5.魔法の呪文に見覚えがありすぎる
そのまま俺とアリスは、互いの距離感を模索しながら……お互いのことを話し合った。
俺もアリスの話は凄く面白かったし、アリスも俺の身の上話を目を輝かせながら聞いてくれた。こんなに喜んでくれるのなら、俺の人生も捨てたもんじゃなかったのかなぁ……なーんて、これから終わるような嫌な想像をしてしまうのは、前の世界から変わらない悪い癖である。
そして話していくうちに、アリスの複雑な事情も分かってきた。
「私の母は、獣人族の王女だったんです」
「獣人……じゃあ、その姿は」
アリスは頷いた。そのゆったりとした仕草は、よく見るとどこか品があって……どうにも獣にはないような、人間らしさが漂っていた。これが人から獣に、獣から人に姿を変える獣人族だからこそ持つ、なんとも言えない佇まいなのだろうか?
「母の血が濃かったのでしょう。……お父様は、生まれたばかりの私を見るやいなや、母を殺しました」
「なんだって!?」
「聞いた話によれば、母の故郷の国は壊滅。そのせいで獣から人に戻る方法を知る前に、私はこの牢獄の中に閉じ込められてしまいました」
なんと酷い話だ。あのクソジジイ、自分の嫁と娘にまで手をかけるだなんて……許せない。
「……出よう」
「え?」
「アリスちゃん、俺と一緒にここから出よう。なんにも悪いことをしていないのに、閉じ込められるだなんておかしいに決まってる」
「コトバ様……」
とてもまぁ、我ながら臭い台詞を吐いたものだ。自分を縛る縄を自力で解くこともできないくせに、ここから出ようなど……まぁでも、俄然やる気が出てきた。──あのジジイに吠え面かかせて、泣いて詫びるまで殴ってやる。
「だからその、なんだ? 縄をだな……解いてくれないか?」
「……ありがとう、ございます」
アリスは意外にも、器用に尖った爪で俺の縄を切ってくれた。ようやく自由の身となった俺は、自分の体になんの外傷も痛みもないことを確認する……うん、大丈夫だ。
(さて、どうやってここから出ようか……って、なんだあれ)
堅牢な扉の壁際に、なにかある。恐る恐る近づいてみてみると、それはぐちゃぐちゃした線やらなんやらが書かれたなにかだった。これは……何だ、文字か? ──待て、なんだか読めるぞ……何々……ん?
「な、なまむぎなまごめなまたまごぉ!?」
絶対出てこないような単語の羅列。思わず俺は、大きな声でそれを唱えてしまった。──次の瞬間。扉がバラバラに崩れ、霧散していく……その奥には広い通路が広がっていた。
「……ええ……?」
何がなんだかさっぱりわからないが、取り敢えずこの部屋からは抜け出せそうだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます