3日目④

* * * *


もうすぐ日暮れ。

俺は広場のスクリーンの前に立っていた。

スクリーンの名前には多くの名前に線が引かれている。

本田先生。

広場で死んだ伊藤と山口。

毒を飲まされた佐々木と北川。

猛獣に襲われた鈴木、佐藤、田中、高橋、渡辺。

罠にかかった中山。

崖から落ちた森山と菊池。

自ら命を絶った木村…。

もう14人も死んでしまった…

もっと救えたんじゃないか…?

悔しさに自然と拳を握る。

「そんなに力まないで。」後ろから優しい声がした。

「泉…」そこには悲しげに微笑む彼女が立っていた。

「東雲君が悪いんじゃないよ。」隣に立つ彼女。

俺よりもずっと身長が低く小柄な彼女だが

俺よりもずっとしっかりとそこに立って前を見据えていた。

彼女だけは絶対に…

固く心に誓ったその時、森の中にそれを見た。

「あ…」俺は目を疑った。

「どうしたの…?」泉が訝しげに俺を見る。

「いや…あそこ…」そこにいたのは死んだはずの人間。

見間違い…?疲れてるのか…?何度も目をこするが消えてくれない。

震える指先を見た彼女は小さく微笑んで「あそこが何か?」と何事も無いかのように返してきた。

見えてない…?…そうだよな…そんな事あるはずない…

俺は小さく笑った「いや、気のせいだ…」頭を振ってもう一度同じ場所を見ると

もうそこには何も無かった。

「もう日が暮れるよ。ずっとここにいるのも危険だわ。

早く戻りましょう。」彼女がそっと俺の肩に手を置く。

「悲しい事が続いて、東雲君疲れてるのよ。少しは休まないと…」

そっと俺の手を引いて歩き出す彼女。小さな手だ。でも温かい。

俺は彼女の手を強く握ると、彼女もまた握り返してくれた。

なんとしても俺達は生き残るんだ…!

俺は今しがた見た幻へ、そっと心の中で手を合わせ2人で宿舎へ向かった。


 夜、森の奥で見つけた木の実とと湧き水を皆に分けている所へ

3班のメンバーがやってきた。

「おいお前ら、いつの間にか飲み水も食料も確保してんじゃねぇか…!」

鬼久保が詰め寄ってきた。

「ああ、あの袋だけじゃ足りないからね。他に確保できる場所を見つけたよ。」

結局全ての食料袋は回収できなかった。袋の食料と確保した食料、

それをちまちま大勢で平等に分け与えてなんとか凌いでいる。

「場所を教えろよ…!」更に鬼久保が詰め寄る。

「君が言ったんじゃないか、それぞれで飲み水、食料は確保って。」大河内が言う。

「それに、君達に教えたら自分達だけで占領するだろ?教えられないね。」

片桐が失笑する。

「君達は探索も非協力的だ。こういう時だけ頼りにされても困る。」

そう言って俺は他の生徒の元へ食料を渡す為その場を後にした。

「お前ら後悔させてやるからな…」

鬼久保の憎しみのこもった声が後ろから聞こえてきた。


* * * *


 深夜…ムクリと起きる僕。今見た夢が原因だ。

ここに来てほとんど見る事がなくなったスマホをポケットから探り出す。

充電はまだかろうじてある。

早くに眠りについたせいか、スマホの時計はまだ深夜零時を回っていなかった。


 どうして僕はこんなに鈍感なのか…

主人公目線なのに気付いたのもさっき。おまけに今の夢…

主人公…東雲がいつも目で追っていたのは…泉さん…?

どうも…そんな気がする。

主人公が東雲、そして守りたい彼女は泉さん…

だとすると、一ノ瀬さんは…?

先ほど田中とのやりとりを思い出す。


「で、でもさ、一ノ瀬さんは大丈夫なのか?危険は起きない?」

田中が不安そうに聞く。

「とりあえず彼女はヒロインだから大丈夫だと思う。」


 本当に彼女がヒロインなのか…?

もしかしてヒロインは泉さんなのでは…?

僕の背中を冷や汗が流れる。

この事実を田中に話したとして、あいつは後先考えずに

絶対に一ノ瀬さんを救いに走り出すと思う。

そうすると、今ここにいる全員の命が危険にさらされる…

かといってこの事を黙っている事がばれた時、僕は絶対に田中に殺される…

一体どうすれば…

もう一度今まで見た夢を思い出せ…そう、一ノ瀬さんがヒロインかもしれない

夢はなかったか…?

………なさそうなんだが…。


 この僕の夢が本当に主人公目線の物語の本筋を辿るものであるのならば、

完全にヒロインは泉さんなのだ。

そうすると、一ノ瀬さんの危険度はぐんと増す。

滞在期間もそろそろ後半となり、主人公周りの人間にも

危険が及ぶ可能性がある訳で…

僕は頭を抱える。

核心は持てないが、可能性は十分ある。

もちろん助けられるなら一ノ瀬さんも助けたい。

しかし、今の彼女の状態を見れば、説得しても東雲側に残る気がする。

そんな彼女を無理矢理助けようとしても、主人公に僕らの存在がばれて

物語の中へ逆戻り…

でも彼女に何かあった時、それこそ田中が暴走する気も…

「どうしろって言うんだよ…」考えても結論が出せない。

どうすれば良いかも分からない。

その時田中が寝言をつぶやいた。

「一ノ瀬さん、オレが命に代えても守るからね…」にやけた顔で眠っている。

…やはりまだ田中にはこの話はしないでおこう。


洞穴の隙間から光が差し込み、森に小鳥の声が響いてきた。

結局朝まで僕はしっかり眠る事が出来なかった。

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