1日目④

 話し合いの結果、僕らは班ごとに手分けして宿舎を確認、

学級委員の大河内と1班の東雲・片桐コンビは広場を確認しに行く事に。

宿舎の探索は無駄に終わった。

食料の発見はおろか、水道が出ない事も発見してしまった。電気も付かない。

見つけた物は懐中電灯にランタン、ろうそくなど明かりとして使える物くらい。

広場の方を確認しに行った三人も無事に戻って来たようだ。

「とりあえず、広場内の罠は全て解除したと思う。」東雲が他の生徒達に説明した。

「ただ、見落としもあるかもしれないから、行動する時は慎重に。」

大河内が補足をする。

完全に日が落ちる前で良かった。真っ暗の中では逆に罠にかかりかねない。

「3人ともご苦労様。」泉さんがねぎらいかける。

東雲が泉さんに何か言おうとした所、

「あ~ん!無事で良かった東雲君!」抱きつこうとした一ノ瀬さんを

さりげなく笑顔でかわす東雲。

一ノ瀬さんがぞっこんでも、東雲には気が無いように見える。

ビジュアル的にヒロインである確率が高い一ノ瀬さん、彼女と恋愛関係に発展する者こそ主人公である可能性が高い…

ならば大河内や片桐が主人公である確率だって十分にある…

「許すまじ東雲…」田中が怨念を込めてつぶやく。

となると、田中が主人公である確率もあるのか…?

…いや、それはないか…


「ところで、こんな封筒を見つけたんだ。」

宿舎を探索していた生徒達がそれぞれ封筒を取り出した。全部で8通ある。

それぞれ班の名前が書いてある。そういえば謎の声が各班に指示を出すとか言って

いたような…

その場で全ての封筒の中身を取り出す。

そこには島の地図のようなものと、×印があった。

広場から森の中へ、それぞれが違うルートで8カ所に印がある。

食料や飲料水が隠されていると言っていたが、この×印がそうなのか?

「でも、あの放送じゃ途中に罠があるって…」他の生徒達が不安げに反応する。

「ああ、そこで提案なんだが、みんな手持ちの食料と飲み物をいったん集めたい。

それで乗り切れるようなら、わざわざ危険なゲームに乗る必要はないだろう?

とにかく最終日の迎えが来るまで乗り越えられればいいんだから、配給制にしたい

んだ…」大河内が言うと、他の生徒達がざわめきだした。

「不公平が無いように、みんなが生き延びる為だ。協力して欲しい!」

「はぁ?なんでてめらぇにオレらの食料を渡さないといけねぇんだ!?」

今まで沈黙を守っていた鬼久保がとうとう文句を言い始めた。

3班のメンバーも後ろに控えている。

「食料を持ってないやつは自業自得だろ。これからどうなるかも分からねぇのに

人を助ける為の食料なんて持ってねぇよ!」

そういえばあいつら、食い物いっぱい持ってきたとか言ってたな…

「しかし…」大河内が何かを言おうとしたが更に大声で鬼久保がまくし立てる。

「人が減りゃぁ渡さなくて済むのかねぇ?」

にやりと嫌な笑みを浮かべてぱきぽきと指を鳴らす鬼久保。

「やめておこう大河内、無駄な争いは避けるべきだ。」東雲が言う。

片桐もその隣でうなずいた。

「分かった。食べる物に関しては班ごとに対応してくれ。問題があれば相談を。」

大河内が他のみんなに声をかける。

「後、提案だが、ここに僕らがいる事を知ってもらう為にのろしをあげようかと思っている。何か火をおこせる物を持っている人はいないか?」大河内が言うと、

「さっき本田先生の荷物から見つけた。」と東雲がライターを掲げた。

「よし!後は燃やせる物だが…」

「旅のしおりなんていいんじゃないかしら?」泉さんが言う。

「そんなもん燃やしてもキャンプファイヤーとしか認識されないんじゃねぇか~?」

鬼久保がケタケタと笑い声を上げる。

「確かに…木の枝をくべて大きな火を作らないと…」素直に納得する大河内。

これは主人公の器…?

「今ここから動くのは危険だよ。明日明るくなってから森の方を探索して…」

大河内や東雲、片桐の面々は顔をつきあわせて話し合いを始めた。

「勝手にやってろよ。オレ達は飯にしようぜ!」鬼久保が自分の班のメンバーを

連れて部屋へと戻っていく。各班もそれぞれ移動して食事に入るようだ。

僕らも一息入れる事にした。


「みんなは食料持ってる?」僕は部屋の荷物を持って再び食堂に集まった

5班のメンバーに声をかけた。

「飲み物は買ったけど、食料はおやつが少しだな。」田中が言う。

「オレも少しくらいはあるよ。」高橋君。

「あるけど食べる気になんてなれないわ。」と渡辺さん。

「そうだよなぁ…」僕だって食欲なんてわかない。

そうだ、今こそあの閃きの話をしてみよう。みんなの反応が見たい。

「みんなに話があるんだけど…」

僕は自分に降りてきた「天啓」を話し始めた。

みんなは「何言ってるの…?」という顔で僕を見る。視線が痛い…

「もちろん、おかしな事を言っていると思うかもしれない。でも嘘じゃ無いんだ。

今起こっている事は物語で、僕らはモブで、これから次々と死ぬ運命なんだ…!」

僕は必死に訴えかける。

「嫌な事言うなよ…」高橋は顔を背ける。

「鈴木君疲れてるのよ…」佐藤さんは僕を心配そうに見つめた。

「田中…」僕は田中に希望の目を向ける。

「もう寝ような、鈴木。」田中は僕の肩を優しく叩いた。

やはり信じてもらえないか…

期待はしていなかったが、彼らを納得させるのには時間がかかりそうだ。

仕方が無い…今はとにかく存在を消すんだ。

実は言うと、みんなが納得しなかった場合の別の対策も考えていた。

そう、この世界の創造主である作者から、存在を認識されなければ

モブでも生き残る可能性が出てくるんじゃないだろうか…?

