2日目①

 昨日は結局全員が食堂に集まり、眠れない夜を過ごした。

明け方から小雨が降り出し、のろし計画もダメになった。

「これじゃあ木の枝を集めても湿気て使えないよ…」大河内は落胆している。

今僕らに運が向く訳ないんだ。序盤で助かるなんて有り得ない。

僕のペットボトルは結局5班のみんなで回し飲みしたらすぐになくなってしまった。

女子は飲む前にしっかり飲み口を拭いていた…

佐藤さんの次に飲もうとしたら、それも拭われた…ぐぬぬ…

空きペットボトルも何かの役に立つだろうからとリュックに入れておく。


 朝、全員を前に今後の方針を決める事にした。

「手持ちの食料と飲み物も危険がある事が分かった。

悔しいが、ここは指示書の通り食料を探しに行くしかないと思うんだが…」

大河内がみんなに語りかけた。

「でも、その食料も安全と言えるのでしょうか?」

2班の眼鏡のお下げ、長谷川さんが挙手して言った。

大河内、崎森さん以外の2班のメンバーは全員長谷川さんの意見に頷いていた。

「でも、このままでは本当に餓死してしまう…」

「いっそ、自生している木の実や湧き水であれば安全なのでは…?」

「森の中にだって罠が張り巡らされてるんでしょう?」

「探索中に罠にかかって死んじゃったらどうするの!?」

「そうだそうだ!」

みんなの意見が割れる。

「何で誰もあの放送主をぶっ殺しに行くって発想になんねぇんだ?」

少し離れた場所で聞いていた鬼久保が口を挟んだ。

「あれが誰だか分かれば苦労しません~!」一ノ瀬さんが頬を膨らませる。

「あまり物騒な事は言わないでくれ鬼久保。」東雲が厳しい目で鬼久保を見る。

「うわっおっかね~っw」馬鹿にするようにふざける鬼久保。

「手持ちの飲料や食料に毒が仕込まれていた、と言う事は、放送主は何が何でも

このゲームに皆を参加させたいんだと思う。となると目的の食料にまで毒を盛って

いたら誰も参加しない事になる。なので僕は目的の食料は問題ないと思うのだが…」と大河内。どこまでも冷静だ。

「確かに、飲み水がないのは死に直結するよね~。」努めて明るく言い放つ片桐。

「俺も、食料を探すに1票だ。」これは東雲。

そりゃああんたらは主人公チームですから、そんなすぐには死にませんが…

しかし食料も飲料もないというのは確かに結局は死に繋がる訳で。

片桐の言う通り、せめて飲み水くらいは確保したい…

「じゃあ、1班と2班のみなさんで食料を取ってきて頂けますか~?」

鬼久保がふざける。

1班と2班のメンバーがいない中、鬼久保達と一緒に待つのもそれはそれで嫌だ…

「ここは多数決で決めましょう。」崎森さんが決を採る。

宿舎に残る、というのは女子が多めだったが全体の3分の1程度、

残りは島の探索に手を上げると言う結果になった。

恐らく大半は鬼久保と同じ空間にいたくない、という感じだろうが、

僕はもしかしたら、上手く身を隠せるんじゃないかという期待も込めて

こちらに票を投じた。

鬼久保もだが、とにかく主人公チームと一刻も早く離れたい…!

これもまた直感だが…離れれば生き残る確率はぐんと上がるはず…!

今までの行動を見ている限り、1班か2班のメンバーの誰かが

主人公であると確信していた。


 指示通り班ごとに割り当てられた地区を探索する事になった。

くれぐれも慎重に行動する…という事だが…。

僕ら5班は島の北西を目指して進む事になった。

「5班のみんな、話を聞いて欲しいんだ…」

北西のルートをどうやって探索するか、食堂で話し合っている最中

僕はもう一度彼らに昨日の続きを話す事にした。

全員の名前が把握されている以上、必ず彼らを説得しなければならない。

5班全員で身を隠す、これしかない…!

僕は必死に訴えた。今、僕達がいるこの世界は物語の中なのだと…


「はぁ~!?お前まだその話してんの!?」と田中。

「もう壊れちゃったの鈴木君…?」悲しそうに僕を見る佐藤さん。

「おい、マジでふざけてんじゃないぞ」高橋が怒り

「人が死んでるのに不謹慎だわ!!」渡辺さんからは呆れられる。


 当然の反応だ。いや、しかし僕は確信している。

「信じられないのは当然だ。だが信じて欲しい。

これは天啓だ。神のお告げだ。僕には未来が分かるんだ。本当なんだ!」

話せば話すほど彼らの目は疑わしくなるばかり。焦るばかりで

僕も説得力のある説明ができない。どんどん説明が怪しくなってくる…

「…で、お前は一体どうしたい訳?」埒が明かないと思ったのか

田中が僕に問いかけてきた。

「主人公から認知されないようにしたい。」

「主人公??」全員が素っ頓狂な声を上げる。

「ここは物語の世界だ。だから主人公基準で世界はまわる。

主人公が見ている世界が全てだ。主人公の意識下にいなければ

僕らは作者に認識される事は無いと思う。」

「作者ぁ!?」更に呆れた声。

「まぁ、神様みたいなもんだ。僕らは幸いこの物語の超脇役。この世界を作る神に

認識されなければ、助かる道はあるかもしれない。」

(何言ってんだこいつ…)全員の表情がそう物語っていた。


 しかしどんなにドン引きされても僕は引き下がれない。

引き下がる=死だからだ。

「僕の考えでは、あの中の誰かが主人公だと思う。」僕は1班と2班の面々を指さす。

「見て。僕らと彼らのビジュアルの差!」全員が言葉に詰まる。

「そりゃあいつらはイケメンだし、一ノ瀬さんは超絶美人で神域だけど…」と田中。

「失礼ね~、私達だってそこそこいけてるわよ…」渡辺さんが口を尖らせる。

「あのメンバーから離れられれば、生き残る可能性もぐっと高まるはずだ。」

僕はみんなを見渡す。みんなとんでもなくしらけた目をしていた…

なぜだ…危機感がなさすぎるんじゃないか!?

