第13話『間違い探し』


 暗殺者の乱入によりお茶会は可及的速やかに解散となった。


 警備が厳重なはずの王城で白昼堂々と暗殺者が現れたのだ、しかも王太子であるアルノルフ王子を狙って……


 この事態に急遽陛下主催の狩猟会へ参加していた親たちが呼び戻され、お茶会へ参加していた子息令嬢は速やかに親元へ返された。


 ……私達を除いて……


「グレタ、無事で良かった! テオドール、グレタを守ってくれてありがとう……怪我はないか?」


 庭園に来るなりガバッと私を抱き上げたフランシス父様が私とテオドール様の怪我の有無を確認している。


「リンドブルク公爵、今回の件でお話を伺いたいと国王陛下と王妃殿下が別室でお待ちです。 事情聴取も一緒に行いますのでグレタ公爵令嬢並びにテオドール小公爵もご同行いただきたい」


 そう言って私達へ頭を下げたのは筋骨隆々なおじ様だった。


「グレタは初めて合うね、彼はこの国の騎士団長グレッグ・ファッチ侯爵だ」


「初めましてファッチ侯爵様、リンドブルク公爵の娘グレタです」


 フランシス父様に床へと降ろしてもらい、ファッチ騎士団長のお顔を見たあとでゆっくりと礼をする。


 もちろん胸の前に手を添える方、目上の方へする礼をしましたよ! 


「はじめまして小さなお嬢様、この度は君の機転のおかげで犠牲者が出ずに済みました。 騎士団長として感謝を」


 私と視線が合うように片膝をつくとファッチ騎士団長が頭を下げてくれた。


 こんな小娘にも頭を下げてくれるファッチ騎士団長の紳士っぷりには脱帽です。


 ファッチ騎士団長の後ろに追従する形で案内されたのは王族たちの居住区にある小広間だった。 


「グレッグ、リンドブルク公爵一行の案内ご苦労だったな……リンドブルク公爵、そして小公爵と令嬢、こちらへ座りなさい」


 陛下からねぎらいの言葉に軽く会釈したファッチ騎士団長は慣れたようで陛下と王妃殿下の背後に周り直立した。


 陛下の言葉に従い、フランシス父様とテオドール様が示された長椅子へと腰掛ける。


 どこに座れば良いのかわからずに悩んでいると、フランシス父様がテオドール様と反対側の長椅子をポンポンと示してくれた。


 フランシス父様を真ん中に挟むようにして私が着席したのを確認し、侍女が数人がかりで私達の前に紅茶の入った揃いのティーカップを並べていく。


 なんてことはない、高級な白磁のカップとソーサーのセットなんだけど……


 いや、何人前よこれ、いくらなんでも並べすぎでしょ!


 ……長方形のテーブルの上いっぱいに置かれたセットの数にフランシス父様は笑顔を引き攣らせているし、テオドール様は驚いている。


 紅茶が黒く霞んで見えるもの、カップの持ち手が霞んで見えるもの、カップの縁やソーサーの一部に霞が掛かっているもの……霞の濃淡の差もあってもバリエーションが半端ないな。


「陛下……これは新しいもてなしの作法ですか?」

 

 フランシス父様は底冷えするような笑顔を浮かべて、数あるカップの群れから黒い霞が存在しない物を選んでテオドール様と私の前に置く。

 

「まぁそう怒るでない、済まないがグレタ嬢……この中から私達が飲んでも差し支えないものを選んでくれるか?」


 国王陛下に頼まれたものの、これどうしたらいいのかな?


 困ってフランシス父様を見上げれば頷かれたので一切霞が掛かっていない物を選んで先程カップ並べに参加しておらず、手や服に霞が付着していない侍女を指名して運んでもらった。


「申し訳ございません、これ一つだけです」


「ひとつだと?」


 私の発言に陛下と王妃殿下が驚いている。


「はい、後は父様が選んだものですね」


 まぁ白に近い薄い霞が掛かっているものもあるけれど、全く霞がないものはこのいっぱいだけだ。


「済まないが残りのカップを仕分けしてもらえるだろうか」


 陛下言葉に従い、わかりやすい真っ黒な霞から省いていく。


 真っ黒な霞が付着していた物を集めたテーブル、薄いほぼ白い霞が付着していた物を集めたテーブル、そして一番多いグレーゾーンの物……


 簡易的な机を三つ用意してもらい私が指示した机へとカップを並べていた侍女達に運び分けてもらった。


 陛下とフランシス父様の間にある机には、霞がないティーカップセットのみが残されたので私は席に戻り、紅茶に口をつける。


「仕分けたカップを確認しろ!」


 ファッチ騎士団長が騎士達に指示を出してカップの中身を、用意してあった壺に捨ててはカップを裏返していく。

 

 私が仕分けしたことで空いたテーブルへと霞がない美味しそうな茶菓子が運ばれてきたので、私はついつい見入ってしまった。


「どれが食べたい?」


「えっと、この果物が乗っている菓子が食べたいです!」


 そう告げるとフランシス父様がお菓子を取皿へ取って私の前へと置いてくれる。


「頑張ったな、好きなだけ食べなさい」  


 頭を撫でられながら褒められたので嬉しい。


 前は自分の方へ誰かの手が迫ってくるだけでも恐怖に頭を庇ってその場で防御姿勢を取ってしまう有様だった。


 しかし今ではフランシス父様やテオドール様、パメラを始めとした一部のリンドブルク公爵邸に勤める使用人に限定し、その拒絶反応は出なくなってきている。


 お菓子をすくったフォークを口に運べば上品なカスタードクリームの甘さと果物の酸味が合わさってまさに絶品だった。


「次はどれにする?」


「これが食べたいです!」  


「陛下確認が終わりました」


 三つ目のお菓子に突入する頃、確認作業が全て完了したらしい。


「ご報告いたします、まず右端のテーブルに乗っていたカップの裏には全て即死となりうる毒物を示す印がカップの裏にありました」


 うわぁーお、あの真っ黒な霞は致死毒だったのか、怖っ!

  


   

     

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