4日目②

 南さんの埋められていた場所への往復で時間がかかってしまったせいか

広場に着いた頃には辺りは少し薄暗くなっていた。

真宮首謀者説を伝えられた事で心が軽くなった僕は

一ノ瀬非ヒロイン説はとりあえず今は心にしまっておく事にした。

田中は絶対に暴走する…まずは佐藤さんに相談だ。

離れた木々の中から、田中の双眼鏡を使って状況を見る。

広場の大画面には半数以上の名前に線が引かれていた。

画面を見る限りでは名前に線が引かれているメンバーは僕らを含めて14人。

僕と田中と佐藤さん、木村君と森山さんと菊池さん、この6人を除くと、

本当に死んでしまったのは本田先生と生徒7人…

そして画面にはない用務員の南さん…

森山さんと菊池さんに話を聞いた以降は犠牲者はいないようだが…

「ちくしょう、結構死んでるじゃねぇか!」田中が悔しがる。

そう、僕らの行動次第ではもっと救えたかもしれない…

だからこそ、これから救える人は絶対に諦めたくない…!

広場には相変わらず主人公チームが常駐している。

ふと泉さんがこちらの方を見ているような気がした。

僕はすぐに木の陰に隠れたが、興奮している田中はなかなか身を隠さない。

「おい!田中!頭下げろ!」小声で田中に注意する。

「何だよ急に…」「泉さんが見ていた。」「え!?」

「何度も言うが、僕達は今死んだ事になっているけど、もし主人公達に僕達が

生きている事がばれたら、またあっちのフィールドに逆戻りだ。

それだけは絶対に避けないといけない。」

「分かってるよ…」ふてくされる田中。

その時広場が騒がしくなってきた。

「あれ…煙が出てない…?」木村君が宿舎を指さす。

「宿舎が…火事!?」


* * * *


「こいつら全員いなかったら、食料はオレらのもんだろ!?」

鬼久保が包丁を片手に暴れていた。

すでに一人の女子が刺されて倒れていた。

同じ3班の大森がそれを止めようと割って入る。

「鬼久保さん!さすがにそれはやりすぎッス…!!」

言い終わるか否か、鬼久保は容赦なく大森も刺した。

「ぎゃっ!!」崩れ落ちる大森。

「何やってるんだ鬼久保!!」俺は他の生徒達に避難を促す。

「オレじゃねぇよ…これは殺人犯の仕業だぜ…お前らが全員死ねばそれで

ごまかせるだろ?」くくく、と笑う鬼久保。正気じゃ無い。

女子は叫び声を上げ、男子もわめきながら宿舎を飛び出していく。

「逃がさねぇよ…皆殺しだ!!」鬼久保は手に持っていたライターで火を

つけはじめた。カーテンやカーペットに引火する。火の周りが早い…

そいうえば灯油臭いが、もしかして撒いたのか…?

「オレは前からお前が気に入らなかったんだよ東雲…!」

「ちょっと鬼久保君…!」一ノ瀬が割って入ろうとする。

「一ノ瀬!!危険だから早く逃げるんだ!!」今の鬼久保は危険だ…!!

「他の部屋にいる生徒にもできるだけ声をかけて…!」

ここで俺が鬼久保を止めるしかない…!

「おい!東雲!大丈夫か!!」片桐が駆けつけてくれた。

「ああ、それより鬼久保を止めないと…!」

しかし鬼久保は思ったより早い火の周りを見るや、後退し始めた。

「お前らはここで燃え尽きな…!!」そういって舌を出すと

勝手口の方から外へ出て行った。

「片桐!俺達もここから早く逃げないと…!」

しかし片桐は部屋の奥に倒れる2人に目を向ける。

「あの2人は…!?」

この火の周りでは奥まで行くのは危険だ…しかし…

「俺が見てくる…!」進もうとする俺に後ろから声がかかる。

「東雲君!早く!火の周りが早い!」振り返るとそこに泉がいた。

「泉!?早く外に出るんだ…!!」俺は立ち止まって彼女の方を向く。

その時、奥に倒れる2人の上に火の付いた柱が落ちてきた。

向こうに進んでいたら危なかった…

「行こう!ここから早く出るんだ…!」

俺は片桐と泉に声かけ、3人で火の手を避けつつ、外へ向かって走り出した。


* * * *


 なんてこった…!

