12月8日(金) 士郎


 けいがぐいぐい手を引っぱってくれなかったら士郎しろうが婚活パーティに参加することはたぶんこのさきもなかっただろう。

 直前の参加希望でもすんなりコトが運んだのは圭が手をまわしてくれたおかげなのかなと士郎は思った。圭はむかしっから人と関係をむすぶのが滅法うまくて、社会に出たいまはいろんな伝手つてを築きあげ颯爽と世をわたっている。

 その才能はいまも遺憾なく発揮され、むかいの席にすわる女性ふたり組はさっきからころころとわらわされている。

 しゃべる役を圭に任せて士郎はもっぱらビールと、皿のうえのスナックを空にするため手と口を動かしていた。


「おまえな」

 と圭は注意する。女性ふたりの目のまえで。

「おれにばっかしゃべらせてんじゃねえ」と言っときながら、またすぐ自分が話しだす。「こいつ緊張してんの。初めてだからさ。まーそろそろしゃべりだすだろうから、ちょっと待ってようぜ」

 三人の視線があつまったさきで、士郎の顔はあかくなった。

「圭だって初めてじゃねえか」

 やっと出た声に、

「あれ? そういやそうだな」

 と圭が首をかしげると女性ふたりがわらってくれたので、そのあと士郎もすこしずつ話せるようになっていった。


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