3日目①
* * * *
3日目の朝が来た。
こんな状況でゆっくり眠れる訳もなく。
5班が襲われた猛獣の存在によって、簡単に外には出られなくなった。
この2日で何人が死んだ?
取ってきた食料も腹を満たすだけで何の味もしない。
トイレや風呂の問題もある。
この状況にみんなストレスギリギリで精神を保っていた。
ピンポンパンポーン
あの奇妙な音が響き渡る。
『皆様広場にお集まり下さい。繰り返します。皆様広場にお集まり下さい。』
またあのアナウンスが鳴り響く。
しかし、今は外に猛獣がいる。全員で行動するのは危険だ。
「動けるやつ、いるか?」俺がみんなに声をかける。
1班のメンバー、2班のメンバーが立ち上がる。
意外にも真宮もその中にいた。
「真宮、無理しなくていいぞ?」俺が話しかけると真宮は小さな声で
「…大丈夫…」と答えてうつむいた。
当然鬼久保の3班は部屋にこもりっきりで顔も出していない。
他の班員達は完全に怯えきっており、とりあえず俺達だけで広場に行く事にした。
広場に相変わらずスクリーンに全生徒の名前が並んでいた。
5班のメンバーには全員線が引かれており、現在すでに10名がやられてしまった。
「くそっ…」俺はきつく拳を握りしめた。
するとスクリーンの画面が変わった。昨日食料探しを達成出来なかった4班、6班、
8班の名前が羅列していた。5班は全員が死んでしまった為除外されている。
その下に「再チャレンジ」と書かれている。
何を言ってるんだ…昨日とは状況が違うんだ。
あの猛獣がどこにいるかも分からないのに、むやみに森の中なんか歩けない。
同様に思ったのか、片桐が声を上げる。
「バカか!そんなもん得体の知れない獣がいるのに行く訳ないだろ!」
すると画面がさらに切り替わった。
【達成出来なかった班は再チャレンジする事。他の班員は手助けしてはいけない事。チャレンジしなかった場合は容赦なく全員を抹殺する事。】
…!!
「こんなの…冗談よね…?」震える声で一ノ瀬がつぶやく。
しかし昨日からの出来事を振り返ってみても、冗談だとはとても思えない。
そのまま画面は元の名簿に戻った。
俺達は宿舎に戻り、ありのままをみんなに伝えた。
* * * *
洞穴の隙間から降り注ぐ朝日で目が覚めた。朝だ。
…いや昼近かった…昨日は安堵したせいかぐっすり眠っていたようだ。
田中と佐藤さんはまだ眠りの中だ。
僕は先ほど見た夢を思い出す。この島の夢だ。
とんでもない事に巻き込まれたせいで、夢にまで浸食してきたのか、
ここ最近この秋合宿の夢ばかり見ている気がする。
しかしどうも夢の中の僕はこの僕ではないようだった。
あれは誰目線だ…?と、考えても分かる訳もなく。
夢は夢だ。ぼんやりとした記憶をたどってみてもはっきりと夢の内容は思い出せず。
よく分からないことに頭を悩ませるより、現実に何をするべきか切り替えが必要だ。
2人が目覚めた後、とりあえずはこの周辺の探索をする事に決まった。
飲み水は昨日の湧き水で何とかなりそうだが、
残り4日を乗り越える為の食料が必要だ。
これからモブ生徒達を救うのであればなおさら…
森の探索において、慎重に周りを確かめる事を怠りはしなかったが、
嘘かと思うくらい危険な事は何も起きなかった。
「やっぱり鈴木君の言う事は正しいのかも…!」
ようやく田中も佐藤さんも僕の言い分を信じるようになってきた。
食料も割と簡単に見つける事ができた。
火が使えない事を心配していたが、そんな事は全く問題なかった。
「あんなところに柿が!それにあそこにアケビも!!」
佐藤さんのテンションが上がる。
園芸部のせいか、はたまた食いしん坊な為か、佐藤さんの木の実の知識は
非常に豊富だった。どちらにせよ、この状況では大変ありがたい…
「ムベにフユイチゴ、サルナシもある!」
「あ、佐藤さん、このぶどうみたいなやつもいけるんじゃない?」
僕は連なる黒い実を取ろうとする。
ぶちっと潰れて手が赤紫色に染まってしまった…
「それはヨウシュヤマゴボウっていって食べたら毒だからダメ!!」
…スミマセン…
とにもかくにも、食料は潤沢に蓄えることができた。
お腹が満たされると気持ちも満たされる。心に余裕ができる。
食べ物がある事に感謝…!!
普通に食べ物があって、風呂に入って布団で寝られる日々はなんて贅沢なんだ…!!
意図せず理事長の言う【日々の生活に感謝】を実行してしまった…
これなら残りの期間もなんとか飢えずにすみそうだ。
物語の表舞台から離脱するだけでこんなにも世界は優しい…!
腹ごしらえも済み、引き続き探索を続ける。
まだ罠があるかもしれないから、ゆっくりと慎重に辺りを見回しながら歩く僕ら。
「うわ!?」
突然田中が大きな声で叫ぶ。
「何があった田中!?大丈夫か!?」
「いや、あそこ、サメが泳いでる…」
僕らが歩いている道のすぐ下は海。
沖の方向を見ると、肉眼で確認できる距離にサメが泳いでいるのが見えた。
「まさかサメがいるのかここ…」なんちゅう島じゃ。この作者は3流…いや5流!!
