第14話『言質……取られました』

そう言えば労働奴隷として鉱山から鉱夫奴隷によって掘り出された鉱石を運び出す仕事をさせられていた時に、坑道の奥から滲む嫌な気配を感じた記憶があったのを思い出した。


 気持ち悪くて坑道に入りたくないと拒否した私は奴隷商人様にむち打ちを受けた。


 その二日後……鉱夫たちが次々と倒れ、死亡する事故が発生したのだ。


 今思えばあの嫌な気配は鉱山で発生した毒ガスだったのだと思う。

 

 その事故からというもの、私は毒ガスを発見するための、前世で言うカナリアのような扱いを受けることになった。


 他の奴隷には見えないし臭わない有毒ガスがなんとなくでも感じ取れ、身体が小さい私は先行させて安全かどうか確認させるのにもってこいだったし、売りに出せない子供の奴隷の命は貴族のペットとして人気のカナリアよりも安かったのだから……


 三つにテーブル分けされたカップのうちグレーゾーンの物はやはり所々に即死にはいたらない程度の毒性を持つ物が大半を占めていた。


 びっくりしたのがその中にカップを汚れた布巾で拭いた物まであったことだ。


 そうして問題の薄い白っぽい霞が掛かっていたものだが、これらは特に何も印はつけられておらず、飲んでも問題ないものとして用意されたものだったらしい。


 実際に陛下の毒味をしている使用人がのんでみたものの、直ぐに倒れたり体調を崩す者は居なかった。


「これではっきりしたな、グレタ嬢はリンドブルク公爵家の血筋を引く令嬢で間違いない」


「だから申し上げましたでしょう、実の娘だと」 


 うんうんと納得している陛下にフランシス父様が同意する。


「なぜそう言い切れるですか?」


 不思議そうに告げる王妃殿下の質問に私とテオドール様の視線がフランシス父様に集まった。


「我がリンドブルク公爵家は昔から直感が鋭いところがあるんだよ、首元に痣があるだろう?」


 そう言われて私は自分の首の痣があるだろう場所を指で撫でる。


「痣の色や形が鮮明であればあるほど、害意等を感じ取れる感度は上がるんだ」


「父様もなのですか?」


「グレタのように危険度がわかるわけではないかな、自分に害があるか無いかくらいしかわからないし、その原因がなにかもわからない……なんか変だぞ? くらいだな」


 いや、なんか変だぞ、でここまでわかるのは凄いと思うのですが……   


 この勘の良さ?はリンドブルク公爵家に痣とともに脈々と受け継がれているらしい。


「そこで相談なんだが」


「お断りいたします!」


 陛下の発言に食い気味で不可宣言を発したフランシス父様よ、不敬罪にならないの? ねぇ?


「まだ何も言っておらんじゃろうが」


「聞かなくても碌でもない話なのはわかります!」   


 フランシス父様と陛下が揉めている姿にハァ~とため息を吐いた王妃殿下がこちらへにこやかに話しかけてくる。


「グレタ嬢はお菓子はお好きかしら?」


「はい!王妃殿下、今日のお茶会のお菓子も今ご馳走になっているお菓子もとても美味しいですね」


「ふふふっ、でしょう? 今日は、作りなれているお菓子を中心に用意したのだけれど、城にいる専属の菓子職人が探究心旺盛で、今日出したお菓子以上の絶品新作スイーツがお城では出てくるのよ」


 ぜっ、絶品スイーツ!


 今私が食べているケーキもくどすぎない甘さで、柑橘系の香りが爽やかな物だ。


 これ以上の絶品スイーツ……


 ゴクンと生唾を飲み込んだ。


 リンドブルク公爵邸に引き取られてから私はスイーツの魅力にスッカリと魅入られてしまっている。


 具がほとんど入っていないスープに浸さなければ到底噛み切れないような石みたいに硬い黴びたパンしか食べてこなかった私にとって公爵邸で出される食事はまさに天国だった。


 特に食事の合間にあるお茶の時間に用意されるお菓子に夢中だ。


 最近ではお菓子を食べすぎてしまい夕食が食べれない事態になってお菓子を制限されてしまったため余計に恋しい。


 もしかしてだけど、探究心旺盛な王城専属の菓子職人ならプリンとかゼリーとかアイスとか生クリームとかチョコレートケーキとか作って貰えるんじゃない!?


 めくるめくお菓子によるお菓子の為のお菓子の楽園を想像し、呆けていた私は王妃殿下お話を聞き逃してしまっていた。

 

「だからねグレタちゃん、お菓子を沢山の準備して私と一緒にお茶会を楽しみましょう?」


「はい喜んで!」 


「ちょっと待った!」


 ついうっかり同意してしまった私にフランシス父様とテオドール様が待ったをかける。


 えっ、絶品スイーツが食べられるお茶会に、参加しちゃだめなの!?


「全く油断も隙もありませんね」 


「お前なぁ、もう少し警戒心というものを持てないのか?」


「警戒心ですか、お父様とテオドール様がご一緒のときも必要ですか?」


 二人を見れば同時に頷かれてしまった。


「いま自分が何に対して了承の言質を取られたのか理解しているのか?」


 テオドール様にげんなりとした様子で言われて私は首を傾げる。


「王妃殿下のお茶会のご招待です!」


 両手を胸の前で、握りしめハキハキと答えた途端、テオドール様に頭を抱えられた。


「違う、王子殿下と一緒に勉強する件とその後に王妃殿下とお茶会だ!」


 はい? うぇぇぇえ!?

  

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