6.夢を語り合ってる時に水を差すんじゃねぇよ
アリスと一緒に部屋を飛び出し、俺達は廊下を疾走していた。並み居る兵士たちを跳ね除け、突き飛ばし……なんというか、ものすごく清々しい気持ちである。
「乗せてもらって悪いなアリス! 重くねぇか?」
「ぜんぜん大丈夫です! というより、その……これからどうすれば……」
「取りあえず外に出よう! 何も考えなくていい、とにかく探してくれ! どうせこんな貧弱な兵士共じゃ、誰もお前を止められやしねぇんだ!」
「……やっぱり、私はバケモノなんでしょうか」
「んなことねぇよ! 強くてかっこいいじゃねぇか!」
何気なく言った一言のイタさに、自分で気づいてから恥ずかしくなる。しばらく兵士共の叫びのみが響き、アリスはとにかく走った。廊下を下り、兵士共を薙ぎ払いながら……割と本気で敵なしの無双ぶりを見せてくれた。
(思い出すなぁ、子供の頃……ゲームの中でよく車を使って戦ってたっけ)
車に乗って人を跳ね飛ばしまくるというとんだクソゲーだったが、クソガキだった俺とその愉快な友達にとっては、大切な思い出だった。この世界にゲームという概念は……多分無い。そもそも、機械という概念すらなさそうだ。
「……俺にも、楽しい時間があったんだな」
抱くはずのなかった暖かい思いを、なるべく忘れないようにしようと思った。辛いことばかりが印象に残ってしまうのが人間だから、楽しいこともあったということを思い出していかなければ……そうじゃなければ、前の世界にいたときの俺みたいになってしまう。
「……なぁ、アリス」
「な、なんですか」
「ここを出たら、お前は何がしたい?」
「……分かりません」
「じゃあ、俺と来いよ」
「えっ……?」
唐突に思いついた夢を、誰かと共有したかった。俺は年甲斐もなく、口の両端を緩めながら言った。
「この世界でしかできねぇことをやるんだ、俺は。つまんねぇ人生じゃなくて、もっと大変で愉快で……あの世で腹抱えて笑えるような、そんな波乱万丈に呑まれてみたい」
「……? どういうことですか?」
「冒険だ」
力も、知恵も無い。それをする理由なんて、この一時の感情だけで……それが長続きする可能性だって低い。──それでも。
「俺は、もっとこの世界を知ってみたい……そう思ったんだ」
「……それは、いいですね」
語った夢の大きさに、自分でも笑ってしまうというのに。
この狼の少女は、それを正面から尊重してくれた。
それが嬉しくて、なんだか……本当に自分ならできる。そう思った。
「ひっ捕らえろ!!!!!」
直後、俺とアリスは囚われた。硬く、きつく編まれた縄の中に。天井にぶら下がったまま、俺は下にいるその人物の名を……噛み潰すように呟いた。
「バンドン……!」
不敵に、それでいて……眉間にしわを寄せながら、奴は笑っていた。
ナマムギナマゴメナマタマゴラァッ! 〜取り柄が「滑舌」しかない俺、転移先の異世界にて最強魔法使いになる〜高速詠唱? いいえ、ただの早口言葉です。 キリン @nyu_kirin
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