「とにかくだ!この世界で僕らは虫けらのような存在なんだ!いいか!

生き残る為には必要な事なんだよ!!」

僕は焦りと恐怖でまくし立てた。いかん、もう少し冷静にならねば…


 と、思った時には手遅れだった。

「もういい加減にしろよ!」怒ったのは高橋だ。

「人を虫けらだなんて失礼しちゃうわ!」渡辺さんも不機嫌になる。

「そんな怒る事ないだろう…?僕はみんなを救いたくて…」声を抑えて僕が言う。

「あ~!もう聞きたくない聞きたくない!」渡辺さんが耳を塞ぐ。

しまった…感情的になりすぎた…2人は完全に聞く耳を持たない状態だ。

ふと目をやると少し離れた所に座る泉さんと目が合った。

やばい、今の話聞かれていないよな…確かに所々大きな声で話をしていたが…

主人公チームに近い人間には要注意だ。特に意図的に身を隠す事は知られたくない。

にこりと笑って反応を見たが、きょとんとした表情に少し安堵する。多分大丈夫か。

「とにかく、この話はここまで!」パチンと手を叩き場を繕う佐藤さん。

仕方が無いからこの話はとりあえず打ち切って探索に出かける事になった。

チャンスがあれば探索中に彼らを誘導しよう…僕はまだ諦めていない。


 他の班もちらほらと探索に出かけ始めている。

僕らは北西のルートを辿る為、宿舎を出て森の中を慎重に進んでいた。

「ほら、男子!早く先に進んでよ!!」渡辺さんが僕らを促す。

男子…と言っても彼氏の高橋は前に来る様子もなく。

何だよ、僕たちは危険な目にあってもいいってか!?

なんだかあの2人を必死に救おうとしているのが馬鹿馬鹿しくなってくるぞ…

むしゃくしゃしながらずんずんと進む僕。

「おい鈴木、行くペース速くないか?」田中が心配そうにつぶやく。

「罠が仕掛けてあるかもしれないんだから慎重に進まないと…」

佐藤さんが小走りに駆け寄ってきた。

おっと、怒りのあまり歩が早くなっていたようだ。失敬失敬…

もっと周りをよく見ないと、罠の餌食になっちまうぜ…

ここでは一瞬の隙が命取り、特に2日目となると結構な人数が

死に追いやられるはず…

冷静さを取り戻すと僕はざっと周りを見回した。

今のところ大丈夫か…ん?

「おい!田中!」

田中がこちらを見ながら歩いている先に

赤いボタンがあるのを見つけた。

思わず彼を引き戻す。

「うわっ!」田中は尻餅をついた。

「気をつけろ!これきっと罠だぞ!」

2人を下がらせ、慎重に罠を解除する。

解除…と言ったって、出来るだけ離れて木の枝でボタンを押すだけなのだが…

ボタンを押すと、その場から槍が突き出した。なんという恐ろしさ…

後ろの2人はこの状況に気付かずいちゃついている…ある意味鉄の心臓だなおい…

「おい2人とも!いちゃついてないでもっと周りを見て!!」僕は2人に注意したが

さっきの事もあるのか、2人ともガン無視だった。ムカつく…

僕らは一歩一歩慎重に地面や木の上全方位に注意を払って進んだ。

足下にボタンがある他に、ピアノ線にひっかかるとボーガンが飛んでくる罠や

頭上に落ちれば確実に死ぬであろう、直系30センチの岩が落ちる罠なんかが

仕掛けてあり、そのたび僕らは肝を冷やした。

「先週まで2年5組がこの島で過ごしてたんだろ…?いつの間にこんな罠をしかけ

たんだ…?」罠を解除しながら僕が疑問を呈した。

「この合宿って月曜日の夕方から土曜日の午前中で終わるじゃない?土曜日の午後から月曜日の午前中で次の準備でしょ?恐らくはその時に準備したんじゃないかしら…?」佐藤さんの推理が光る。

しかし、そうなると管理人の南さんがとても怪しくなってくる…

犯人は南さん?いや、1人では到底無理か…

罠と同時に、僕はカメラが無いかも十分気をつけて見ていた。

監視カメラがあれば僕らが離脱した所で、その事は敵に筒抜け…

敵に筒抜けって事は作者にも筒抜けって事だ。

しかし幸いな事に監視カメラのようなものはなさそうだった。

そうやって地道に進んでいるせいか、なかなか目的地に辿り着けない。

「日が暮れるまでに目的地に辿り着けるのかな…?」

そうつぶやいたその時…

ほんのりと辺りに甘い香りが漂う。これは香水…?

そう思ったと同時に

「ぎゃー!!!!」

つんざくような悲鳴が聞こえた。

後ろからだ。すぐさま振り向くとそこには

高橋の首を咥えた大きな獣が立っていた。

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