糖度が足りない!




「いちゃつきが足りないと思うの」


 突拍子もない言葉はカリンから出たものだ。レナとエリアスは不思議そうにカリンを見つめ、そんな光景を前にして、これから一騒動始まる気配を察してクラウドは小さくため息を吐いた。




「え……あ、そうなの? ってそうよね、いつもこうして私とエリアスが一緒にいたらカリンは中々殿下といちゃいちゃできないもんね」


 ごめんね、とレナが続ける前にカリンが叫ぶ。


「違うわお姉様! 足りないのはお姉様とお兄様よ! わたしと殿下なんてどうでもいいの!」

「……いや、これっぽっちもどうでもよくなさそうなんだけど……」


 カリンの背後にいるクラウドは虚無顔だ。分かりきった答えだったとしても、婚約者の口から断言されてはこんな顔にもなる。


「二人ともやっと本当の夫婦になったっていうのに、ちっともらぶらぶいちゃいちゃしないのはどうかと思うの!」

「ええええ……」


 言いがかりにもほどがある。レナが救いを求めてエリアスへ視線を送ると、可愛い妹の困った発言に兄は苦笑を浮かべた。


「カリン、レナが恥ずかしがり屋なのは知っているだろう? 人前でそんなことはできないよ」

「じゃあ人前じゃなかったら?」

「もちろんいちゃいちゃしてるしらぶらぶしてる」

「してませんよ!」

「そうなの!? え、どこで!? お家!?」

「家はヘルガとルカがいるからあまりできないかな」

「いやだからしてませんって!」

「じゃあどこでいちゃいちゃしているの?」

「帰りの馬車の中」

「帰りだけ? 王宮へ来る時はしないの?」

「行きでやると、レナが落ち着きを取り戻すまで時間がかかるからね」

「わーっっ!! も、ほんと、してませんからね!! これっぽっちもいちゃついたりらぶ……らぶなこととかしてないのに! さも日常的に、みたいに言わない!!」


 あまりにも淀みなく、そして具体的に答えるエリアスに向かいレナは首まで真っ赤に染めて叫ぶ。するとカリンが愕然とした顔でレナを見つめる。


「え!? お姉様してないの!? 本当に!?」


 嘘でしょう? と本気で疑い、そしてなんだか怯えてさえいるかのごときその反応。レナは一瞬自分が間違っているのかと考え、いや違う私は間違えていない! と己を奮い立たせる。

 だが、即座にそれを吹き飛ばされた。


「レナの反応からしてその通りなんだろうが、流石にそれはエリアスがかわいそうだろう」

「まさかの裏切り!」


 てっきり傍観している、仮に参戦するにしても自分の味方だとばかり思っていたクラウドにまで責められ、レナは悲鳴を上げる。


「無自覚期間を入れても六年だぞ六年」

「それだけ拗ら……思い続けているお兄様に、少しくらいご褒美をあげてお姉様」

「待ってちょっと待ってこれは別にご褒美とかそんな話じゃ」

「いいんだカリン、殿下。俺はレナの側にいられるだけで充分……幸せだから」

「そうやって私の罪悪感煽ってくるーっ!!」


 あからさまにシュンとした顔をしつつ、それでも笑顔を浮かべる美形を相手に誰が太刀打ちできようものか。そこにさらにカリンとクラウド、これまた美形の二人がエリアスの味方に付いているのだからもう、レナは全面降伏するしかない。


 その後に時間、レナはカリンとクラウドに懇々と説教される羽目となった。


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