が服に付いて剥がれてしまったのだ。
「まあ! 皮膚が……! どうしましょう?」
アリスは目を見開く。
「アリス! 何をしているの!? 火傷した場合服を脱がさずそのまま冷やすのが常識でしょう!」
思いっ切り顔を
「お父様が可哀想だわ」
ジスレーヌと同じく顔を顰めてアリスを非難するユゲット。
「そうだったのですか!? それは申し訳ございません。熱い衣服だと叔父様もご不快になると思い、早く脱いでいただこうと思ったのですが……」
アリスは申し訳なさそうに肩を落としたように見えた。
またある時、アリスはデュドネの部屋に荷物を持って来た時のこと。
「アリス、何をぐずぐずしているんだ! 早く持って来い!」
「はい。……きゃっ」
デュドネに急かされたアリスはまた何もないところで躓いて転ぶ。その際、置いてあった書類をぶち撒けてしまった。
「何をしているんだ!」
「申し訳ございません。今すぐ片付けます」
アリスは散らばった書類を慌てて片付けようとするが……。
「きゃっ」
再び何もない場所で躓いて転んでしまう。そして起き上がる時、格調高いチェストに運悪く頭をぶつけた。驚いたアリスはその拍子に本棚にぶつかる。本棚は鈍器のような本がたくさん入っており、中々の重さではあるが重心が不安定であった。そして本棚はデュドネの方に倒れる。
「なっ!」
鈍器のような本がデュドネ目掛けて落ちる。ゴンッ、と鈍い音が響きデュドネは本棚の下敷きになってしまった。
「まあ! 叔父様! どうしましょう!」
アリスはオロオロしていた。
幸い他の使用人が本棚をどけてデュドネを救出したので大事には至らなかったが、デュドネはそれなりの怪我を負うのであった。
「アリス……貴様はもう部屋から出るな!!」
デュドネは怒髪天を
♚ ♕ ♛ ♔ ♚ ♕ ♛ ♔
(部屋から出るなと言われてしまいましたわ……。どうしましょう……?)
アリスは自室でため息をつく。
(考えても仕方ないわ。最近ダンスのレッスンもあまりしていなかったから、ステップの復習をしようかしら。窓も開けて換気もしましょう)
すぐに切り替えたアリスは自室の窓を開け、中くらいのぬいぐるみをダンスのパートナーに見立ててステップの練習を始めた。
(一人の練習も中々楽しいわね)
アリスはふふっと微笑む。アメジストの目は輝いている。
(そういえば、婚約者のボニファス様とも幼い頃こんな風にダンスをしたわね。……ボニファス様とは、
アリスはふと婚約者の存在を思い出した。モンレリ伯爵家次男ボニファスは、アリスと結婚してルシヨン伯爵配となる予定である。ルシヨン伯爵家の後継者はアリスなのだ。
ボニファスのことを考えながらダンスの練習をしていたアリスは注意力が散漫になっていたのか、次のステップを踏んだ瞬間ぬいぐるみを窓の外に飛ばしてしまった。しかもかなりの勢いで。
「あ……」
アリスは急いで窓の外を見る。
ぬいぐるみは庭にある木の枝にぶつかる。その瞬間、その木にあった蜂の巣が地面に落ちた。
そして丁度落ちた所にはジスレーヌとユゲットがいた。
「きゃーっ! お母様、蜂の巣よ!」
「どうして落ちて来たのよ!?」
慌てるユゲットとジスレーヌ。しかし蜂は容赦なく二人を襲った。しかも運悪くそれは猛毒を持つ蜂であった。
(大変なことになりましたわね……)
アリスは急いで窓を閉めた。
(だけど、正直に話した方がいいかしら?)
