図書室の怪(2)
小鳥のさえずりを聞いて目を覚ます。なんてことがあれば素敵なんだろうけどこのあたりにはハトしかいない。聞き馴染んだ鳴き声で目が覚める。目覚まし要らずなのはありがたいけど、と思いながら時計を見ると針はとっくに八時を過ぎていた。
「やっば。もうこんな時間じゃん。」
学生の朝は忙しい。特に今朝のように寝坊した日は。昨日の出来事はすっかり彼方へと消え去って、慌ててベッドから跳ね起きる。急いで支度に取り掛かったあと、早足で高校へ向かった。昨日の図書室での出来事と課題のことを思い出したのはHRの後だった。
学生は昼だって忙しい。友人たちと一緒にご飯を食べて話をすることだって、高校生にとっては立派な活動の一つだ。結局一日のうちで図書室に行けるのは放課後しかなかった。部活に向かう人や流行りスイーツについて花を咲かせるグループなどを横目に通り抜けて、図書室へ向かった。
私の通う高校はかなり古い。詳しくい数字は忘れてしまった。かなり昔に建てられているからか、図書室も相応に古さを感じさせる。蔵書や机などは新しいものがあるけれど、全体的に年季が入っている。
使い勝手で言えば照明は暗く、これは図書室として致命的ではないかと思うけど取り替えられる気配はない。本を借りて家で読むことが多いからあまり気にしたことはなかったけど、探す時は不便だと毎回思う。
だから図書室にはたいてい誰もいない。入り口近くのカウンターに司書か図書委員がいるくらいだ。それもたいてい奥の事務所にこもっている。
図書室の扉に手をかけて私は今日のミッションを頭の中で確かめる。最優先は課題のための本。それが第一。次にイタズラの原因を確かめること。おそらくどこかで見ていたに違いない。
思い返せば昨日栞が挟まっていた本がある棚の周りを何周かしていた。本探しに夢中になっていたから誰かが栞を挟んだことに気が付かなかった。そういうことだろうと結論を下す。
名前だって同じ高校ならいくらでも知る方法はある。だから、何も心配することはない。とにかく周りをよく見てこのイタズラを終わらせてやろうと意を決して本を開いた。そこには昨日と同じように栞が挟んであった。
『こんにちは。昨日は突然のことで驚かせてしまいました。お力になれたらと思
ったのですが…。今日は誰も図書室を利用していないようなので、本は昨日お
教えした場所にまだ置いてあります。もしもこの栞が不気味に思われるのでし
たら、答えずに無視してくださって構いません。』
やけに丁寧な言葉遣いに、まるで私のことを待っていたかのようなセリフ。それに一日中図書室にいたかのような物言い。私はイタズラの可能性は捨ててもう一つの可能性を考えた。一旦外に出て廊下でスマホの画面を操作する。
「もしかして…あった。」
今からもう二十年以上前だろうか。この高校で一人の女子生徒が行方不明になったという事件がヒットした。当時は大変な騒ぎになったらしく、警察や学校関係者、地元住人総出で探したが結局見つけられなかったと報道されていた。もしもこの行方不明の少女が、あの栞の言葉を書いている正体だとしたら。
「いやいや、さすがにそれはないでしょ。」
自分の発想があまりにも荒唐無稽すぎて、つい口に出てしまった。放課後の校舎はほとんど人がいないから気にすることもなかったけれど。偶然…そう思いたい気持ちとは反対に、これまでのことを振り返ると逆に真実味が増すように思える。
「あの栞、なんの柄もなかったな。」
色々考えることがあるはずなのに、私の頭をよぎったのは栞のことだった。掠れた枠線があり、それ以外は全く装飾のない無地の栞。ここであることに気がついた。さっき見た文章の後半に、『答えずに』という部分があるということだ。
もしかすると答えることができるのだろうか?まさか呼びかければ出てきてくれたりして。そんな訳ないか。何か考えられそうなことは…。あ、そういえばまだあの栞の裏面を見ていない。だとすると方法として一番あり得るのは…。
私は一つの思いつきを確かめるため、シャーペンを取り出した。
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