3日目③

 木村君の話だと島の半分の罠はほとんど解除できているようだった。

イレギュラーな事が何度も起こったが、僕と田中はなんとか当初の予定通り

広場へ偵察に向かった。双眼鏡でのぞくと、スクリーンの菊池・森山・木村の名前

には削除線が引かれていた。田中は双眼鏡で一ノ瀬さんばかり見ていた。

お前何しに来た。

他に救えそうな面々を探すが、広場には主人公チームが常在しており

なかなかチャンスは訪れなかった。日も傾き、僕らは諦めて洞穴へ戻る事にした。


 これで僕ら以外で救ったのは3人だ。

「他のやつらも救えるだけ救いたいよな…!」

双眼鏡で一ノ瀬さんばかり見ていた田中が言った。こいつめ…

その夜はみんなでもっと救出できないか作戦会議をした。

もちろん新たに加わった3人にも、僕の天啓の話はみっちりとしておいた。

真剣に話せば話すほどなんか引かれてる感じがするが…

離脱した後の快適な生活もまた事実な訳で…

とりあえずはなんとか受け入れてくれたようだ。

まずはモブとそうでない人達の線引きをしっかりしないといけない、

という事で、考えをまとめる事にした。

僕は手元にあるノートへ、班ごとに生徒達の名前を書き出し始めた。


 まずは1班…

メンバーの名前を1人ずつノートに書く。

片桐敬吾、真宮新、東雲辰弥、一ノ瀬美香、泉透子…


東雲…辰弥…


「ねぇ、東雲って辰弥って言うの?」僕は改めて佐藤さんに確認を取る。

「確かそうだと思うけど…」きょとんとした顔で僕を見る佐藤さん。


 ふぅん…クールでイケメン、女子にも人気がある、

でもって名前までカッコ良いなんて…

なんか出来すぎでは…

そんな考えがふと頭をよぎった時、

僕は今まで何度か見た夢を思い出した。

僕らと同じようにこの島でこの理不尽なゲームに加わっているが、

目線は完全に僕のものではなくて。

よくよく考えてみたら、あの目線は東雲のような気がする。

あれはもしかして、本来の物語なのでは…?

片桐も大河内も登場していたはず。

主人公として絞っていた2人は消える訳だ。

あの夢はこの物語の主人公目線なのでは…?


「東雲が主人公!?」

僕が高らかにそう宣言すると、田中と木村君は目を丸くした。

反面、女子生徒達は想定内、という顔だ。

なんだこの男女の温暖差…まぁ、とにかく。


「元々僕はこの3人が一番主人公に近いと思っていたんだ。」

東雲以外に片桐と大河内の名前を書き出す。

東雲辰弥、片桐敬吾、大河内隆…

「どれが主人公か、一目瞭然だろ?」

ビジュアルが主人公っぽいという話はしていたのに、

なぜ名前にまで注目をしなかったか…

あの時はまだ主人公の可能性がある人物を慎重に精査していたせいもあって、

名前の事はすっかり失念していた。

今回たまたまとは言え、並べてみたらこんなに一目瞭然だなんて。

ついでに僕らも並べてみた。

東雲辰弥、鈴木広明、田中信次、木村和成…

東雲辰弥が眩しい…!!

