3日目②

 いったん洞穴に戻ってきた僕らは腹ごしらえも兼ね、少し休憩を挟んでいた。

森山さんと菊池さんもここ数日まともな食事についておらず、

量だけはしっかりとある山の恵みに感動していた。

「これだけがっつり食べられるなら、全然大丈夫そうね。」

森山さんと菊池さんの怪我の様子を見ていた佐藤さんが

一通りの作業を終え、僕に声をかけてきた。

「2人とも、様子はどうなの?」佐藤さんに尋ねる。

どうやら軽い捻挫や擦り傷だけで大した事はなさそうだ。


「おい鈴木!広場、行くんだろ?」お腹いっぱいになった田中が

双眼鏡を胸に出口に向かっている。

「あ~、うん。」そう言いながらもたもたしていると、

田中はさっさと洞穴を飛び出してしまった。

何をそんなに焦っているのだ。

「一刻も早く一ノ瀬さんを視野に入れたいのよ。」佐藤さんが冷めた目で言った。

恋は盲目とはこの事か…

「ちょっと待って!」僕は慌てて田中の後を追った。


 とりあえず広場への偵察は危険も伴う為、少数精鋭で動く事にした。

森山さんと菊池さんも動けそうなので、今回は女子は洞窟周辺で食料収集に

努めてもらい、僕と田中で広場を観察する事になった。

田中が精鋭かというとまぁ、疑問な所ではあるが…

広場へ向かう為の安全なルートは確保できていないので

慎重に罠がないか見渡しながら歩を進める。

僕らは物語外にいるから、多分もう安全なんだとは思うけど…

念には念を入れ、安全確保を優先する。

その時、森の奥がガサガサと鳴った。

「おい田中!虎かもしれないから気をつけろ…!」

僕と田中が身構えた前にゆっくりと顔を出したのは6班の木村君だった。

目が合った瞬間きょとんとした顔をした木村君の開口一番は

「あれ…?君達死んだんじゃ…?」と思いのほか淡泊な反応。

先ほどの女子2人と言い、今日はばったり出会って存在がばれるパターン

ばかりじゃないか…たるんどるぞ僕…

いや、逆の発想だ。木村君とはあまり話した事はなかったが、

団子っ鼻に分厚い眼鏡、モブである事には間違いなさそうだ。

今が救い出すチャンスだと思うべき。

上手く説得してこの状況から彼を救出するんだ…

そう、納得させる上手い説得が必要なんだ…!!

僕と田中は大きくうなずき、意気込んで木村君へと近づいて行った。


「うん、分かった。」

高橋と渡辺さんの事も有り、どうやって上手く説明しようかと

しどろもどろと今までの経緯を話した所、案外すんなりと受け入れてくれた。

普段から無表情で飄々とした印象だったが…なんか拍子抜けだな…

まぁ、信じてもらえた方が断然良かったのだけれども。

木村君の話によると、6班はすでに3人亡くなっていた。

そもそも木村君は最初の犠牲者である山口君と仲が良かったようだ。

山口君のショックも抜けないまま、続いて同じ班の佐々木さんと北川さんが

食料に入った毒にやられてしまい、6班は木村君と女子の太田さん2人になって

しまったそうだ。元々余ったメンバーで作られた6班、太田さんとは大して仲が

良い訳でもなく、一緒に行動するのが苦痛で木村君1人で行動して、たまたま僕らに出会ったらしい。

彼を洞穴に招き入れ、今後の対策を練る。

「もうどんどん人が死ぬから、いつ自分の番が来るかとビクビクしてたんだ。

実はどこかに隠れられる場所がないか探してた。」

1人で出歩いていたが、虎の話は聞いていないのか?と聞くと、

話は聞いているが、それでも宿舎にはいたくなかった、と木村君。

「まさか君達と出くわすと思わなくて、あの時虎かと思って本気でビクビク

してたんだ。」不安でいっぱいだった彼の顔に少し安堵の色が戻る。

ビクビクしているようには見えなかったが…やはり捉えどころのない男だ…


「じゃ、君も死んだ事にして僕らと行動するって事でいいね?」

「うん、お願いするよ。どうする?崖から海に落ちたように見せかける?」

なんだかノリノリに見える木村君だ。

「崖から落ちて海に流されるのって何度も繰り返すと不自然じゃない…?」

佐藤さんの突っ込みが入る。確かに僕ら3人と森山さんと菊池さん、

全員同じ死に方だ…ワンパターンか…

「でも遺体を残さずに死んだようにみせかけるのって海に落ちるしかなくないか…?」と田中。

「この作者は7流だから同じ死に方でもいけるような気がするが…

ただまぁ、落ちるにしても別のパターンが欲しい所ではある…」

なぜ僕がこの作者のストーリー展開を気にしなければいけないのか。

「じゃあ、自ら落ちた事にしようか。」木村君が笑顔で言った。


 切り立った崖の上に木村君の靴をそろえておいた。そして

「もう疲れました。殺されるくらいなら自分で逝きます。」のメモをそばに置く。

お昼になっても戻らない木村君。1人で行動している事を知り、

心配して探しに来た主人公チームはただ無言でそれを見つめていた。

崖下を見ると森が深く広がり、彼を探す事は虎がどこにいるか分からない今、

危険以外の何物でも無かった。

それに、この高さから落ちたのであれば、確実に生きてはいない…

そう話し合い、木村君の捜索はここで打ち切られたようだ。

メモを握りつぶし、肩を落とした面々が落胆して帰って行く。

完全に彼らが去ったのを見計らい、木村君が言った。


「あ、靴は回収するから。」


…やはりよく分からん男だ…。

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