3日目①

* * * *


 2日目の夜が訪れる…

この2日で何人が死んだ?

取ってきた食料も腹を満たすだけで何の味もしない。

トイレや風呂の問題もある。

この状況にみんなストレスギリギリで精神を保っていた。

特に女子は辛いだろうな…俺は彼女の方を見る。

俺と目が合うと彼女は笑顔を返してくれた。

こんな中でも彼女はいつも笑顔だ。

彼女だけは絶対に俺が守る…

改めて俺は固く心に誓った…


* * * *


 洞穴の隙間から降り注ぐ朝日で目が覚めた。朝だ。

鳥の鳴き声が聞こえる。こんな事がなければ

とても爽やかな朝だったはずなのに…

田中と佐藤さんはまだ眠りの中だ。

僕は先ほど見た夢を思い出す。この島の夢だ。

だけど僕の目線じゃ無い。

誰の目線だろう…?僕は考えた。

その人物はいつも泉さんを目で追っている。

泉さんは目立たないがよく見るとそれなりに美人だ。

けど…僕はどっちかっていうと佐藤さんが…いやいや。

そんな事はどうでもいい。夢は夢だ。

よく分からないことに頭を悩ませるより、現実に何をするべきか切り替えが必要だ。


 2人が目覚めた後、とりあえずはこの周辺の探索をする事に決まった。

飲み水は昨日の湧き水で何とかなりそうだが、

残り4日を乗り越える為の食料が必要だ。

これからモブ生徒達を救うのであればなおさら…

森の探索において、慎重に周りを確かめる事は怠りはしなかったが、

嘘かと思うくらい危険な事は何も起きなかった。

「やっぱり鈴木君の言う事は正しいのかも…!」

ようやく田中も佐藤さんも僕の言い分を信じるようになってきた。

食料も割と簡単に見つける事ができた。

火が使えない事を心配していたが、そんな事は全く問題なかった。

「あんなところに柿が!それにあそこにアケビも!!」

佐藤さんのテンションが上がる。

園芸部のせいか、はたまた食いしん坊な為か、佐藤さんの木の実の知識は

非常に豊富だった。どちらにせよ、この状況では大変ありがたい…

「ムベにフユイチゴ、サルナシもある!」

「あ、佐藤さん、このぶどうみたいなやつもいけるんじゃない?」

僕は連なる黒い実を取ろうとする。

ぶちっと潰れて手が赤紫色に染まってしまった…

「それはヨウシュヤマゴボウっていって食べたら毒だからダメ!!」

…スミマセン…

とにもかくにも、食料は潤沢に蓄えることができた。

お腹が満たされると気持ちも満たされる。食べ物がある事に感謝…!!

普通に食べ物があって、風呂に入って布団で寝られる日々はなんて贅沢なんだ…!!

意図せず理事長の言う【日々の生活に感謝】を実行してしまった…

これなら残りの期間もなんとか飢えずにすみそうだ。

物語の表舞台から離脱するだけでこんなにも世界は優しい…!


 腹ごしらえも済み、引き続き探索を続ける。

まだ罠があるかもしれないから、ゆっくりと慎重に辺りを見回しながら歩く僕ら。

「うわ!?」

突然田中が大きな声で叫ぶ。

「何があった田中!?大丈夫か!?」

「いや、あそこ、サメが泳いでる…」

僕らが歩いている道のすぐ下は海。

沖の方向を見ると、肉眼で確認できる距離にサメが泳いでいるのが見えた。

「まさかサメがいるのかここ…」なんちゅう島じゃ。この作者は3流…いや5流!!

「森には虎、海にはサメ、どこも逃げ場はないって事か…」

「何も知らずに海に落ちたら終わりだな…」

「ところでサメって食えるの…?」田中がじゅるりとよだれを垂らした。


 その時頭上から妙な音が聞こえ始めた。

ずざざざざ~!!

「ぎゃぁぁぁぁ!!!」

上から滑るように落ちてきたのは4班の森山さんだった。

「親方、空から女の子が…」

田中が冗談だかなんだか分からない事をつぶやく。

森山さんは勢い余って僕らのいる場所から海へ落ちそうになる。

「危ない!!」海にいるサメを見たばかりだ。

落ちたら一大事…!僕と田中が森山さんの手を引っ張る。

なんとか海に落ちる事は阻止できた。

「ありがと~…あれ?」僕らの存在に気付いた森山さんは

目が点になり固まっていた。妙な沈黙が流れる。

「良子~!大丈夫!?」

その後ろから同じく4班の菊池さんがひょっこりと顔を出した。

そして僕らと目が合う。

「ぎゃー!!!!出た~!!!」

大声を上げられてしまった。

主人公チームに見つかる!!!

