閑話:レイチェルの場合
「本当ですの!? お父様」
第一王子ユーリウス殿下の婚約者候補に選ばれたと伝えられて、思わず椅子から立ち上がってしまった。
いけないいけない。
淑女たるもの云々、お母様にお説教されてしまうわ。
「ああ、この度は侯爵家と伯爵家から妃候補を選ぶ事になったんだが、まさかミナが選ばれるとは光栄な事だよ」
ここ数代、王族であり親族である公爵家から王子・王女の伴侶を得ていたのだけれど、近親婚が続くと弊害が危惧されるそうなの。
それで貴族家から王子殿下の花嫁を迎える運びとなったそうよ。
「嬉しいですわ! ユーリウス殿下はとっても麗しくって、何でもおできになって、そして誰にでも優しく微笑みかけられるの!」
貴族学院の同学年、同じクラスの王子様。
ああ、夢みたいだわ。
多くのご令嬢たちが、ユーリウス殿下に惹かれている。私もその一人。
でもこれで、その他大勢から一歩前進出来たのね。
上位の侯爵家令嬢が二人、候補に名を連ねているのが心配だけれど、私はクラスメイトですもの、他の方々より顔を知られているわ。
それにお父様は文部大臣。
筆頭侯爵家や大穀倉地帯の領主にだって引けを取らないはず。
でも、候補者の顔合わせの為のお茶会が王宮で催されると聞いた時に、候補者が一人増えたとも聞いたの。
え? 十歳の侯爵令嬢!?
第二王子殿下の方ではなく?
嫌だわ。なんでそんな子供が。
でも、突然の追加という事は、そのご令嬢に特別なものがあるのかもしれないわ。警戒しておくべきね。
そして当日――
麗しい殿下。
優しい殿下。
……いつもと違う怖い殿下。
放出された殿下の巨大な魔力に酔い、気が付いたら医務室のベッドの上だった。
あんなユーリウス殿下は見たことがなかったわ。
ちょっと意地の悪そうな、平気で人を見下すような……。
いいえ!
私達の適性を試すとおっしゃっていたもの。ただ、行き過ぎただけよ。
ぞくりと背筋が震えるのも、あの時の怖さを思い出しただけ。
あの、圧倒的な魔力量。
殿下は賢者様並みの魔力量をお持ちだと聞いた事があるわ。強い者に対する畏怖なのよ!
その後、お詫びを兼ねているという、ユーリウス殿下からドレスとアクセサリーの贈り物を頂いて、すっかり有頂天になってしまったわ。
だって、殿下の瞳のお色のドレスなんだもの!
――だけど。
新年、贈り物のドレスを身に着けて向かった王宮で、舞い上がっていた私は冷水を掛けられた気分に陥ったわ。
婚約者候補四人ともが同じくサファイアブルーのドレスを着ていたの。
しかも、それが王妃様発案の元だなんて、正直、とってもがっかりしたわ。
でもでも!
お妃教育だってこれからなんだもの。
淑女として楚々とした振る舞いを、更に心掛けなきゃ。私の見た目が、そうした振る舞いと合うようなのよ。
本当は、楽しかったら口を開けて笑いたいし、お庭を駆けて行きたい。
他人の悪口を遠回しに言って口撃したり、揚げ足取って嫌味を言い合うなんて全然楽しくない!
けれど、そうした事をさらりと出来ないと、社交界ではやっていけないんですって。だから頑張るわ!
殿下と同い年の私なら、もっとお近づきになれる機会が他の方々よりあるはずよ!
高等科でもどうか同じクラスになれますよう、お父様にも働きかけて頂きましょう。
そういえば、リリアーナ様は舞踏会の日、結局倒れられてしまったのね。
かなり具合が悪そうでしたもの。あの横柄な感じのお父君に、無理やり連れ出されたのかもしれませんわ。お気の毒に。
私のお父様は優しくって良かったわ。
ヴァルモア侯爵令嬢の方は、まだ芳しくないという話ね。
候補を辞退すると申し出てるそうだけれど、何故だか王家側が承諾しないのですって。
何故かしら……嫌な予感がするわ。
※『ミナ』という名は、レイチェルのミドルネームです。
++-------------------------------------------------------++
<作者より>
本日も二話投稿予定。
もう一話も閑話で、21時に投稿します。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。