第4話

 市場の蚤の市に出かけた。古着や食器、装飾小物、絵画と取り留めもなく並んだ店を眺めながら歩いていると、大小さまざまな箱を並べた店があった。きれいな彩りの紙の箱、木目そのままの簡素な木箱、重そうな鉄の箱、いろいろだ。

 ひげ面の店主は退屈そうに椅子に腰かけていた。

「見せてもらっていいですか」

 尋ねると、店主はあくびまじりにうなづいた。

 繊細な模様を彫り込んだ小箱が目を引いた。歩み寄ると、足元の何かにつま先が当たった。台の下にも箱が置かれている。

 昔、本の挿絵で見た宝箱のような作りで、円柱を半分に切った形の蓋と四角い本体には帯状に鉄板が貼られ、鋲が規則正しく並んでいた。古いものらしく、木材は黒く変色していたがとても頑丈そうだ。同じ鋲が打たれた、しっかりした錠前もついている。

「何でも入りそうですね」

 私が店主に言うと、

「ああ、大抵の物は入るさ。工夫は必要だろうがね」

 私が客になると思って店主は椅子から立ち上がった。私は値札を見た。手持ちで足りる値段だったので買うことにした。

「配達するかね。持って帰るかね」

 聞かれて、持って帰ると答えた。店主は渡した紙幣を古いレジスターにしまいながら言った。

「リテンションリミットは十年だから気をつけて」

「何ですって」

 私は聞き返した。

「リテンションリミット。保管期限だよ」

 十年。少し不安を覚えたが店主に頷いて、私は両手で箱を抱え上げた。ずっしりと重く、配達を頼めばよかったと後悔した。

 汗まみれになりながら箱を抱えて家に帰ると、少女が食堂の椅子に座っていた。

「何買ってきたの」

 少女が尋ねた。

「箱よ」

「何入れるの」

「さあ、何を入れようか」

 意地悪な視線を向けると、少女は慌てたように椅子から滑り降りて、廊下を走っていった。

 後で玄関に行ってみると、揃えた赤い運動靴がやっぱり残っていて、私はがっかりした。

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