第15話『すっ、スイーツぅぅう!』


 やらかした、やらかしちゃった!?


 新作絶品スイーツの誘惑に負けて気が付けば王妃殿下に一本釣りされておりました……すいません。


 いやいやいや、王子殿下の学友とか私には荷が重いんだってばよ!


 聞くところによると王子殿下はかなり神経質になっていらっしゃるらしい。


 頑張ってはいるものの、成績が思うように伸びずまた同年代のご令息やご令嬢と比べると少しだけ身長が小さいらしく、その事実が痛く殿下のプライドを傷つけれしまったらしい。


「アルノルフが自信をなくしてから暫く立つけれど、自分から挨拶に行ったのは貴女が初めてなのよ……」


 私の椅子まで素早く移動し、その場にしゃがむと懇願するようにうるうるとした目で見上げる王妃殿下にウッと言葉に詰まる。


「王妃としてではなくひとりの母親としてお願いします、婚約者となってくれれば嬉しいけれど、リンドブルク公爵が睨んでいますからそこまでは望みません……あの子の友となってくれないかしら?」


 そう懇願がんされても困る……非常に困る!


 こちとら元奴隷なのだ、テオドール様に喋らず短時間であればかろうじてご令嬢だと取り繕えると言われたものの、王子殿下相手に無言は無理!


「フランシス父様……」


 よし、保護者に丸投げしよう! 子供が、対処できないときに対応するのが保護者の役目!


 さぁ父様、私のこの無理だという潤んだ視線を受け取ってください!


「……」


 潤るうるうるうる……


 私の視線からそっと目を離しやがりましたねお父様!?


「……婚約は承認いたしかねますがよろしいですね陛下?」 


「あぁ構わない!」


 私の王城通いが確定した瞬間だった。


 のー!


 それからというもの、私の王城通いが始まるよりも先にアルノルフ殿下のリンドブルク公爵邸通いが始まった。


 まぁ原因は私なんですけどね、なんだかんだと理由をつけて王城へ上がるのを先延ばしにした結果、慌てたパメラが寝ていた私をたたき起こしにきたのだ。


 なんでもすでにアルノルフ王子殿下がリンドブルク公爵邸の応接室で待っているとかで、来訪を知らせる早馬が到着の一時間前にやって来たらしい。


 しかも今日はフランシス父様は国王陛下にお呼び出しを受けて王城へ行っているため、アルノルフ王子殿下へ面会のお断りすることが出来なかったらしい。


 完全に計画的犯行ですよねコレ!


 急ぎ寝間着からワンピースへ着替えを済ませて、ちょちょいとお菓子で小腹を満たして殿下を待たせている応接室へ向かう。


「おまたせして申し訳ございません王太子殿下、ようこそリンドブルク公爵邸へ」 


 歓迎しているわけではないけれど、相手は王族なので当たり障りない挨拶をする。


 既にお茶とお菓子は用意してあったようでアルノルフ王太子殿下は上座で優雅に紅茶を嗜まれていた。


「やぁグレタ嬢! なかなか会いに来てくれないから我慢できず私から来てしまったよ」


 爽やかに言っておりますが、嫌味ですか? ねぇ嫌味ですよね!?


「おほほ、王太子殿下に足を運ばせてしまい申し訳ございません、ところで本日はどのような御用で当家にお越しに? あいにく父は王城へと上がっているため不在なのですが」


「実は母上からグレタ嬢へ届けるようにと“コレ”を預かってきたのだよ」


 そう言って後ろで控えていた騎士から籠を受け取ると、籠の上に掛けられていた刺繍の施された布を外した。


「王城の専属菓子職人の最新作スイーツだ」


 なっ!?


「サクサクのパイ生地を何層にも積み重ね、間にカスタードクリームが挟まっている逸品」


「王太子殿下! いつでもリンドブルク公爵邸にいらしてください!」


 えっ、現金だって? 絶品スイーツにまさる物はないのですよ!


 はぅぅう! スイーツゥー!


「……本当に菓子で簡単に連れたぞ、流石母上……」


 ポソリとアルノルフ王子殿下が何か言った気がするけれど、素敵なプレゼントを用意して来るなんてさすが王子様だわ!


「パメラ! 天気もいいし、庭園にお茶の用意をお願いできるかしら」

 

 私の勢いに若干アルノルフ王子殿下が引いている気がするけど無視よ無視!


 お菓子、お菓子!ひゃっふー!


「お嬢様、お客様の前ですよ……落ち着いてくださいませ?」


 言葉は丁寧だし顔は微笑んでいるけれど、パメラが怒っている!?


「はっはい! 失礼致しました」


 ひとりでワタワタしている私ね姿が面白かったのか、冷静になって周りを見渡せばアルノルフ殿下の護衛として同行してきた三名の騎士様は笑いを堪えるのに苦労しているようだ。


 うっひゃー、恥ずかしい……


 顔中が熱を持っているので多分顔が真っ赤になっているだろう。


「アレ?そう言えばテオドール様は?」


「テオドール様でしたらフランシス様とご一緒に王城へ上がられておりますよ」


 まさかのダブルで留守中に来たのですかい王子様……わたしひとりでお客様のお相手をしなければならないなのに、既に暗雲が立ち込めているのは気のせい……だと、思いたい!


 そうこうしている間に応接室へやって来たリズがパメラへ何かを告げるとパメラが私へ耳打ちした。


「お嬢様、庭園のあずま屋におもてなしの準備が整いました」


 さすがパメラと公爵家の使用人の皆様、突然の来客にもこの対応が出来るのが素敵です!


「王太子殿下、我が家自慢の庭へご案内いたしますね!」


    

 

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