第3話 第一王子の圧は強くて怖いと知った


 家族の関係は相変わらずだけど、早いもので、わたしは十歳になった。


 この年齢になると神殿で魔力検査が行われる。

 わたしも先日行ってきて、魔力量を表す数値が一から百までとされる中「七十九」で、年齢に対して魔力量が多いと感心されたわ!

 でも惜しい! あと一つで八十だったのに。

 適性のある魔法属性も多彩だと判明。家庭教師の先生の元、日々訓練中よ。

 魔法はイメージ力が大事って言うのよねー。ふっふっふ、異世界転生あるある、マンガやアニメのイメージよねーきっと。


 そして、十歳と言えば同じ年頃の子供たちを交流させる『園遊会』や『お茶会』デビュー!

 ただし、家格別に行われるから、上位貴族の集まりは公爵家から伯爵家までの子供たちとしか知り合えないっていうのよ。

 こんな小さな頃から差別化され、それを当然と育っていくのねぇ。

 格差社会の温床か!? なーんて前世で身分制度のない社会で過ごしたから不満に思うけれど、君主制で厳格な身分制度を布いている国では当たり前の区分けなんでしょうね。


 お茶会っていえば、前世でイヤーな思い出があるわね。

 ママ友の集いで、どこにでもいるマウントの天辺取りたい女がさ、ボスのように君臨して半ば強制参加させられるわけよ。

 こちとら離婚してシングルマザーだから暇なしだっていうのに、いつもそう言って断ると、やれ協調性がないだとか、そんなだとお子さんにも悪影響が出るだとかさぁ。

 わたしの他にもシングルマザーって何人かいたのよ? そのわたし達に向かって「ウチの主人はね」なぁんて自慢しだすとかなんの修行時間だよ! ってホント苦痛だったわ!


 ……ま、過ぎた事に怒ってもしょうがないわね。

 今は自分が子供で、子供が主役の『園遊会』なんだから、楽しみましょうそうしましょう。


 今回出席した『園遊会』は、王家主催の為、王宮の庭園で催され、第二王子が参加するとあって、いつもより参加人数が多いそう。


 その第二王子は兄と同い年の十三歳。反抗期なお年頃ね。

 癖のある金髪にサファイアブルーの瞳を持つ、すらりとした美少年は何かしらご不満らしく仏頂面だわ。

 あらあら、王子がそれでいいのかしら。まぁ、まだ子供だしねぇ。


 ところで王族や高位貴族は、髪や瞳の色が明るく淡い。大抵金髪で、青か緑の瞳だそうよ。

 我が家であれば、父と兄が金髪でペリドットのような淡い黄緑色の瞳、母はプラチナブロンドに青灰色の瞳ね。

 わたしは瞳の色こそ母譲りだけど、シルバーブロンド、つまり銀髪なのよ。これは母方の、いまだ会ったことのない祖父譲りらしわ。

 なんとなく曇り空っぽい配色で、「暗くて地味」と兄にニヤニヤしながら揶揄われている。ふっ、素直になれないお年頃だものね。


 あ、今頃気づいたんだけど、もしかしたら父がわたしを無視するのは、自分に似た所がないから興味を持てないのかもしれないわねぇ。

 わたしにすれば、「そんな事で」と思うけれど、高貴な血筋を残す為の婚姻をする貴族にしたら、自分に似た色のない子供は“はずれ”なのかもねー。

 知らんがな。


 さて、第二王子と同じ年の兄含む高位貴族のご令息たち五人が、令嬢たちに取り囲まれている。

 他にも男の子たちはいるんだけどねー。女の子たちのお眼鏡に適うのは王子グループだけみたいね。

 キャッキャウフフと姦しいからなのか、王子は仏頂面のまま。あらあら。

 あの子たち、見てくれはいいんだけどねぇ。


 兄と一緒に挨拶をして、少ししか話していないにもかかわらず、「おまえの妹にしては暗くて地味だし可愛げがないな」と面と向かって言ってくれやがった王子。追従する兄とお友達。

 まあまあまあまあまあ。反抗期だものねぇ。友達の妹を素直に「可愛い」なんて言えないわよねぇ。

 ええ、おばちゃんは分かってますよ。


 ベアトリスの顔は十分可愛いと思うのよ? ちょっと自画自賛かしら。

 憂い顔の美女の母と、無表情だからこそ分かる整った顔立ちのクソ親父、この二人の子供だもの、美形になるわよねぇ。

 ただ、兄とわたし、無表情だと冷たい印象を受けるかもしれないわ。ちょっと目尻が上がっているの。だから意識して微笑みを浮かべる訳だけれども。


 それに“曇り空”を払拭しようと、本日のワンピースは淡いピンク色を選んでみました。ゆるく波打つ銀髪とピンクは合うと思うのよ。

 支度をしてくれたメイドは「よくお似合いですよ」と言ってくれたし、母も「可愛いわね」と褒めてくれたわ。地味ではないはずよ!


