第2話 主人公、異世界設定を語る
転生して何が良かったって、ガルディアス王国は生活環境が実に便利でびっくりしたのよね。
国の端々まで道が整備され、魔導車が交通の主な手段で、馬車ではないので馬が往来を闊歩せず馬糞公害がない。
上下水道はもちろん完備。トイレは水洗、浄化槽も魔法で処理されていて衛生的。
各家にシャワーやお風呂があり、ちゃんと入浴習慣もあるのよ。
中世ヨーロッパ的な世界観だと、お風呂に入らないし、糞尿垂れ流しでとにかく臭くて、匂いを誤魔化すために香水を振りまき香害になってるとかあるじゃない?
日本人には無理だわよねぇ、そういうの。だからほんっとうに良かったと思ったわ!
それから家電のような便利な魔導具があって、これらを動かす動力は電気じゃなく魔力。
道具に付いている魔石に魔力を充填することで動かせるのよ。
冷蔵庫や冷凍庫があり、ガスコンロならぬ魔導コンロに、食洗器まである。
スイッチ一つで済む洗濯機ならぬ衣類洗浄機は、クリーン魔法で水を使わない洗濯方法だし、何故かシワも伸びるという便利さ!
掃除はモップで一拭きすると、あら不思議、埃と共に汚れまで落としてくれてピカピカに。
それら、前の世界で欲しかったわぁ。
こちらの人達は大なり小なり魔力を持っているから、小さな魔導具を扱うくらいなら少ない魔力でも問題ないのね。
ただ、冷蔵庫や空調設備なんかの大きな魔導具の場合は、魔石も大きいから専門業者に魔力を注入してもらうそうよ。
もちろん、魔力量の多い貴族は自ら充填出来るしね。
邸のあらゆる魔導具の魔石に魔力を充填する作業は、わたしもお手伝いしているの。
これも訓練の一環で、魔力が体内を巡る感覚を掴むという基本を体に覚えさせる為なんだって。
家計費の節約の為って訳じゃないのよぉ? たぶんね。
とにかく魔法ありきの世界だわ。
貴族は自らが魔法を扱うけど、庶民は魔力が少なく魔法を発動出来ない事もあって、“
前世のゲーム世界みたいね。
あ、でもわたし、ゲームとかで遊んだ事がほぼないわ。
子供たちが遊んでいるのを脇から眺めていたくらいかしら。
“異世界転生モノ”の定番、何らかのゲームや物語の世界に転生~! なんてあるのかしらねぇ。
わたしが読んでたラノベや漫画で該当しそうなものは、今の所ないわね。
あと、前世の知識を生かして無双!……はする余地ないでしょ。
食べ物は美味しいし、貴族の衣装だって普段はドレスやテールコートじゃないし。
女性のスカートは膝下丈で、男性の外出着はフロックコートのようなスーツよ。
もちろん夜会や舞踏会にはイブニングドレス(ロングドレス)を着用するけれど、スカートを釣り鐘型に膨らませるなんて旧時代的なものはなく、母の舞踏会用のドレスとか、ニュース映像で見る限り、地球の現代にも通じるようなタイトなシルエットが主流のようだったわ。
何より
近代的で嬉しかったんだけど、国の体制的には昔風、君主制国家で身分制度があるわ。
王が国を統治し、各領地を貴族が治めるの。
王家と、臣籍降下した王族が興した公爵家までを『王族』とし、貴族の頂点は『侯爵家』。
伯爵家までは上級貴族で、子爵家・男爵家が下級貴族。ここまでが家の持つ爵位を血筋に継承出来る貴族家。
更にその下位の準貴族では、準男爵・騎士爵があって、これらは個人の爵位で血筋に継承されない。
あと、これは魔法ありきの国ならではなのか、魔法で功績を上げた者が得られる『魔法士爵』があるの。こちらも個人の爵位だって。
こういったあれこれを、幼児特有の“なぜなぜ期”で訊いたりしていたので、変わった子供だと思われてたみたいだわぁ。
とにかく情報が欲しかったんだもん。文字を覚えて本や新聞も読みたかったし、かなり頑張って五歳頃には難しい言い回しや言葉以外は理解出来るようになったものよ。
おかげで「お嬢様は神童」とか言われたりしたけれど、その他に「神の恩寵があるのでは?」とも言われたの。
なんだそれって思うでしょ?
これを言い出したのは父方の祖父。
「ひとつ、おたずねしてもよいですか?」って訊いたわよねー。
でも聞いてびっくり!
“神の恩寵”っていうのは、まさに
えー? 生まれ変わる時に神様とかに会った覚えはないけどなぁ。
それにさぁ、こんなに便利な世界で、前職:百貨店の販売員でしかないおばちゃんには、国の役に立つ知識なんてないわよぉ!
もうさ、医学だって治癒魔法や回復魔法も込みで発達しているのよ。
そのおかげか、平均寿命が八十~八十五歳だっていうんだから、日本と遜色ないもの。
ただ、この世界の時間は地球より長いのよ!
百秒で一分。百分で一時間。一日は二十五時間で、十日間で一週間。五週間で一か月、一年は十か月で巡る。
つまり、日本と同じ位な平均寿命と言っても、こちらの人の方が少し長寿かな~てとこ。
成人年齢も似た感じ。
十六歳が準成人として社交界デビュー出来るの。この年から夜会や舞踏会にも参加可能。
こうして徐々に大人の世界に親しんで、十八歳で成人を迎えるわけよ。
教育関係では、貴族は入学の義務がある貴族学院に十三歳になる年に入学するの。
十三歳から十五歳が初等科。十六歳から十八歳が高等科で卒業して成人に。
日本で例えれば、小学校時代は家庭学習なんだよね。わたしも現在、家庭教師に教えてもらってまーす。
そうそう、“異世界転生モノあるある”で、ご飯が不味いのは定番だったけど、硬くて酸っぱい黒パンはないから。
長期保存食としてのパンはあるのかって訊いたら、『乾パン』でしたー。
でも米はなさそう。
いや、ラノベなんかじゃ、実は家畜の飼料に使われてました、なんて展開もあるし、まだ望みがない訳じゃないわよね?
ただ、まだ子供のわたしがそれらを探しに行くなんて無理だから、将来の楽しみって事にしておくわ。
だってねぇ、醤油や味噌らしき調味料はあるんだもん。希望はあると思うのよぉ。
いつだったか厨房にこっそり潜り込んで、あれ何、これないの? とか料理人たちを質問攻めにして、メイドに速やかに回収された過去があるわね。
その節はご迷惑をおかけしました。
えーと、後ない物って言ったらネット位じゃない?
いやいやいや、わたしには創り出すのは無理だから。
魔導通信機とか、映像込みで話せる魔導具が貴族家には一家に一台あるっていうけど、通話だけならスマホくらいの携帯端末もあるし、これらを作った人に頑張って欲しいものです。
ホント、過去の転生者たちのおかげで、今とっても快適に過ごせてます。どうもありがとう、地球の人。
----------------------------------------------------------------------------
※本文中に世界観の説明を入れられたら良かったんですが、今回敢えて一話分を説明回として書きました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。