091.こんなところで死んでたまるか!
すみません、お食事前、お食事中には読まない方が良いと思います。
俺は勇者の家系に生まれた。
先祖代々勇者で、みな16歳になると旅立ち、魔物のボス(場合によっては魔王)を倒してくる、という一族なので、
俺も例に漏れず16歳になったら旅立てるよう、幼い頃から鍛錬に励んできた。
そして、本日とうとう16歳の誕生日を迎えた。
父・祖父から譲り受けた装備を身に纏い、意気揚々と家を出て、まずは一番近い大都市を目指した。
我が家は勇者の家系なのに、なぜか辺境の小さな村に住んでいるため、街に行くだけでも一日がかりなので、朝、まだ薄暗い中家を出た。
見送りが誰もいないのは寂しいが、昨日盛大に壮行会を開いてもらったのだから仕方がない。
収穫間近の野菜を横目に一人寂しく歩を進めた。
すると突如、足元が崩れ、体が沈んで行くのが分かった。
これは一体……
村の近くに底なし沼があるとは聞いた事がない。
おそらく有毒ガスも発生していると思われる凄まじい悪臭に吐き気を堪えつつ、必死で這いあがろうともがいたが、装備が重く、這い上がれない。
まだ村を出てもいないのに、俺はここで死んでしまうのか…?
いや、まだだ、まだ終わらん!
爺婆は早起きなので、農作業で近くを通ることもあるだろう。
その時に大声を出して気付いてもらうんだ!
這い上がるのではなく、沈まないことを目的にした俺は、体力を使わないよう仰向けなりながらじっと助けを待った。
すると、そう経たないうちに、村で一番年長のジャック爺の声が聞こえた。
ジャック爺は長生きしてるだけあって、目が悪い。耳が遠くないのがせめてもの救いだが……
気付いてくれるだろうか……
意識が朦朧としてきたその時、突然上から大量の汚物が降ってきた。
仰向けだったので顔に直撃だ。
「はー年寄りには便所の汲み取りは堪えるわい」
待て、もしかしてここは肥溜めか!?
突然発生した毒沼じゃないのか!?
「ジャック爺!」
「んあ?旅立ったはずのアレクの声が聞こえるわい。
儂も耄碌したんかのう」
「してねえから!
大丈夫だから!
肥溜めに落ちたんだよ、助けろ!」
「肥溜めに、落ちた……?
ふぉふぉふぉ。なら諦めるんじゃな。
肥溜めに落ちたものは死んだと同じじゃ。
下手に生き残るとコエダメオとかに改名する羽目になるぞい」
「何だそりゃ!
いいから助けろ!」
その後、縄を下ろしてもらって引き上げられた後で聞いた話は、
・肥溜めに落ちると一度死んだとみなされ、改名する必要がある
・父も祖父も出発の際に肥溜めに落ちてる。
つまり、勇者=肥溜め落ち一族ということ。
なんでも、一度死んだからには何も恐れるものがなくなったってことらしい。
単にヤケになっただけじゃねーのかそれ。
あと、肥溜めに落ちてるってことはこの装備最初っから肥溜め漬けされてた装備ってことか?!
何も言わずに着せんなよ、そんなもん!
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