僕らは大慌てで2人を洞穴まで引っ張り込んだ。


「良かったぁ!佐藤ちゃん死んじゃったかと思ったからぁ…」

佐藤さんに抱きつきながら菊池さんが言う。

ここは洞穴の中。ここだとちょっとやそっとじゃ見つからないと思い2人を

無理矢理押し込んだ。

「良かった!私も2人の事心配してたの!」泣いている森山さんと菊池さんに寄り添う佐藤さん。

どうして死んだ事になっているのか、どうして隠れているのか、

今までの経緯と事情を話すと案の定怪訝な目で見られた。その反応もう慣れたよ。

「でもね、離脱してから本当に危険な事は起きていないのよ。」

佐藤さんが2人に説明して、食料の山を見せると怪訝な表情も一変して

納得してくれた。現金な奴らだ…

僕らも二人から現状を聞く事が出来た。

4班は初日に伊藤さんが槍の犠牲になり4人になっていた。

昨日の食材ゲットに失敗した為、再度探索に出かけたらしい。

途中、罠にかかって男子の中山君が死亡、班長の吉田君は逃げてしまった

と言う事だ。

「私達2人になってしまって、道に迷っていたら良子がここに転げ落ちちゃって…」菊池さんが説明した。

「僕らが悠長に休んでいる間にまた死人が増えたのか…」

僕は反省した。僕らは離脱したが、まだみんなフィールド上にいるんだ。

助けられる人達は何とか助けたい…!

「もし鈴木君の言ってる事が本当なんだったら、私達もこっちに合流したい!」

森山さんは急斜面を滑り落ちてきたせいで足をくじいてしまった。

しかし死ぬよりはずっとましだ。

「そうだ!救える者はみんな救うんだ!!」

高橋と渡辺さんを亡くした悔しさは2度と味わいたくない!

「1人でも多くを救うぞ~!!」僕らは息巻いた。

「さっそく2人の死亡工作をするぞ!!」僕は元気よく立ち上がる。

「どうするの…?」佐藤さんが尋ねる。

「僕に良い考えがある。」


* * * *


4班の中山がやられたらしい。

逃げ帰った班長の吉田が報告してきた。

同じ班の森山と菊池は現場に置いてきてしまったと言う。

「お前…!」怒りが沸いたが、彼を責める事も出来ない。

「ぎゃぁぁぁぁ!!!」

森の奥の方から叫び声が聞こえた。

これは置いてきた2人の女子のもの…!?

猛獣だってうろついているんだ、早く2人を探さないと…

吉田の案内の元、いつものメンバーと共に慌てて現場へ向かう。

吉田の言うとおり、途中でボーガンにやられた中山の遺体が見つかった。

ここ数日で何度も嗅いだ血の臭い。

広場の3人も罠から外したものの、保管場所に困り、

広場に繋がる森の奥へ移動したが、臭いがきつい…

これが夏だと思うとぞっとする。

女子2人の姿は見当たらない。

見ると現場の足下に滑り落ちたような跡が残っていた。

「下だ!!」

俺達はその跡を追って急な斜面を慎重に降りていった。



* * * *



彼女達が大声を上げた現場に主人公チームが集まってきていた。

(やばい、隠れて…!)

叫び声を聞いてやってきた彼らは、何やら話し込んでいる。

「ここから落ちた形跡が…」

「海に落ちたのか…?」

「気を失って海に流されたとか…?」

「2人いたはずだぞ…?2人とも落ちたのか…?」

「助けようとしたとか…?」

いろいろいぶかしがっている。

「おい…あれを見ろ!」

彼らは沖を見た。

「サメ!?」

そのそばを漂う2人のボロボロで赤く染まった衣服…

「ああ…」彼らはそれを見てもう何も言わず広場へと帰っていった。

「上手く行ったな!」田中が言う。

そう、僕らは彼女達の上着を引きちぎり、ヨウシュヤマゴボウの実で衣服を

赤黒く染め上げた。遠くから見れば血痕に見えないことも無い。

「モブの死に方って結構雑でも通るかも!!」新しい発見だ!

こうして僕らは2人を救う事が出来た。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る