その後医者を呼び、ジスレーヌとユゲットの治療をしてもらったので何とか命は助かった。ちなみに、ダンスの練習をしていた時にぬいぐるみを飛ばして蜂の巣を落としたことを正直に話したアリスは、やはり怒られた。
♚ ♕ ♛ ♔ ♚ ♕ ♛ ♔
そんなある日、アリスの婚約者であるボニファスがルシヨン伯爵邸へやって来た。
(あら、ボニファス様だわ。久方振りね)
アリスは自室の窓から庭を歩いているボニファスを見かける。ブロンドの癖毛にクリソベリルのような緑の目の、アリスより一つ年上の少年だ。
その時、ユゲットが嬉しそうにボニファスの元へ駆け寄った。蜂の毒からは回復しているようだ。ボニファスもニマニマと頬を緩ませる。
(あら、ボニファス様、あんな表情もするのね)
アリスはアメジストの目を丸くした。
ユゲットは親しげにボニファスに寄りかかっている。まるで昔から交流があったかのように。
(あらまあ)
アリスのアメジストの目は丸くなったままであった。
一方、ユゲットとボニファスが何をしていたかというと……。
「ねえ、ボニファス様、お義姉様ったら酷いのよ。わざと私のものになる予定だったドレスに変な刺繍を入れるし、変なお茶を出してくるし、おまけにぬいぐるみを投げて私とお母様が猛毒を持つ蜂に刺されるように仕向けたのよ」
上目遣いで甘えた声を出すユゲット。
「何だって!? 酷い奴だな、アリスは。アリスの両親は厳しい人だと聞いていたが、亡くなった途端本性を現したのか。まあ、昔から俺より優秀で鼻持ちならない奴だったが」
ボニファスは憤慨する。
「ボニファス様、だったらお義姉様ではなく私と婚約したらどう?」
甘え声でボニファスに擦り寄るユゲット。
「妙案だな。アリスなんかより、可愛いユゲットの方がずっといい」
ボニファスはニヤリと笑った。
「やったわ。ありがとう、ボニファス様。少し暑くなってきたし、お部屋でティータイムにしましょう」
ユゲットがそう提案すると、ボニファスは快く頷いた。
そしてまた騒ぎが起こる。
ユゲットとボニファスがティータイムを楽しんでいる部屋にアリスが入って来た。
「お義姉様! どうして入って来るのよ!?」
ギョッとするユゲット。ボニファスも嫌そうな顔になる。
「え? 折角だしボニファス様とユゲットにお菓子を持って来たのよ」
ふふっと微笑むアリス。
「まさかまた変なものが入ったお菓子じゃないでしょうね?」
「まさか。変なものなんて入っていないわ。普通の焼き菓子よ。置いておくわね」
楽しそうに微笑むアリス。そのまま部屋を出ようとしたが……。
「きゃっ」
またしても何もない場所で
「きゃあ! お義姉様、何するのよ!?」
ユゲットが悲鳴を上げる。アリスが掴んだのはユゲットのドレスであった。そしてそのドレスは派手に破れてユゲットの肌が露わになる。ユゲットは必死に自身の体を隠す。
「あら、ユゲット、ごめんなさい。急いで代わりのドレスを持って来るわね」
アリスは立ち上がるが、慌てていたせいでテーブルの紅茶をこぼしてしまう。熱々の紅茶はボニファスの下半身に直撃した。
「
ボニファスは思わず立ち上がる。
「おいアリス!何てことしてくれるんだ!?」
ボニファスはアリスを怒鳴りつける。
「申し訳ございません、ボニファス様。あ、少々お待ちください」
アリスは部屋の花瓶の花を取り出し、中の水をボニファスの下半身にぶっかける。
「冷たっ! アリス! 今度は何だ!?」
「火傷をした場合、服を脱がせず上から水をかけたらいいと言われましたの。これでボニファス様の火傷も軽減するかと思いまして」
「俺にこの格好でいろというのか!?」
顔を真っ赤にしてカンカンに怒っているボニファス。場所が場所なだけに、粗相をしたように見える。
「火傷をなさったままよりは良いと思いまして」
アリスはきょとんとしている。
「もういい! アリス! お前みたいな女とは婚約破棄だ! こんな女よりユゲットと婚約する!」
勢いに任せてそう宣言してしまうボニファス。
「まあ……。承知いたしました」
アリスはアメジストの目を丸くし、そう答えるのであった。
「ユゲット、婚約おめでとう」
ニコリとユゲットに笑みを向けるアリス。
「今それどころじゃないでしょう!」
破れたドレスで必死に体隠すユゲットに火傷を負ったボニファス。部屋の中はカオスであった。
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