 まあそんな経緯があったもんだから、彼らとは距離を置いて生暖かく見守っていたわけ。

 しばらくそうしていると、その少年少女たちの群れに、一際背が高いキラキラとした少年? 青年? が近づいて来たのに気づいた。

 紳士の微笑みを浮かべる青年(?)は、第二王子と顔が似ているわね。キラッキラでさらさらの金髪に、第二王子よりも明るい青の瞳。

 あらぁ、じゃあ彼が十五歳になるっていう第一王子かしらね。


 何しに来たのかしら。今日はローティーンの集いのはずだから、途中参加しまーすという訳じゃないと思うんだけど。


 まるで誘蛾灯のように、少年少女たちを惹きつけていた第一王子(仮定)をぼけーと眺めていたら、バチッと目が合っちゃった。いやん。

 第二王子と何か話していて、その背後で兄と友人たちがちらちらとこっちに視線を飛ばして来る。するとまた第一王子(仮定)と目が合った。


 何故かな、微笑を浮かべているのに目が怖い。目線に圧があるっていうのかしら。

 わたしは石になったように、そこから動けなくなっていた。


 えっ、第一王子(仮定)ってばメデューサ!?


 ――な訳もなく、光り輝く麗しの青年が、長い脚であっという間にわたしの目の前にやって来てしまったじゃないの!


「ヴァルモア侯爵令嬢、で間違いないだろうか」


 高すぎず低すぎない、耳に心地よい声音で話しかけられたわー。声までいいとか反則よぉ!

 しかし呆けている場合ではないな。

 わたしは右手でスカートを摘まみ、右脚を後ろに引いて膝を屈め、左手を胸に当ててお辞儀する。これがこの国の淑女の礼。


「お初にお目にかかります、ベアトリス・ラナ・ヴァルモアにございます」


「顔を上げて良いよ、ヴァルモア嬢。わたしは第一王子のユーリウス・シオン・ゼクト=ガルディアスだ」


 やっぱり第一王子だった!

 新聞の写真やニュース映像でしか見た事がなかったけれど、実物の方がずっと迫力のある美形でした。

 だけど、ううっ。

 震える脚を励まして、ゆっくりと姿勢を戻す。だって頭上からすんごい威圧が掛かってるの! ご尊顔を見上げられないじゃなーい。


 そうそう、魔力量が多い人は漏れ出る魔力が威圧となるって家庭教師の先生が言ってたわ。まさにそれ。

 もう本能が「こいつはヤバイ!」って怖がってるのよ。


「園遊会に出席するほど元気に見えるけれど、どこか不調を抱えていたりするのかな?」


 ――ん? どういう意味?

 なんとなく、嫌味に聞こえるんだけど……初対面だよね? さっき確認されていたし、わたしが何かしたはずないと思うんだけど……はっ、まさか兄!?


「いえ、わたくしは健康にございます」


「うん、そうだろうね」


 いやいやいや、本当に何事!?

 伏せた視線で兄を探す。あ、あの靴は兄だわ。割と近くまで来てくれてたみたい。なんだかんだ言っても、可愛い妹が心配だったのね?


「今日は誰と来たのかな?」


「はい、母と、兄、でございます」


「そうか」


 ふっと威圧感が薄れた。たぶん、視線を逸らされたのね。はぁ、と深呼吸。

 ようやく顔を上げると、そこで兄と視線が合った。


「あの! 第一王子殿下、妹が何かのでしょうか」


 おい! き き か た !

 わたしが何かする前提で聞くなよ。頼むよ。


「ああ、バルディオス君の妹だったね」


 第二王子の学友である兄の顔は知ってたようね。


「ちょっと別室で話そうか。アンリ、彼らを借りていくよ」


 アンリ? あ、そうか、第二王子のミドルネームだ。

 サーフェス・アンリ・ゼクト=ガルディアス、それが第二王子のフルネームだったわよね。


 第一王子は斜め後方に目配せすると、心得た侍従が一人、すっと立ち去っていく。部屋の準備とかするんだろうな。

 有無を言わせず、わたしと兄はそのまま第一王子の近侍と騎士たちに囲まれ、ドナドナされたのでした。


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