それに賭けるしか無い。


 部屋に戻って眠る気にもなれず。なんならこう言う時ってバラバラになってしまうと犯人の思うつぼだったりするのだ。

やはり1人より大勢で居る方が安心できるのか、他のみんなも食堂に集まって

各々話し合いをしていた。

東雲の1班、大河内の2班の面々は明日からの行動に関して相談しているのだろう。

真宮だけはスマホをいじって話を聞いていないようだが。

電波も入らないこの島でもスマホいじりが止まらないとは、相当な依存症だな…

鬼久保達は結局自室にこもってしまったようだ。

5班のみんなも各々話をしていたが、僕は1人考えに集中していた。

当面の対策としては、目立たない、存在を消す、早急な主人公の判別…

今まで読んだ本の傾向と対策をフル回転していた。

喉が渇いたので、手持ちのペットボトルの水をひと口飲んだその時、


ピンポンパンポーン


再びあの音が響き渡った。


『皆様、広場にお集まり下さい。』


 食堂にいた全員が引きつった顔を見合わせる。

また何か起こるのだろうか…?

また1人、1人と席を立ち広場へ向かう生徒達。

今向かっても大丈夫か…?

躊躇しているとぐいっと手を引っ張られた。

「何が起こっているか、確認しに行くよ鈴木君!」

やだ、男らしいッス佐藤さん…


「みんな!道は絶対にそれないで!また罠があるかもしれない!」

大河内がみんなに声をかける。もちろんそのつもりだ。

全員が来るのかと思ったが、広場に集まった中に鬼久保達3班の顔は無かった。

他にも何人か顔を見ない生徒がいた。まぁ、この状況なら仕方ないか…


「なんだあれ?」

数名の生徒が同じ方向を見ている。

集まった生徒を気にしていた僕も視線をそちらに向けた。

さっきまで何も映し出されていなかったスクリーンに

クラス全員の名前が載っていた。

そして死んだ3名の名前には線が引かれていた。


 ざわつく生徒達。

しかし、僕は別の事で心中穏やかでは無かった。

名も無いモブとしてであれば、僕は存在感を消すだけで良かった。

しかしこれは…

モブ全員把握されているやつ!!!

と言う事は、容赦なく全員が消される…!!

その時宿舎から悲鳴が上がった。

『!!』

生徒全員がその場で固まる。

「君たちはここを動かないで!僕らが見てくる!」

大河内が率先して宿舎へ向かう。その後を追う東雲と片桐。

なんという勇敢さ!なんという主人公!僕は絶対動きません!!

「ねぇ、何が起こってるの…?」佐藤さんが不安そうに寄ってきた。

うむ…近いな…と内心ドキドキする間もなく。

「死んでる!!」

そんな叫び声に再び硬直する。

「全員宿舎に戻れ!早く!!」片桐が僕らを呼びに来た。

慌てて戻る最中、スクリーンの中、線が引かれた名前が5つに増えているのを見た。


 死んでいたのは女子2名。佐々木さんと北川さん。6班の仲良し2人組だ。

状況から見ると、自室にある自分の持っていた食料を食べて死んだようだ。

「2人とも怖がって広場には行かなかったの…私もよ…」

同じ班の太田さんが玄関から外の様子を伺い、戻ってきたら2人とも血を吐いて倒れていたらしい。

「食料に毒が盛られてたのか…?」大河内がつぶやく。

「おいおい、オレらは食っちまったけど大丈夫だぞ?」

さすがの鬼久保も少し顔が青い。

最初に広場に集まった時、毒を仕込んだのか?

それとも3人が死んで混乱の中宿舎に戻ってきた時…?

とにもかくにも、僕らが持ち込んだ食料も、もしかしたら毒が盛られてるかも

しれないと言う事だ。

鬼久保達は大丈夫だったようだが、他は誰の物に仕込まれていてもおかしくない…

誰1人自分達の持ってきた食料を口にしようとする者はいなかった。

「仕方ない、明日から食料を探す事にしよう…」

ため息と共に大河内がみんなに声をかけた。

手荷物を少しでも放置したのは失敗だった…

そういやさっきこれ飲んじゃったなぁ…

僕はずっと手に握っていたペットボトルを見つめた。

もしかしたら死んでいたのは僕だったかもしれない訳で…

もうサバイバルははじまっている。

僕らモブはいつ死んでもおかしくないんだ。

これからは肌身離さず手荷物も持っておかなければいけない。

とりあえずは僕の手にあるこのペットボトルの水だけは安全である事が証明された。

モブの命の軽さを改めて実感し、僕は気を引き締めた。


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