12月14日(木) 士郎


 コロナでマシになったとはいえやっぱり朝の通勤快速は満員だ。

 ここで降りるたくさんの乗客たちに混じって電車からホームに押し出されながら士郎しろうは、きのうの子はあのあと大丈夫だったのかなと気になった。


 ホームのはしっこすれすれのところをあぶなっかしく歩いていたひとが、電車が入ってくるまさにそのタイミングで線路のがわへふらふら寄ってったもんだから考えるよりさきに駆けよって手を引っぱったのだった。

 拍子に彼女は士郎にしがみついて、ふたりのすぐよこを電車が猛スピードで通過していった。電車が残してった突風から身を守ってもらうみたいに彼女はさらにつよく士郎にしがみついた。

 肩がふるえていた。それが泣いているように思えてつい士郎はうろたえた。ちょうどやって来た女性駅員に託して士郎は帰ってしまったのだが、中途で放り出したかのようでうしろめたさがいまも残っている。


 ふるえる彼女の肩を、つよく抱きしめてあげればよかったのだろうか。士郎にしたら女心ってやつは永遠に解き得ない謎で、なにが正しい答えなんだかわからない。


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