第6話 『オカン属性だとっ!?』


「グレタ?」


 背後から名前を呼ばれて振り返る。


 訓練場へ続く邸宅の扉から執事を伴ったフランシス様が、こちらへやってくるところだった。


「フランシス様、おはようございます」


「あぁ、おはよう……もう熱は下がったのか?」


 こちらへやってきたフランシス様に挨拶をすると、当たり前のようにヒョイっと私を抱き上げて私の額に自分の額を当ててくる。


「よしよし熱はないな、顔色も良い」


 うんうんと、満足そうに頷くフランシス様の様子にテオドール様が呆れる。


「養父上(ちちうえ)、グレタがどう反応していいのか、わからずに混乱してますよ」


 テオドール様の言葉に、フランシス様は心外だと唇を尖らせた。


 見た目が若々しいためか、見苦しいどころかルックスの甘さも加わり父親のはずなのに可愛く見  える……


 むしろこうしてテオドール様とフランシス様が並ぶと、兄弟でも通りそうだ。


「愛娘と再会できて浮かれるのはわからなくもないけど、グレタは十二歳……にしては身体こそちいさいが、社交界デビューしていても不思議ではない年齢なので、程々にしないと嫌われても知りませんよ?」


 テオドール様の言葉にフランシス様が慌てて私を地面に降ろす。


 そして私と視線を合わせるようにしてしゃがみ込んだ。

 

「すっ、すまないグレタ! 私はお前が心配だっただけで、もし……い、嫌ならばもうしない」


  必死の形相で言い募る姿は、まさにこれから死地へ赴く戦士のようだった。


「嫌ではありません……むしろ……その、これまで誰かにこうしたことをしてもらったことがなくて……くすぐったいです」


「くっ、可愛すぎないか私の娘は!?」


 そうして何かに耐えるように手を彷徨わせているフランシス様に、私から両手をのばす。


「グレタ!」


 ガシッと両脇を掴まれてヒョイっと私を抱き上げて、その場でぐるぐると回り始めた。


「うひゃーーーー!」


 グルングルンと回されてだんだんと目が回ってくる。


「げっ!そんな勢いで回したら危ない!」


「きゃーお嬢様!」


 目が回ってグルングルンとしている私を、テオドール様が助け出してくれた。


「て、おどるさ……ま、ありがとう……ございます」


 目が回りすぎて舌まで回らなくなってしまった。


「養父上(ちちうえ)!」


 テオドール様は私をパメラに引き渡すと、フランシス様に詰め寄りコンコンと説教を始めてしまった。


 なんだろう、私の中のテオドール様のイメージがガラガラと音を立てて崩壊していくのだが……


 クールで冷静で、どこか心に闇を抱えているワイルドな主人公テオドール様が、失敗をした幼子にコンコンと説教する母親に見えるのはどういうこと!?


 ロールプレイングゲーム『グラシアル英雄伝』の世界に転生したはずだよね、もしかして似ているだけで違うのだろうか……


 うーんうーんとクラクラする頭を悩ませていると、どうやらフランシス様が降参だと言わんばかりに両手を上げて見せる。


「わかったよテオドール、すまないすまない。 ところでグレタ、何の話をしていたんだ?」


 テオドールの小言を逸らすように話しを換えようとフランシス様がこちらへと声を掛けてくる。


「フランシス様! 私長剣を持ってみたいのです! 出来れば自分の身は自分で守れるようになりたいです!」 

  

 この世界が本当に『グラシアル英雄伝』の世界なのか怪しいものだけれど、これから先もし本当にここがゲームの世界なら……自衛手段は確保しておきたい。


 たしか、テオドールの仲間の中にはヒロインのエステル王女に仕える女性騎士も居たはずなので、女性が剣術や護身術を習ってはいけないと言うことはなかったはずだ。


「う~ん、自衛手段を持つことは良いことだから問題ない」


「本当ですか!?」


「ただ、今は駄目だ」


 まさかの駄目出しにがっくりと肩が落ちる。


 期待させて喜ばせておいてから否定するなんて酷いと思います!


「今のお前に必要なのは休養と食事だ、沢山食べて身体に肉を付けろ、話はそれからだ」


 グリグリと頭を撫でられる。


 テオドール様もフランシス様も私の頭をグリグリと撫でるのはなぜだろう。


「そんなぁ~!」


「さぁ姫様! 邸宅へ戻ってお茶にいたしましょう?」


「私の長剣がぁー!」


 有無を言わさずパメラは笑顔で私を引きずっていく。


「のぉーーーー!」    

     


 

 

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