12月9日(土) 明莉


 あおいに相談したらぜったい反対するだろうと思う。だから明莉あかりはだれにも言わずにここに来た。来たしゅんかんに後悔しはじめていたけどちょっと遅れてあらわれた和人かずとがふにゃっとくずれるような笑顔になるのを見たら、やっぱり来てよかったと思った。


 席についたとたん和人はメニューをひらいて店員を呼び止め、コーヒーとサンドウィッチを注文した。

「待って、わたしも頼むから」

「え? まだだったの?」

 と呆れた目で見て、和人はメニューを明莉にわたした。


 変わってない、と明莉はためいきをついた。いつも自分がいちばんで、他人のこと気にかけるなんて和人にはちっともできなかった。でもそんなところも好きだったのだ。


「仕事は決まったの?」

 コーヒーにミルクを落として明莉が訊く。

「そんなことよりさ、イブの予定を決めようよ。ほらイブはライブがあるからダメって言ってたじゃん、空いたんだよこれが、ライブがなくなっちゃってさ」

 目をきらきらさせて和人が言う。しゃべる合間にサンドウィッチに手を伸ばして、ひとつずつ腹におさめていく。


 ライブがなくなった理由を訊いたらいっしゅんいらっとした表情かおしたけどすぐまた陽気に話しだして、けっきょく事情は聞けなかった。明莉もそれいじょう追及はしなかった。たぶん聞いたっていいことはなにもないし。


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