膠着状態が続いている今、ここで作者はモブを一掃する気だ…!

思ったより勢いよく燃えているようだが、どうせあれだ、冬支度のストーブ用灯油

でも撒いて都合良く火の周りが早い展開にしてんだろう、この15流作者…!

しかし火事なら、何人か救ってもごまかせるかもしれない…!!

「田中と木村君はここに逃げてきた人達をできるだけ助けて!」

「お前は!?」

「僕は中を見てくる!!」

そう言うと僕は宿舎へ向かって走って行った。

宿舎は火に包まれている。

遠くを走っている東雲達の姿が見える。

と言う事は今は神の目が届かない場所と言う事だ。

多少の大声だって許されるはず…!

ドアを開けると大声で叫んだ。「誰かいないか!?!?」

奥の食堂の方に倒れている人が見えるが、もうそこは火の手で行く事は出来ない。

ごめん…しかし落ち込んでいる場合じゃない。

まだ逃げ遅れた人がいるかもしれない…!

僕は耳を研ぎ澄ませる。

「…れかぁ…」

小さな悲鳴が聞こえた。

手前の部屋だ…!!

僕は部屋に飛び込んだ。「誰かいるのか!?」

そこには逃げ遅れた鬼久保率いる3班の3人がいた。

「あ…」できるだけ関わらないと決めた3班のメンバー…

いや、しかしそんな事を言ってる場合か…?

「大丈夫か!?」僕は姿勢を低くして3人の元へ進んだ。

三上君と山井さんと橋元さん…

「やだぁ!鈴木が見えるぅ!!あたし死んじゃった!!」山井さんが泣き出した。

「だから鬼久保と関わりたくなかったのにぃ!!」

橋元さんも山井さんと一緒に泣き出す。

「大森ィ!大森が死んじまったよぉ!!」三上君もパニック状態だ。

ああ、彼らだって好きで鬼久保と関わってた訳じゃないんだよなぁ…

「助かりたければしっかりしろ!!」僕は3人に活を入れる。

「いいか!黙って僕に付いてくるんだ!そしたら助けてやるから!!!」

「幽霊になった鈴木が私達を助けに来てくれた…?」いや…そうではないけど…

しかし今はその解釈の方がやりやすそうだ。

「いいから僕に付いてきて!!」3人は無言でうなずく。

煙で息が出来ないが、できるだけ姿勢を低くして移動する。

大丈夫、僕は死んだモブなのだから、ちょっとやそっとじゃ死なない!!

そう信じて前へ進んだ。

火の手はまだ玄関付近までは回ってきていない。

「早くこっちへ!」手招きすると這って付いてくる3人。

ガラガラと音を立て、奥の方から崩壊していく宿舎。

とにかく今は前を見て突き進む…!

大した距離ではないのにとんでもなく長く感じる…

なんとか入り口へ辿り着く事が出来た。

外へ出て、森の方へ隠れるように移動する。

途中、森の中に倒れている2人の男子も助けた。元井君と竹内君だ。

気を失っているが恐らくは大丈夫だろう…

まだパニック状態の3人に僕は指示を出した。

「いいかい、これから絶対に見つかってはいけないのは1・2班のメンバーと

鬼久保だ。こいつらに見つかったら君達は死ぬ。いいね?」

多分何を言ってるのか絶対意味が分からないであろう事も

この非常事態、助かりたい一心で真剣にうなずく3人。

「後で迎えに来るから、この場所でじっと隠れてるんだよ。

この2人も面倒見てね。」

僕は宿舎から離れた森の中の小さな洞穴に彼らを押し込んだ。

「助かりたければ絶対に隠れてるんだよ。」僕は念を押した。

3人とも一心にうなずいて泣きながらその場にうずくまっていた。

「神様仏様鈴木様~。」僕がその場を離れると泣きながら手を合わせるのが見えた。


やめて。

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