「ほんとだわ、東雲君の名前には神々しさすら感じる…!」

森山さんと菊池さんが並んだ名前を見て感嘆の声を上げた。

「と言う事は、主人公は東雲君で決定って事…?」佐藤さんが僕を見る。

「うん、確定で良いと思う。」僕は東雲の名前の最初に星印をつける。

夢の話は説明が面倒なのでやめておいた。

今のところ説明した所で得られるものは何もなさそうだし、

余計話がこんがらがりそうだ。

夢の話は自分の胸の中にそっとしまい込み、

ノートに名前とそれぞれの特徴を書き出していった。


1班。


☆東雲辰弥 主人公。クールだがしっかりもの。片桐とは親友。

片桐敬吾 クラスのリーダー的存在。明るいムードメーカー。

真宮新 いじめられっ子。どこの班にも所属出来ないので1班に入れられた。

一ノ瀬美香 クラスのマドンナ的存在。東雲と行動を共にする事が多い。

泉透子 大人しい女子。あまり意見している所は見ない。一ノ瀬とは友人。


「この中だと真宮君なんてモブなんじゃないかしら…?」

「でも1班のメンバーだから、やっぱりサブくらいのポジションじゃぁ…」

モブだとかサブだとか、当初だと全く相手にされなかった内容が、

いつの間にかここにいるメンバーには当たり前のようになっている…

なんだか感慨深いなぁ…

そんな事を考えたりしてる間に、とりあえず1班のメンバーは全員がサブキャラ

以上である、という結論に至っていた。

「とりあえずはモブ生徒を救うまでは1班のメンバーとは極力接触しない方が

良いんじゃないかな?」と木村君が言う。

「で、でもさ、一ノ瀬さんは大丈夫なのか?危険は起きない?」

田中が不安そうに聞く。

「とりあえず彼女はヒロインだから大丈夫だと思う。」

僕が言うと田中は頭を抱えた。

「あ~!複雑ぅ!!」


2班


大河内隆 クラス委員。真面目。眼鏡。

山本友樹  真面目。眼鏡。

崎森広子  クラス委員。真面目。非眼鏡。

村田美鶴  真面目。眼鏡。

長谷川由紀 真面目。眼鏡。おさげ。


「2班は大河内がいるからなぁ…学級委員の2人は恐らくサブキャラ…

しかし山本・村田・長谷川はモブ側だと思う。

チャンスがあれば助けたいが、近くにサブキャラがいる為に近寄りがたい。」

「サブキャラ…って事はどこかで死ぬ運命なのかしら…?」

佐藤さんが心配そうに言う。

「ああ、多分、主人公に大きなヒントを与えたり、かばって死んだり、

ある程度の活躍はしつつも多分助からないと思う。」

「大河内、崎森は絶望的か…」田中がため息をもらした。

彼らもチャンスがあれば助けたいが…とにかく今は

本筋の物語の進行に影響を与えないモブを選別して救い出す方が確実だ。

「オレらにとっては現実なのに、物語として人命救助を考えないといけないのって

なんかモヤッとするなぁ…」田中が不服を漏らす。

「そりゃ、助けられるならみんな助けたいよ…でも、物語の中である以上、

進行を一番に考えないと、今現在物語外にいる僕達だって、いつ引き戻されるか分からないんだ。慎重に動かないと…」僕だって好きでやってる訳じゃない。

「それは分かってるんだけどさぁ…」田中が口を尖らせる。


3班


鬼久保光平 真宮をいじめる主犯格。

大森一郎 取り巻き。

三上保 取り巻き。

山井澪 取り巻き。

橋元江美 取り巻き。


「この班はサブとかモブとか関係無く、存在がやっかいだから

極力関わらないほうがいい。」

これに対しては満場一致で全員賛成だった。仕方ないね。


4班


中山一 探索中に死亡。

吉田武久 生存。森山さんと菊池さんを置いて逃げた。

伊藤美子 広場にて死亡。

菊池華 離脱完了。

森山良子 離脱完了。


助けるべき生存者は吉田君のみ。

「でもあいつ、逃げたからねぇ…」菊池さんと森山さんが冷ややかな目線を送る。

「まぁ、あの状況じゃ仕方ないよ。多めに見て上げよう。」なぜか吉田君をフォローする僕。

「…冗談よ。何も死んで欲しいなんて思ってないから。」2人の張り付いた笑顔が

何か怖い…


5班


鈴木広明  離脱完了。

田中信次  離脱完了。

高橋元 トラに襲われて死亡。

佐藤香菜子 離脱完了。

渡辺里香 トラに襲われて死亡。


言わずもがな、僕らの班だ。

高橋君と渡辺さんを救えなかったのが本当に悔いが残る。


6班


山口樹 罠の槍に刺されて死亡。

木村和成  離脱完了。

太田佳織 生存。木村君とはそりが合わない。

佐々木未菜 毒で死亡。

北川都   毒で死亡。


こちらも、助けるべきは太田さんのみ。ちらりと木村君の方を見るが

無関心なようだ。恨みはないようで良かった。


7班


松井健一 生存。

清水治  生存。

村山勝郎 生存。

井上真理 生存。

瀬名美枝 生存。


8班


三室司  生存。

元井学  生存。

竹内岳  生存。

林京香  生存。

小林麻衣 生存。


 特徴を書こうと思ったが、目立つ生徒以外僕らもよく分からないので

見事に書けなかった…松井君は強いて言うなら大河内に背格好が似ている…って事

くらいか。恐らく4班~8班まで、全員がモブだと思われる。

7班8班は今のところ全員生存と言う事らしいのでなかなか優秀だ。

結論としては、4~8班の生存者を優先的に、

主人公や主要登場人物に近い1~3班への接触は、

物語に引き戻される可能性がある為極力近づかない、ただし、チャンスがあれば

サブキャラに属す人達も救って行く、と言う事になった。

モブの生徒達が今現在何人生き残っているか分からない。

もたもたしてる場合じゃない。

「一刻を争う…明日から本腰入れて行こう。」

食料調達班と偵察班各3人に別れ、1人でも多くを助けようと心に誓う。

朝早くから行動を開始する為、僕らは早々に床についた。


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