「森には虎、海にはサメ、どこも逃げ場はないって事か…」
「何も知らずに海に入ったら終わりだな…」
海から泳いで逃げるのは不可能って事だ。昨日落ちなくて本当に良かった…
「ところでサメって食えるの…?」田中がじゅるりとよだれを垂らした。
その時頭上から妙な音が聞こえ始めた。
ずざざざざ~!!
「ぎゃぁぁぁぁ!!!」
上から滑るように落ちてきたのは4班の森山さんだった。
「親方、空から女の子が…」
田中が冗談だかなんだか分からない事をつぶやく。
森山さんは勢い余って僕らのいる場所から海へ落ちそうになる。
「危ない!!」海にいるサメを見たばかりだ。
落ちたら一大事…!僕と田中が森山さんの手を引っ張る。
なんとか海に落ちる事は阻止できた。
「ありがと~…あれ?」僕らの存在に気付いた森山さんは
目が点になり固まっていた。妙な沈黙が流れる。
「良美~!大丈夫!?」
その後ろから同じく4班の菊池さんがひょっこりと顔を出した。
そして僕らと目が合う。
「ぎゃー!!!!出た~!!!」
大声を上げられてしまった。
主人公チームに見つかる!!!
僕らは大慌てで2人を洞穴まで引っ張り込んだ。
「良かったぁ!佐藤ちゃん死んじゃったかと思ったからぁ…」
佐藤さんに抱きつきながら菊池さんが言う。
ここは洞穴の中。ここだとちょっとやそっとじゃ見つからないと思い2人を
無理矢理押し込んだ。
「良かった!私も2人の事心配してたの!」泣いている森山さんと菊池さんに寄り添う佐藤さん。
どうして死んだ事になっているのか、どうして隠れているのか、
今までの経緯と事情を話すと案の定怪訝な目で見られた。その反応もう慣れたよ。
「でもね、離脱してから本当に危険な事は起きていないのよ。」
佐藤さんが2人に説明して、食料の山を見せると怪訝な表情も一変して
納得してくれた。現金な奴らだ…
僕らも2人から現状を聞く事が出来た。
4班は初日に伊藤さんが槍の犠牲になり4人になっていた。
昨日の食材ゲットに失敗した為、再度探索に出かけたらしい。
「危ないよ!虎がいるって知らなかったの?」佐藤さんが2人に詰め寄った。
「ええ~!?あれって虎だったの~!?」「熊かと思った~!!」
食料を見つけられなかった班は再チャレンジしないと、全員を抹殺すると
脅された為、猛獣がいる事は知っていたが、仕方なく森に足を踏み入れたらしい。
あれ…?その話、どこかで聞いたような気がする…?
途中、罠にかかって男子の中山君が死亡、班長の吉田君は逃げてしまった
と言う事だ。
「私達2人になってしまって、道に迷っていたら良美がここに転げ落ちちゃって…」菊池さんが説明した。
「僕らが悠長に休んでいる間にまた死人が増えたのか…」
僕は反省した。僕らは離脱したが、まだみんなフィールド上にいるんだ。
助けられる人達は何とか助けたい…!
「もし鈴木君の言ってる事が本当なんだったら、私達もこっちに合流したい!」
森山さんは急斜面を滑り落ちてきたせいで足を擦りむいてしまった。
しかし死ぬよりはずっとましだ。
「そうだ!救える者はみんな救うんだ!!」
高橋と渡辺さんを亡くした悔しさは2度と味わいたくない!
「1人でも多くを救うぞ~!!」僕らは息巻いた。
「さっそく2人の死亡工作をするぞ!!」僕は元気よく立ち上がる。
「どうするの…?」佐藤さんが尋ねる。
「僕に良い考えがある。」
* * * *
4班の中山がやられたらしい。
逃げ帰った班長の吉田が報告してきた。
同じ班の森山と菊池は現場に置いてきてしまったと言う。
「お前…!」怒りが沸いたが、彼を責める事も出来ない。
「ぎゃぁぁぁぁ!!!」
森の奥の方から叫び声が聞こえた。
これは置いてきた2人の女子のもの…!?
猛獣だってうろついているんだ、早く2人を探さないと…
吉田の案内の元、いつものメンバーと共に慌てて現場へ向かう。
吉田の言うとおり、途中でボーガンにやられた中山の遺体が見つかった。
ここ数日で何度も嗅いだ血の臭い。
広場の3人も罠から外したものの、保管場所に困り、
広場に繋がる森の奥へ移動したが、臭いがきつい…
これが夏だと思うとぞっとする。
女子2人の姿は見当たらない。
見ると現場の足下に滑り落ちたような跡が残っていた。
「下だ!!」
俺達はその跡を追って急な斜面を慎重に降りていった。
* * * *
彼女達が大声を上げた現場に主人公チームが集まってきていた。
(やばい、隠れて…!)
叫び声を聞いてやってきた彼らは、何やら話し込んでいる。
「ここから落ちた形跡が…」
「海に落ちたのか…?」
「気を失って海に流されたとか…?」
「2人いたはずだぞ…?2人とも落ちたのか…?」
「助けようとしたとか…?」
いろいろいぶかしがっている。
「おい…あれを見ろ!」
彼らは沖を見た。
「サメ!?」
そのそばを漂う2人のボロボロで赤く染まった衣服…
「ああ…」「そんな…」彼らはしばらくの間それを見て、その後無言のまま
宿舎へと帰って行った。
「上手く行ったな!」田中が言う。
そう、僕らは彼女達の上着を引きちぎり、ヨウシュヤマゴボウの実で衣服を
赤黒く染め上げた。遠くから見れば血痕に見えないことも無い。
「モブの死に方って結構雑でも通るかも!!」新しい発見だ!
こうして僕らは2人を救う事が出来た。
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